第33話 自由都市アストラ
アストラが見えたのは翌日の昼過ぎだった。丘を越えた先に、高い外壁と、内側に詰め込まれた無数の建物が広がっている。王都とは違う種類の熱気が、遠目にも伝わってきた。
「でかいな……」
「うん」
ルナも珍しく目を丸くしている。
「におい、いっぱい」
「獣人も多いわね」
美咲さんが門前の列を見て言う。
確かに、人間だけじゃない。獣人、耳の長いエルフ、角を持つ亜人まで普通に列に並んでいる。王国では考えにくい光景だ。
検問は意外なほどあっさりしていた。名前、滞在目的、武装の確認。門番はルナを見ても特に驚かず、簡易滞在札の説明だけをして通してくれた。
門をくぐった瞬間、街の喧騒が一気に押し寄せる。露店の呼び声、鉄を打つ音、香辛料の匂い、聞き取れない言語のざわめき。人の多さに目が回りそうだった。
「王都より、見られてる感じは少ないですね」
玲奈が小さく言う。
「その代わり、誰も助けてもくれなさそうだけど」
「たぶん、その通りだな」
まずは宿を探したが、現実は厳しかった。安宿はどこも混んでいるか、治安が悪すぎる。中程度の宿は高い。結局、裏通り寄りの狭い宿で二部屋をようやく確保した。
「高い」
ルナが真顔で言う。
「高いな」
「でも屋根ある」
「それは大事だ」
荷を下ろし、窓の外を見ながら美咲さんが息を吐く。
「王国の外に出たって、やっと実感した」
「俺もだ」
だが、中立都市は楽園じゃない。ここでは、王国の庇護の代わりに、自分の価値を示さなければ生きていけない。
「まずは情報だな」
俺は言う。
「王国がどこまで手を回してるか、この街で何ができるか、仕事はあるか」
「お金も」
ルナが付け足す。
「それもな」
追放された無職が、王国から逃れてたどり着いた自由都市。みじめな話のはずなのに、不思議と今はそう思わなかった。ここからなら、何かを作れるかもしれない。そんな予感があった。




