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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第4章 再会、そして抹殺命令

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第29話 勝たない勝負

俺たちはラドスの外れまで走り抜け、街道脇の低い林へ飛び込んだ。


だが追手はまだ来る。

王国騎士団は想像以上に粘るし、索敵役もいる。ここでただ逃げるだけではいずれ追いつかれる。


「コーイチ」

 ルナが短く言う。

「止める?」

「ああ。全部じゃない、追う気を削る」

「了解」


美咲さんもすぐに意図を理解した。


「討伐隊の要を潰すのね」

「神崎はまだ来てない。でもこの編成なら、術者と索敵役を崩せば動きが鈍る」

「私と玲奈で援護する」

「頼みます」


林の地形は悪くない。

草木が多く、視界が切れる。大人数の連携には不向きだ。


追手の気配が近づく。

騎士四、魔術師二、索敵役一、捕縛役一、そして大雅。さっきの広場で見た陣容だ。


「行くぞ」


最初に動いたのは玲奈だった。

木の枝の間を抜ける矢が、索敵役の頭上すれすれを通る。


「上だ!」

「精霊弓姫!」


視線が上へ向く。

だが本命はそこじゃない。

ルナが地面すれすれを駆け、左の魔術師へ飛び込む。


術の詠唱に入る寸前、懐へ潜り込まれた魔術師は対応が遅れた。


「な……!」

「遅い」


鳩尾への一撃。魔術師が崩れる。

もう一人が慌てて詠唱を変える。

そこへ俺が突っ込む。


近づけば危険。

でも近づかなければ捕まる。


放たれた風刃を横へ飛んで避け、腕へ触れる。

流れ込む。魔力の流し方、簡易詠唱、属性の偏り。


全部は扱えない。

だが、相手の次の術の癖くらいは読める。


再詠唱のタイミングに合わせて踏み込み、手首を払う。

詠唱が乱れた。


「しまっ……!」

「悪いな」


そのまま体当たり気味に押し倒す。

後方から騎士が迫る。


だが美咲さんの結界が木々の間に薄く張られ、足を取った。


「今よ!」

 玲奈の声と同時に矢が飛ぶ。騎士の兜を弾き、視界を奪う。


「相沢あぁっ!」


大雅が飛び込んできた。

さっきより怒りが強い。

でも、その分だけ直線的でもある。


剣を正面から受けず、半歩引きながら地面の根を使う。足場の悪さを相手にも背負わせる。


大雅の踏み込みが一瞬だけずれた。

俺はその瞬間、短剣ではなく空いた手を剣の柄に伸ばした。

触れる。


剣聖の断片が、また流れ込む。


「っ……!」

「またそれか!」


大雅が弾くように振り払う。

だがその動き自体が乱れていた。

俺は低く言う。


「お前、まだ本気で俺を斬るつもりじゃないだろ」

「何を――」

「王国に従ってるだけだ」


一瞬、目が揺れる。

やっぱりだ。

大雅はまだ完全に“敵”にはなりきれていない。


その隙を突いて、俺は剣を受け止めたままさらに前回対峙した時と同じ言葉を投げかける。


「俺はお前らを殺したいわけじゃない。でも、もう従う気もない」

「……」

「それだけだ」


大雅の力が一瞬だけ鈍る。

そのわずかな隙で十分だった。


「今! 抜ける!」

 俺が叫ぶ。


ルナがすでに右の索敵役を蹴り飛ばしていた。

玲奈と美咲さんも即座に移動する。


残った騎士たちが追おうとするが、術者二人が潰れ、索敵も崩れた状態では連携が遅い。

俺は最後に大雅を軽く押し戻し、距離を取った。

倒さない。


勝ち切らない。

でも、完全に上回る形で逃げ切る。

それがこの場で一番効くと思った。


大雅はその場に立ち尽くし、息を荒くしていた。

剣を握る手は震えている。


「……なんでだよ」

 絞り出すような声。

「なんでお前が、こんな……」


その問いには、まだ俺自身もきちんと答えられない。

でも一つだけは言える。


「お前らに捨てられた後、死にたくなかっただけだ」


それだけ言い残し、俺は仲間たちと一緒に林の奥へ消えた。

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