第62話 揺れる諸国
告発が外へ出て三日。
最初に揺れたのはアストラだった。
商会はざわつき、ギルドは確認に走り、学術区では王国式召喚術に関する資料が一斉に洗い直された。
そして五日目には、その波が他国へ届いた。
「早いな」
倉庫で報告書を読みながら、俺は呟く。
サニアが肩をすくめた。
「王国がデカい国だからだよ。デカい国の不祥事は、それだけでみんなの商売に響く」
北方の小国は、王国の召喚術が軍事転用されていることに抗議を出したらしい。
南方の海洋国家は、中立地帯への秘密施設設置を問題視した。
亜人国家群では、獣人や亜人が“素材”扱いされていた証言に強い反発が起きているという。
「やっとだ」
玲奈が息を吐く。
「少しは広がった」
「でも、まだ揺れただけよ」
美咲さんが言う。
「王国そのものが崩れたわけじゃない」
その通りだ。
実際、王国はすぐに反論を出してきた。
証拠は捏造。
証言は敵国に扇動された虚偽。
禁術施設は存在せず、旧神殿や廃鉱区の件も盗賊による破壊工作――。
「苦しいな」
俺が言う。
「苦しくても押し通す気なんでしょうね」
フィリアが冷たく返す。
「国家ってそういうものよ」
ただ、今回は以前と違う。
こちらには資料だけじゃなく、生存者と現物がある。
しかも王国の説明には無理が出始めていた。
「亜人連盟から照会が来てる」
サニアが別の紙を差し出す。
「廃鉱区から救出された者の一部を、自国側で保護したいってさ」
「いい話ですね」
玲奈が言う。
「少なくとも、生き残った人たちの行き先になる」
「うん」
ルナも頷く。
「ここより安心な人もいる」
諸国は揺れている。
まだ王国を断罪するほどではない。
でも、王国の言葉をそのまま信じる空気でもなくなった。
「これで少しは、王国も派手に動きにくくなるか」
俺が言うと、美咲さんは静かに答えた。
「ええ。でも、逆に焦るはずよ」
それが厄介だった。
追い詰められた王国は、次に何をするか分からない。
揺れる諸国の中で、一番危険なのはたぶん、まだ王国自身だった。




