第61話 告発の一手
反撃の狼煙を上げると決めた翌日から、アストラの倉庫は戦場になった。
剣や魔法の戦場じゃない。
紙と証言と、人の足で動く戦場だ。
「この証言は写本を三部。商会連合、ギルド連盟、学術評議会に別便で回す」
サニアが机を叩く。
「こっちは術式解析の要約を添えるわ」
フィリアが羊皮紙を束ねる。
「専門用語ばかりだと握り潰される前に読まれないもの」
救出した人々の証言も整理されていた。
廃鉱区で何をされたか。誰がいたか。どんな術式が使われていたか。
生々しい。だからこそ強い。
「……本当に出すんだな」
俺が呟くと、美咲さんが静かに頷いた。
「ええ。もう隠しておける段階じゃない」
「王国は絶対に否定しますよ」
玲奈が言う。
「捏造だとか、敵国の工作だとか」
「だから一か所じゃなく、同時に流すのよ」
フィリアが答える。
「潰す前に広がればいい」
王国は力がある。
だが、中立都市と諸国すべての口を一斉に塞げるほどではない。
「先輩」
玲奈が俺を見る。
「最初の名前、誰名義で出しますか」
少し考えてから、俺は答えた。
「無職の旗だ」
「……やっぱり?」
「王国が切った名前で、王国を告発する。それでいい」
ルナが小さく頷く。
「うん。それ、いい」
美咲さんも、少しだけ微笑んだ。
「皮肉としては満点ね」
昼過ぎには最初の伝令が走った。
夕方には商会筋の早馬も出た。
夜には学術区から別ルートの密書が流れた。
もう止められない。
王国の禁術、召喚改造、精神補正、廃鉱区の人身利用。
それら全部を束ねた告発文が、アストラから外へ放たれていく。
「これで戻れなくなったな」
俺が言うと、サニアは鼻で笑った。
「今さら何言ってんだい」
その通りだった。
もう俺たちは、逃げるだけの立場じゃない。
王国に対して、明確に告発という一手を打ったのだ。




