第37話 王国の手紙
フィリアと接触したその日の夕方、宿へ戻ると受付が妙に気まずそうな顔をしていた。
「相沢さん、手紙が来てます」
「またか」
嫌な予感しかしない。
受け取った封書には、王国の紋章こそないものの、文面は明らかに王国側の手によるものだった。内容は簡潔だった。
相沢恒一は、召喚の恩恵に嫉妬して暴走した危険人物であり、朝倉美咲・篠宮玲奈の両名は扇動・連行された被害者である――。
「最悪ですね」
玲奈が吐き捨てる。
「私たち、脅されてることにされてる」
「予想通りだな」
俺は紙を畳んだ。
「王国からすれば、その方が都合がいい」
さらに問題なのは、この手紙が“各所に回っている”ことだった。ギルド、商会、宿、検問所。つまり王国は、俺たちを中立地帯でも危険人物として認識させようとしている。
「先手を打ってきたわね」
美咲さんが眉をひそめる。
「こちらが証拠を出す前に、印象だけでも固めたいのよ」
「神崎先輩っぽいですね……」
玲奈が苦い顔をする。
宿の食堂へ降りると、すでに何人かがこちらを見ていた。露骨じゃないが、警戒と好奇心が混じっている。
王国の情報操作は、思った以上に効いていた。
「面倒だな」
俺が呟くと、ルナがすぐ返す。
「前から面倒」
「それはそう」
ただ、違うのは規模だ。ラドスでは“無職の変わり者”程度だった。今は“王国が名指しで警戒する危険人物”だ。放っておいても噂は広がる。
「だからこそ、証拠が必要ね」
美咲さんが言う。
「王国の言葉より強いもの」
「現場ごと暴くしかないか」
俺は小さく呟いた。
王国が印象操作をしてくるなら、こちらは真実そのものを叩きつけるしかない。面倒だが、やることは少しずつ見えてきていた。




