第50話 美咲の告白
その夜、倉庫の屋根の上で風に当たっていた俺のところへ、美咲さんが来た。
「ここ、好きね」
「静かなんで」
「確かに」
少し離れた場所に座る。
アストラの灯りは遠く、王都ほど整っていない。その雑多さが、今は少し落ち着く。
「相沢さん」
「はい」
「この前の答え、今すぐじゃなくていいって言ったけど……少しだけ続きがあるの」
真面目な声だった。
俺も姿勢を正す。
「私があなたを好きだって言ったの、本当」
「……はい」
「でも、それだけじゃない」
風が少し強く吹いた。
「たぶん私は、あなたに救われていたの」
「俺が?」
「ええ。会社でも、異世界に来てからも」
美咲さんは夜空を見たまま続ける。
「私は昔から、ちゃんとしてるように見られた。失敗しないように、迷惑をかけないようにって、ずっとそうしてきた」
「そんな感じはありましたね」
「でも、あなたはそういう私を、たまに少しだけ緩めてくれたの」
そんなつもりはなかった。
でも、彼女にはそうだったらしい。
「あの日、あなたが追放されて、私は初めて自分が“ちゃんとしてるだけ”だったって思い知った」
「……」
「守りたい人を守れなかったから」
言葉が重い。
軽々しく返せない。
「だから今ここにいるのは、後悔もある。でも、それだけじゃなくて……今度はちゃんと、自分の意志であなたの隣にいたいから」
前にも似た言葉は聞いた。
でも今夜のそれは、もっと静かで、もっと深かった。
「相沢さん」
「はい」
「私はあなたを支えたい。恋愛としても、仲間としても、どちらでもいいなんて言わない」
そこで美咲さんは、初めてまっすぐ俺を見た。
「私は、あなたのことが好き」
夜風が止まった気がした。
言葉が出ない。
こんな状況で、こんなに真っ直ぐ言われるとは思っていなかった。
「……困ります?」
少しだけ困ったように笑う。
「正直、かなり」
「でしょうね」
でも、その表情は少し柔らかかった。
俺は少し考えてから、ゆっくり言う。
「俺、まだ全部整理できてません」
「うん」
「美咲さんにも玲奈にも、まだ怒ってるところはあります」
「当然よ」
「でも……嫌じゃないです」
「え?」
「その、言ってもらえたこと」
自分でもかなり言いづらい。
「嬉しくないわけじゃない」
美咲さんの目が少しだけ見開かれて、それからふっと和らいだ。
「十分よ」
「十分なんですか」
「今のあなたからそれ以上を引き出そうとしたら、嫌われそうだもの」
「否定できないです」
少しだけ笑い合う。
その空気が、思っていたよりずっと自然で、少し救われた。
王国のこと。戦いのこと。証拠のこと。全部まだ終わっていない。
むしろここからが本番だ。
でもその前に、今だけは一つだけ確かだった。
俺たちはもう、ただの元同僚じゃない。
戦いの中で、ちゃんと自分の意志を持って、同じ側に立っている。
そのことが、何より大きかった。
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