第34話 居場所の値段
アストラで一晩過ごして、最初に思い知ったのは金の減り方だった。
「……やばいな」
朝、宿代と食費を計算して思わず呟く。
ラドスでは何とか持っていた銀貨も、アストラでは驚くほど減る。物価が高い。安全にも、情報にも、まともな部屋にも金がかかる。
「なくなる?」
ルナが覗き込む。
「このままだとすぐだな」
「じゃあ稼ぐ」
「そのために来たんだ」
俺たちはアストラの冒険者ギルドへ向かった。建物はラドス支部よりずっと大きく、依頼の種類も幅広い。討伐だけでなく、護衛、輸送、調査、仲介、商談の警護まである。
受付で確認すると、ラドスの登録はそのまま有効だった。ただし、低ランク扱いなのは変わらない。
「実績がなければ高報酬依頼は回せません」
受付嬢は事務的に言う。
「王国絡みの問題を持ち込む場合、保証金が必要です」
「王国絡みって分かるものなんですか」
「最近、増えてますので」
嫌な話だった。
掲示板を見ても、低ランク向けは報酬が低すぎる。高報酬依頼は信用が足りない。
「中間がないわね」
美咲さんが言う。
「信用を金に換える街なんだろうな」
俺は答える。
「実績がない奴には安い仕事しか来ない」
その時、少し離れた場所で怒鳴り声がした。
「だから護衛が足りないって言ってるだろう!」
「条件が悪すぎるんだよ、旦那」
「報酬は追加する!」
「王国筋の襲撃があり得る荷なんて、割に合わねえ」
思わずそちらを見る。揉めていたのは、恰幅のいい女商人と受付係、それに数人の冒険者だった。派手な装いだが、目つきが鋭い。場数を踏んだ人間の顔だ。
その女が、こちらと目を合わせた。
「……あんたら、外から来た口だね」
「そうですけど」
「腕は?」
「そこそこ」
「信用は?」
「ない」
「正直でいい」
女商人はにやりと笑った。
「なら、ちょうどいい。私はサニア。荷運び兼護衛を探してる。王国絡みの横槍が入るかもしれないから、嫌がる連中ばかりでね」
「報酬次第では」
俺が答えると、サニアは指を三本立てた。
「銀貨三十。成功なら追加で十」
「……破格ですね」
「その代わり、面倒も破格だよ」
王国製の装備をつけた連中が最近、交易路で襲撃を繰り返しているという。表向きは盗賊だが、動きが妙に統制されているらしい。
俺たちは顔を見合わせる。
金が必要だ。
実績も必要だ。
そして何より、王国の影を探るには悪くない依頼だった。
「受けます」
俺が言うと、サニアは満足そうに頷いた。
「話が早い。じゃあ、あんたらがこの街で生きるための最初の値段を払ってもらおうか」
居場所の値段は安くない。だが、払うしかなかった。




