第27話 追放者狩り
ラドスの裏路地を駆け抜けながら、俺たちは町の外れを目指した。
だが今回は、宿場町の時より明らかに厳しい。王国騎士団が最初から複数方向に配置されている。索敵役までいるらしく、迂回しても気配を捕まえられる。
「右から来る! 三人!」
玲奈が叫ぶ。
矢が飛ぶ。
ただし今回は、相手も盾と結界で対策していた。
「面倒だな……!」
「前も!」
ルナが低く唸る。
包囲の質が違う。
これは完全に“狩り”だ。
町外れの倉庫街へ入ったところで、正面に一団が現れた。
騎士、宮廷魔術師風のローブ、そしてその先頭に立つ男。
桐生大雅。
青を基調とした王国式の戦装束。腰には見覚えのない立派な剣。
以前よりずっと堂々として見える。だが、その顔には完全な余裕はなかった。
「……やっぱりお前か」
俺が言う。
大雅はほんの一瞬だけ言葉を詰まらせ、それから剣の柄に手を置いた。
「相沢」
「討伐隊の先頭とか、えらくなったな」
「茶化すな」
その声には苛立ちが混じっている。
後ろの騎士たちが武器を構える中、大雅だけは俺を真っ直ぐ見ていた。
「大人しく来い」
「嫌だって言ったら?」
「無理やり連れていく」
「前より分かりやすいな」
「状況が変わったんだよ!」
声が少し大きくなる。
それだけ、本人の中でも余裕がないのだろう。
「王国はお前を危険視してる。敵国と接触して、二人まで連れ出して、このまま放っておけるか!」
「連れ出した?」
玲奈が怒鳴る。
「勝手に決めつけないでよ! 私たちは自分で――」
「玲奈、下がってろ!」
「嫌です!」
空気が一気に険悪になる。
大雅は苛立たしげに舌打ちし、剣を抜いた。
「相沢、お前が来れば済む話だ」
「信用できると思うか?」
「……」
一瞬、沈黙。
その間がすべてだった。
大雅自身、王国の“事情聴取”がどこまで信用できるか分かっている。だから言い切れない。
「ほらな」
俺は短く言う。
「来る理由がない」
後ろの騎士の一人が前へ出る。
「桐生殿、時間をかけすぎです」
「黙ってろ」
「しかし――」
「俺がやる!」
ぴしゃりと切り捨てる。
騎士は不満げに下がった。
そのやり取りだけで、大雅の立場も完全には自由じゃないと分かる。
「最後に言う」
大雅が構える。
「来い、相沢。それで全部済む」
「済まない」
俺も短剣を抜いた。
「もう従う気はない」
その瞬間、空気が変わった。
大雅が踏み込む。
速い。
剣聖。
王国で持ち上げられるだけのことはある。正面からの圧が違う。
初撃を受ければ終わる。
だからまともに受けない。
半歩斜めに滑る。
それでも刃圧だけで腕が痺れた。
「っ……!」
「逃げるな!」
逃げる。正面からやれば負けるからだ。
ルナが横から入ろうとするが、後方の騎士二人が牽制に出てきた。
玲奈の矢と美咲さんの結界がそれを食い止める。
俺と大雅、一対一に近い形になる。
昔、会社の飲み会帰りにふざけて腕相撲したことがあった。
大雅は当時から運動神経が良くて、俺は勝てなかった。そんな記憶が、どうでもいいのに頭をよぎる。
「なんでお前が……!」
大雅が振り下ろす。
「こんなに戦えるんだよ!」
「こっちが聞きたいくらいだ!」
踏み込み、体捌き、拾ってきた技術の断片。全部使ってもなお、大雅の剣は重い。
剣の才そのものが違う。
だけど。
正面から勝てないなら、崩せばいい。
俺はわざと大きく引いて、大雅に追わせる。倉庫の角、荷箱、石畳の段差。地形を使えば、剣聖でも踏み込みを制限できる。
さらに、すれ違いざまに腕へ触れる。
流れ込む。
剣。
正統で、無駄のない型。
圧倒的な完成度。
「ぐ……!」
「何だ、今の……!」
大雅も何かを感じたのか、眉をひそめた。
全部は無理だ。
剣聖の断片は重すぎる。だが一瞬だけでも“型”をなぞれれば十分。
次の打ち合い。
俺はさっきまでなら出せなかった角度で短剣を差し込み、大雅の刃筋をずらした。
「なっ!?」
一瞬、目が見開かれる。
今だ。
俺はそのまま足払い気味に踏み込み、体勢を崩しにいく。
勝つためじゃない。討伐隊全体の流れを止めるためだ。
大雅が後ろへ飛んで距離を取る。
表情には、初めてはっきりと動揺が浮かんでいた。
「お前……ほんとに、何なんだ」
その問いに、答えはまだない。
でも少なくとも、“無能”じゃないことだけは、ようやく目の前で分からせられた気がした。




