第51話 無職の旗、動く
アストラに拠点を置いてから、無職の旗は少しずつ形になり始めていた。
最初は流れ者の寄り合いだった。王国に居場所を奪われた商人、種族差別から逃れてきた獣人、国を追われた腕利き、行き場をなくした研究者。どれも大きな勢力じゃない。だが、だからこそ王国のやり方に敏感だった。
「人、増えた」
倉庫の入口でルナが言う。
「増えたな」
俺も頷く。
中ではサニアが商人相手に怒鳴り、フィリアが術式板を並べ、美咲さんは怪我人を診ていた。玲奈は新しく来た獣人の子供に弓の持ち方を教えている。
雑多だ。統一感もない。
でも、ただの逃亡集団ではなくなってきている。
「相沢」
サニアが帳簿を片手に寄ってくる。
「例の件、まとまりそうだよ」
「例の件?」
「王国の商路を避けた独自輸送路さ。乗ってくる商人が増えた」
それは大きかった。
王国が裏で交易を荒らしている以上、そこを避ける流れができれば、王国の影響力は削れる。
「完全に敵対ですね」
玲奈が苦笑する。
「今さらだろ」
俺が返すと、玲奈も「ですよね」と笑った。
美咲さんが診療を終えてこちらへ来る。
「王国の被害を受けた人たち、思った以上に多いわね」
「表に出てないだけでな」
「だから、ここに集まる」
無職の旗。
王国に切られた無職の名を、そのまま掲げた小さな拠点。
けれど今は、ただの皮肉じゃない。
王国に捨てられた者たちが、自分の足で立つための旗印になり始めていた。
「コーイチ」
ルナが袖を引く。
「これ、もう動いてる」
「……そうだな」
まだ小さい。弱い。危うい。
それでも、もう止まってはいなかった。




