第36話 古代術解析師
サニアの依頼を終えた翌日、俺は情報を探してアストラの学術区へ足を運んだ。古い書庫、道具屋、術式研究所のような建物が集まる一角で、街の喧騒とはまた違う空気がある。
「難しそうなにおい」
ルナがぼそっと言う。
「分かる」
「先輩、完全に場違いですよね」
玲奈まで言う。
「お前らな……」
そんなやり取りをしていた時だった。
「ちょっと、そこのあなた」
背後から声が飛んだ。
振り返ると、エルフの女が立っていた。長い銀髪、細い眼鏡、年齢不詳の整った顔。だが何より目が妙に鋭い。
「あなた、変ね」
「初対面でそれはどうなんですか」
「事実よ」
言い切られた。
「普通の職業持ちなら、魂の層に職痕が一つ、あるいはせいぜい二、三重に見える。でもあなた、空白なのに、複数の職痕が薄く重なってる」
「……」
「しかも全部、定着の仕方が変」
背筋が冷えた。
この女、見えている。
俺が黙ったままでいると、彼女は少しだけ口元を上げた。
「自己紹介がまだだったわね。フィリア。古代術解析師よ」
古代術解析師。
聞いただけで面倒そうな職業だった。
「あなたのそれ、システムの外側にある感じがするの」
「システム?」
「職業という仕組みそのもののことよ」
周囲の人目もある。こんな場所で深く話す内容じゃない。
俺が警戒しているのを見て取ったのか、フィリアは肩をすくめた。
「安心して。大声で言いふらしたりはしないわ。むしろ興味があるの」
「研究対象として?」
「ええ、最高に」
笑顔で言うな。
それでも、彼女がただの変人ではなく、本当に何か知っているのは分かった。王国の召喚術や職業システムに踏み込める相手は貴重だ。
「条件があります」
俺は言う。
「俺のことを勝手に外へ流さないこと」
「いいわ。その代わり、私の知っている召喚術関連の断片も共有する」
「……乗ります」
フィリアは満足そうに頷いた。
「話が早いのは好きよ。あなた、本当に面白いわね。欠陥じゃない。むしろ、枠がない」
その言葉は妙に残った。
職業なしじゃない。枠がない。
もしそうなら、王国の鑑定で空白だったことにも意味があるのかもしれない。
アストラに来て初めて、俺たちは“力の正体”に近づけるかもしれない相手と出会った。




