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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第2章 無職、冒険者になる

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第6話 無職の冒険者

翌朝、俺はガレスに連れられて王都を離れた。


 目指すのは、王都から半日ほどの場所にある地方町ラドス。王都に近いが、王都ほど目立たず、旅人や駆け出し冒険者も多いらしい。


 石畳の街道を歩きながら、ガレスは最低限のことだけ教えてくれた。


「ギルドじゃ依頼を受けて金を稼ぐ。だが、それだけじゃねえ」

「身分証代わり、でしたっけ」

「そうだ。所属証がありゃ、宿も借りやすい。門も通りやすい。逆に何もなけりゃ、浮浪者扱いだ」


 今の俺に必要なのは、まさにそれだった。

 金だけじゃない。この世界で“生きる枠”がほしい。


 昼前に着いたラドスは、王都に比べればかなり小さい町だった。だが活気はある。荷馬車が行き交い、商人が声を張り上げ、革鎧姿の男女が普通に道を歩いている。


「あれがギルドだ」


 ガレスが顎をしゃくった先には、酒場を兼ねたような二階建ての建物があった。

 扉を開くと、途端にざわめきと酒と汗の匂いが押し寄せる。


 視線が集まった。


 知らない顔の若い男。しかも服装もどこか場違い。

 それだけで目立つには十分だった。


「ガレス、帰ってたのか」

「珍しいな、若いの連れて」

「また拾い物?」


 飛んでくる声に、ガレスは片手を上げるだけで返す。


「うるせえ。受付空いてるか」

「今なら空いてるよ」


 カウンターの向こうにいた女性がこちらへ視線を向けた。

 二十代後半くらいだろうか。栗色の髪を後ろで束ねた、きびきびした雰囲気の人だ。


「新規登録?」

「ああ」

「じゃあこっちへ」


 促されてカウンターへ向かう。

 女性は慣れた手つきで紙束を取り出した。


「冒険者ギルド・ラドス支部へようこそ。私は受付のマリナです。まず名前、出身、年齢、得意分野を」

「相沢恒一、です。年齢は二十五。出身は……遠方で」


 異世界日本です、とはさすがに言えない。


 マリナさんは少しだけ眉を上げたが、追及はしなかった。


「得意分野は?」

「……まだ、はっきりとは」

「戦闘、採集、運搬、護衛、何でもいいわ」

「戦闘……寄り、だと思います」

「思います?」


 疑問形になってしまった。

 自分でも情けない。


 ガレスが横から口を挟む。


「昨日、盗賊崩れ二人を追い払ってた。筋は悪くねえ」

「へえ」


 周囲から小さなどよめきが起こる。

 視線が少し変わった。


 マリナさんは次に、小さな水晶板のようなものを出した。


「じゃあ簡易鑑定をするわ。手を置いて」


 ぎくりとした。


 王城でのことが脳裏をよぎる。

 また何も出なかったら。この町でも気味悪がられるのか。


 けれど避けては通れない。

 意を決して手を置く。


 水晶板は、しばらく淡く光ったあと、中央に文字を浮かべた。


 職業:――


 空白。


 場が静まる。


「え……?」

「なんだそれ」

「文字が出てねえぞ」


 耳に刺さる囁き。

 マリナさんも初めて見るものに当たったような顔をした。


「……故障、ではなさそうね」

「ですよね」

「ええ」


 沈黙が落ちる。


 まただ。

 また俺だけが、普通じゃないものとして見られる。


 だが王城の時と違うのは、ここにいる連中が王族でも騎士でもないことだ。

 ざわつきはあるが、即座に排除しようという空気ではなかった。むしろ野次馬的な好奇心の方が強い。


「登録、できませんか」

 俺は先に聞いた。


 マリナさんは少し考え、ガレスを見た。

 ガレスは肩をすくめる。


「最低限、自分の面倒は見られる」

「保証人にはなってくれる?」

「雑用三日分でな」

「安いわね」

「高くても払えねえだろ、こいつは」


 その通りだ。


 マリナさんはため息をついて、用紙へ何かを書き込んだ。


「……いいわ。仮登録にしておく」

「本当ですか」

「ただし最低ランク。危険な依頼は回せないし、問題を起こしたら即除名。それでもいい?」

「十分です」


 胸の奥で、少しだけ力が抜けた。


 登録証代わりの木札を渡される。

 それは思った以上に軽かったが、俺にとっては異世界で初めて手にした“居場所の証”だった。


「ランクは最下位の灰札。最初は採集や雑用が中心ね」

「はい」

「あと、もう一つ」


 マリナさんは少しだけ声を潜めた。


「職業欄が空白なんて、普通じゃない。変に目立つ行動はしない方がいいわ」

「……肝に銘じます」


 忠告に悪意はなかった。


 登録が終わると、周囲の冒険者たちが好き勝手言い始める。


「無職の冒険者かよ」

「そんなので食っていけんのか?」

「珍獣扱いで見世物になら売れるんじゃねえか?」


 笑い声が上がる。


 腹は立つ。

 でも、ここで噛みついても何も変わらない。


 握りかけた拳を、ゆっくり開いた。


「気にすんな」

 ガレスが言う。

「冒険者は口が悪い。特に、自分より下が来ると安心する連中はな」

「励まし方が雑すぎませんか」

「優しい慰めがほしいなら王都の教会にでも行け」


 俺は苦笑した。

 少しだけ、肩の力が抜ける。


「さて」

 マリナさんが掲示板を指した。

「仮登録の新米に回せるのはこの辺ね。薬草採集、荷物運び、家畜探し……」

「おすすめは?」

「生きたいなら薬草採集。稼ぎたいなら荷物運び。慣れたいなら雑用」


 俺は少し考えてから、採集依頼の紙を取った。


 危険が少なく、周辺地理も覚えられる。

 今の俺にはそれが一番重要だ。


「これにします」

「賢明ね」


 依頼書を受け取り、木札を握りしめる。


 笑われようが、無職と蔑まれようが、ここから積み上げるしかない。


 王国にとって俺が不要だったとしても、俺まで自分を不要だと思うわけにはいかなかった。


「よし」


 小さく呟く。


 無職の冒険者。

 響きはひどいものだ。けれど今は、それでいい。


 まずは生きる。

 全部はそこからだ。

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