第32話 それぞれの本音
その夜は、森を抜けた先の古い野営地跡に泊まった。石で囲った焚火跡が残っており、風を避ける岩場もある。こういう場所を自然に選べるようになった自分に、少しだけ苦笑する。
簡単な食事を終えたあと、しばらくは火の音だけが響いていた。沈黙を破ったのは、美咲さんだった。
「……ちゃんと、言っておきたいことがあるの」
火の向こうで、その表情はひどく静かだった。
「前にも少し言ったけど、あの日のことだけじゃなくて、その前から。会社にいた頃から、あなたのことが気になっていたの」
「美咲さん……」
「気づいてないと思うけど、相沢さんって昔から、人の間に立つことが多かったでしょう。損な役回りも多かった。でも、誰かが困ってると放っておけなかった」
俺は返事をしなかった。否定したところで、たぶん見透かされる。
「だから、あの日、何もできなかった自分が許せなかった。私は、あなたを守れなかった」
美咲さんは目を伏せる。
「それでも今、今度こそ隣に立ちたいと思ってる。後悔だけじゃない。たぶん、ずっと前からそうだった」
告白だった。真っ直ぐで、逃げ道のない言葉だった。
その空気を引き継ぐように、玲奈が膝を抱えて口を開く。
「ずるいです」
「玲奈?」
「私だって言おうと思ってたのに」
玲奈は赤くなりながら、でも俺から目を逸らさなかった。
「私も先輩のこと好きでした。最初は頼れる先輩だなってだけだったけど、気づいたら、それじゃ済まなくなってた」
「……おい」
「最後まで聞いてください」
勢いのまま言っているようで、その声は震えていた。
「異世界に来て、先輩だけ追い出されて、何もできなかった自分が本当に嫌でした。今もまだ、自分が許せてません。でも、それでも私は先輩の隣にいたいです。今度は、自分で選んで」
重い。正直、かなり重い。
横からルナが俺の顔を覗き込んだ。
「コーイチ、困ってる」
「そりゃ困るだろ」
「うん。ちょっと面白い」
「お前な……」
少しだけ空気が緩む。それでも、誤魔化したくはなかった。
「……ありがとう」
まずそれだけは言う。
「二人とも、ちゃんと伝えてくれてありがとう。でも、今すぐ答えを返せる状態じゃない。あの日のことも、今の状況も、まだ整理できてない」
「うん。それでいい」
美咲さんは穏やかに頷いた。
「そういうの、ずるいですよね」
玲奈が苦笑する。
「大人だなあ」
すると今度はルナが小さく言った。
「ルナは、コーイチといる」
「知ってる」
「好きとか、まだよくわからない。でも、一緒にいたい」
「……」
「だから、他の二人がいても、ルナはここにいる」
飾らない言葉だった。だからこそ強かった。
火が揺れる。追われる立場で、明日もどうなるか分からない。それでも今、こうして本音を言い合えているのは不思議だった。
答えはまだ出ない。けれど少なくとも、俺はもう一人じゃなかった。




