第40話 無職の旗
アストラでの数日で、少しずつ人が繋がり始めた。
サニアの商会からは追加の小口依頼が回るようになり、ギルドでも“王国絡みでも仕事をこなす連中”として覚えられ始めた。フィリアは召喚術の断片資料を持ち込み、代わりに俺の力の観察を続けている。
さらに、サニア経由で王国に居場所を奪われた商人や、獣人差別から流れてきた者たちとも接点ができた。
追われている者。
切り捨てられた者。
どこにも属せない者。
そんな連中が、少しずつこの宿の一角や、借りた小さな倉庫へ出入りするようになった。
「増えたね」
ルナが倉庫の隅で呟く。
「そうだな」
「にぎやか」
「面倒も増えたけどな」
笑いながらそう返した時、サニアが酒瓶片手に近づいてきた。
「あんたら、変な集まりになってきたね」
「そう見えますか」
「見えるとも。王国に睨まれてる無職の男を中心に、流れ者や厄介者が寄ってきてる」
ひどい言い方だが、だいたい合っている。
「名前でもつけたらどうだい」
「名前?」
「こういうのは旗印があった方が人は集まるよ」
俺が言葉に詰まっていると、近くで酒を飲んでいた情報屋風の男が笑った。
「無職の旗、ってのはどうだ?」
「は?」
「王国が無職だ無能だって切った男のところに、行き場のない連中が集まってる。皮肉が利いてて悪くねえ」
周囲に小さな笑いが広がる。
無職の旗。
馬鹿にしているようで、でも不思議としっくりきた。
「悪くないですね」
玲奈が笑う。
「むしろいいかも」
「うん」
ルナも頷く。
「コーイチっぽい」
「どこがだよ」
「追い出されたところ」
そこは否定できない。
美咲さんが静かに微笑む。
「少なくとも、もう“ただ逃げてるだけの集まり”じゃないわね」
その言葉に、俺は倉庫の扉の外を見た。アストラの雑多な灯りが遠くに揺れている。
追放された無職。
王国にとっては失敗作だった男。
でも今、その周りには少しずつ人が集まり始めている。
大きな勢力じゃない。
立派な組織でもない。
ただ、行き場のない連中が寄り合って、明日を繋ごうとしているだけだ。
それでも、旗にはなる。
「……無職の旗、か」
俺は小さく呟く。
「悪くない」
誰かが笑い、誰かが酒を掲げる。
倉庫の中に、少しだけ熱が広がった。
王国は俺を切り捨てた。
ならその先で、自分たちの居場所くらいは自分で作る。
もう逃げるだけじゃ終わらせない。
次はこっちから、王国の嘘を暴いてやる。
そう静かに誓いながら、俺は小さな宴のざわめきを聞いていた。




