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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第6章 禁術の証拠

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第41話 空白の器(改編)

アストラの夜は遅い。


倉庫の一角に集まった面々が帰った後も、俺は一人で木箱に腰掛けていた。薄暗い室内には、酒と鉄と埃の匂いが残っている。


無職の旗。


半分は冗談みたいに出た名前だった。けれど今は、その言葉が妙に胸に残っていた。

王国に捨てられた無職。

それが俺だったはずだ。

でも、今は違う。

少なくとも、ただ捨てられたままで終わるつもりはない。


「まだ起きてるの?」


振り向くと、フィリアが書板を抱えて立っていた。相変わらず無遠慮な目だ。


「研究者って夜型なんですね」

「あなたを観察したいだけよ」


さらっと言われると腹も立たない。

フィリアは向かいの箱へ腰掛けると、何枚かの羊皮紙を広げた。


「この前の話の続き。あなたの力について、少し整理できたわ」

「ぜひ聞きたいですね」

「ええ。結論から言うと、あなたは“職業を持たない”んじゃない」

「……」

「正確には、“固定の職業枠を持たない”」


その言い方に、思わず身を乗り出す。


「枠がない?」

「普通の人間は、生まれつき魂に職業の座があるの。そこに一つの役割が定着する。剣士なら剣士、治癒師なら治癒師。多少の派生はあっても、基本は一つの器に一つの職よ」


フィリアはそこで、俺を見る。


「でもあなたには、その“座”が見えない。代わりに、空の器みたいなものがある」

「空の、器」

「ええ。だから固定されない。だから他人の職能断片が入り込む」


王城で言われた“空白”。

それは無価値の意味じゃなかったのかもしれない。

ただ、空いていただけ。


「それって……異常なんですか」

「異常も異常よ。少なくとも私は記録で見たことがない」


ですよね、としか返せない。

フィリアは羊皮紙の一枚を指で叩いた。


「ただし、理屈は通る。職業とは本来、魂に刻まれた役割の固定化。その固定がないなら、逆に他の役割を一時的に受け入れられる」

「俺の力は、やっぱりコピーに近い?」

「コピーというより、“受容と蓄積”ね。奪ってるわけじゃない。相手の職業そのものを剥がしてるなら、もっと大騒ぎになってる」


そこは少し安心した。

奪っているわけではない。

少なくとも、今のところは。


「問題は容量よ」

「容量?」

「器なら、当然限界があるかもしれないでしょう」


その一言で、背筋がひやりとした。

確かに考えたことはあった。触れて、写して、積み重ねる。その先に何があるかは、まだ分からない。


「入りすぎたら、どうなるんですか」

「分からない」

「そこは分からないんだ」

「前例がないって何度言わせるの」


フィリアは呆れたように肩をすくめた。


「でも一つだけ言える。あなたのそれは、ただの戦闘向け技能じゃない。職業という仕組みそのものの外側にいる」

「王国が気味悪がるわけだ」

「ええ。しかも、もしそれを制御できれば……」


そこで言葉を切る。


「できれば?」

「職業社会そのものへの干渉が可能になるかもしれない」


冗談みたいな話だった。

でも、冗談とも言い切れない。

王国が俺を捨て、そして回収しようとした理由としては十分すぎる。

その時、倉庫の扉がきしんで開いた。

ルナだった。眠そうな顔のまま、こっちへ歩いてくる。


「まだやってる」

「お前こそ起きてたのか」

「コーイチいないと、少し気になる」


そう言って俺の隣に座る。距離が近い。

フィリアが面白そうに目を細めた。


「なるほど。観察対象の周辺環境も賑やかね」

「余計なお世話です」

「褒めてるのよ」


絶対違う。

ルナはフィリアをじっと見てから、俺に聞く。


「何かわかった?」

「ああ。俺の力、たぶん“職業なし”じゃない」

「うん」

「“空っぽだから入る”らしい」

「……コーイチっぽい」

「どういう意味だよ」

「なんでも入れそう」


ひどい。否定しづらいけど。

フィリアがふっと笑う。


「いい名前が必要ね」

「名前?」

「その力の。無職とか空白とか、王国側の呼び方じゃなくて」


俺は少し考える。

空っぽの器。

固定されない器。

他人の役割を受け入れる、空位の座。


「……空位の器」

「悪くないわね」

 フィリアが頷く。

「少なくとも、本質には近い」


ルナも小さく頷いた。


「うん。コーイチの力、それ」


空位の器。

誰にも与えられなかった名前を、今ようやく自分で持てた気がした。

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