第45話 禁術の証拠
術者の一人がこちらに気づいた瞬間、ルナが飛び出した。
「行く!」
小柄な身体が一気に間合いを詰める。最初に声を上げた術者の鳩尾へ蹴りが入り、男が机ごと吹き飛んだ。
「侵入者だ!」
「資料を守れ!」
守らせるか。
「玲奈!」
「はい!」
放たれた矢が灯りを落とし、部屋の視界が乱れる。俺はその隙に机へ飛び込み、散乱した書類を掴んだ。
触れた紙から、微かに術式の感触が伝わる。
職業定着補助。
精神補正。
適合率向上。
禁忌指定外部閲覧不可。
黒だ。
「相沢さん、こっちも!」
美咲さんが木箱の中身を見つける。
中には水晶板と記録媒体、それから小型の陣図石が入っていた。
「持てるだけ持つ!」
「うん!」
だが相手も必死だ。
奥から護衛役らしき男が二人飛び出してきた。軽装だが動きは速い。正規兵じゃない。処理専門の実働部隊だ。
一人が短剣で斬り込んでくる。
俺は腕で流しながら手首へ触れる。潜入、殺傷、制圧。嫌な技能ばかりが流れ込む。
でも使える。
軌道をずらし、肘を逆に取って壁へ叩きつける。
「ぐっ……!」
もう一人はルナへ向かったが、ルナは低く潜って足を払った。床へ崩れたところへ美咲さんの拘束光が巻きつく。
「今のうちに!」
彼女の声。
玲奈がさらに矢を放つ。術者が詠唱に入る前に、紙束の上へ矢が突き立ち、机ごとひっくり返した。
「これ、全部燃やされたら終わりです!」
「なら先に奪う!」
俺は木箱ごと抱えた。
重い。だが今はそんなことを言っていられない。
その時、部屋の奥の祭壇跡が赤く光り出した。
「……何だ?」
俺が息を呑む。
フィリアの解析図で見た召喚補助陣に似ている。
術者の一人が叫んだ。
「起動させろ! 証拠を残すな!」
「やばい!」
玲奈が声を上げる。
陣が暴走しかけていた。証拠を消すための焼却か、あるいは自壊式か。
「撤収!」
俺が叫ぶ。
「証拠は取った! ここはもう保たない!」
ルナが先に通路へ走る。
美咲さんと玲奈も続く。俺は最後に振り返り、祭壇の光を見た。
そこには、俺たちを召喚した時と似た白い輝きと、歪んだ黒い亀裂が混ざっていた。
あれはまともな術じゃない。
神殿を飛び出した直後、地下から爆音が響いた。
旧神殿の一部が崩れ、夜空へ砂煙が舞い上がる。
「はぁ……っ」
玲奈が息を切らす。
「危なすぎる……」
俺も肩で息をしながら、抱えていた木箱を下ろした。
中には、王国が隠したかったものが詰まっている。
召喚術の改造記録。
職業付与の補助式。
精神補正の痕跡。
そして俺たちの管理資料。
「これで……」
美咲さんが震える声で言う。
「言い逃れはできないわね」
俺は頷いた。
ようやく手に入れた。
王国の禁術の証拠を。




