第57話 奪われた人々
交戦は避けられなかった。
玲奈の矢が先制し、ルナが側面から突っ込み、俺と美咲さんが中央を抑える。だが敵の数が多い。しかも施設防衛に特化しているらしく、連携が固い。
その最中、奥の檻区画に気づいたのはルナだった。
「コーイチ! あっち!」
視線を向けると、金属格子の向こうに人影が見えた。
最初は囚人かと思った。
だが違う。
並んでいたのは、痩せた子供や若い男女、獣人、亜人、人間。服装はばらばらだが、共通しているのは目の虚ろさだった。
「……何だよ、これ」
俺の声が低くなる。
術者の一人が叫ぶ。
「素材区画へ近づかせるな!」
素材。
その単語だけで、怒りが沸騰した。
こいつら、召喚だけじゃない。人を材料として扱っている。
「美咲さん!」
「分かってる!」
結界が広がり、檻前の兵を一瞬止める。俺はその隙に突っ込み、格子を固定していた錠前を叩き斬った。
開いた扉の向こう、近くにいた少女がびくりと身を引く。
「大丈夫だ」
俺はできるだけ抑えた声で言う。
「助けに来た」
だが、その目には怯えしかない。
無理もない。
ここにいた時間が長すぎたのだろう。
「玲奈! 後ろ!」
ルナの叫びで振り返る。
敵兵が回り込んできていた。
俺は咄嗟に腕を掴む。流れ込むのは拘束術と制圧技能。嫌な感覚だが、今は使う。関節を逆に取り、そのまま床へ叩きつける。
「みんな、動ける人から外へ!」
玲奈が叫ぶ。
「出口はこっちです!」
だが全員が動けるわけじゃない。衰弱している者も多い。
美咲さんがその場で回復術を展開する。
淡い光が広がり、倒れていた数人がようやく顔を上げた。
「ありがとう……」
掠れた声が聞こえる。
それだけで十分だった。
「ルナ! 担げる人は頼む!」
「うん!」
この施設は、王国の禁術研究のためだけじゃない。
人を奪い、閉じ込め、試験していた。
職業定着、適合率、界外接続。全部の裏に、奪われた人々がいる。
俺たちは証拠だけでなく、この現実そのものを持ち帰らなければならない。




