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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第4章 再会、そして抹殺命令

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第24話 神崎の判断

広場の混乱は、王国側の想定より少しだけ早く崩れた。

玲奈の狙撃があまりにも正確だったからだ。


 直接急所は狙わない。だが足元、武器、道具、視界の妨害。捕縛に必要な連携だけを的確に潰していく。


「ちっ……!」

「精霊弓姫を敵に回してるぞ!」

「そりゃそうだろうが!」


騎士たちの怒声が飛ぶ。

その声を背に聞きながら、俺はルナと並んで前へ出た。


正面の盾役へわざと接近し、腕に触れる。重い防御型の感覚。踏ん張り方。受け流し方。

すぐ横から別の騎士が槍を突き出す。


 半歩引いて躱し、今度は槍兵の手首へ触れる。突きの伸び、刺し込みの角度。借りて、すぐ返すように動く。


複数の断片が頭の中でせめぎ合う。

辛い。だが、以前より少しだけ耐えられる。


「コーイチ! 下!」

 ルナの声。


反射的に身を沈める。

その頭上を、拘束用の鎖が通り過ぎた。

危なかった。


「ありがとう!」

「あとで!」


短いやり取りだけで十分だった。

美咲さんの結界は防御だけじゃない。


 地面すれすれに薄く展開される光が、追手の足を一瞬だけ止める。その僅かな隙を玲奈が射抜き、ルナが崩す。俺はその間を縫って“型”を拾いながら場を乱す。


完全に噛み合っていた。

神崎は広場の端からそれを見ていた。

顔色は変わらない。だが目だけが鋭く細められている。


「……相沢」

 低く呟く。

「やはり、ただの無能ではなかったか」


その言葉は、半分は評価で、半分は危険認定だった。

広場の混戦の中、神崎は部下へ次々に指示を飛ばす。


「盾役を前へ。弓を抑えろ。獣人は二人で囲め。相沢は接触を許すな」

「はっ!」


的確だ。

そして何より、俺の戦い方の核心に近い部分を短時間で見抜いている。

さすが賢王参謀、というべきか。褒めたくはないが。


「先輩、神崎先輩がやばい!」

 玲奈が叫ぶ。

「分かってる!」


このまま長引けば不利になる。

相手は人数が多く、しかも統率が取れている。こちらは即席の四人組だ。

神崎もそれを分かっているのだろう。広場全体を使って俺たちの動線を削り、逃げ道を潰しにかかってくる。


「相沢!」

 神崎が声を張る。

「今ここで投降するなら、命までは取らない!」


「信用できるか!」

「しなくていい。だがこのままでは朝倉さんと篠宮さんの立場も終わるぞ!」


その一言に、動きが僅かに鈍る。

俺じゃない。美咲さんと玲奈の方だ。

卑怯だが、神崎なら使う。


「気にするな!」

 俺は叫ぶ。

「今は抜けることだけ考えろ!」


玲奈がはっと顔を上げる。

美咲さんもすぐに頷いた。


「ええ!」


その瞬間、ルナが地面を蹴った。

月牙闘士の鋭い踏み込みで、一番薄い包囲へ飛び込む。俺も続く。

前方の騎士が剣を振るう。


だがその軌道は、さっき別の騎士から借りた基礎剣術で読めた。受けるのではなく、内側へ滑る。


「なっ……!」

 腕に触れる。


 押し込む。


 体勢が崩れたところへ、ルナの回し蹴り。


さらに後方から玲奈の矢。

追撃しようとした騎士の足元へ突き立ち、動きを止める。


「今です!」

「走る!」


俺たちはそのまま広場を抜け、裏通りへ飛び込んだ。

背後で神崎の声が響く。


「追え! 絶対に逃がすな!」


それでも、さっきまでの完全包囲は崩れた。

今なら抜けられる。


数本の路地を抜け、馬屋の裏手に出たところで、ようやく追跡の気配が少し遠のく。


「……っ、はぁ」

 玲奈が壁に手をついて息を整える。

「死ぬかと思った……」

「まだ死んでない」

 ルナが言う。

「そこは褒めて」

「あとで」


美咲さんは背後を警戒しながら、俺を見る。


「相沢さん、大丈夫?」

「何とか。でも、神崎先輩は想像以上に本気ですね」

「ええ」


その表情は重い。


「たぶん彼、もう完全に決めてる」

「何を」

「あなたを、“放置できない危険物”だと」


言われなくても分かる。

あの目は、かつて会社で見た“処理対象を見る目”と同じだった。


やがて、宿場町の外れに停めておいた荷馬車置き場を抜け、安全圏と思われる林へ入ったところでようやく足を止めた。


全員が息を切らしていた。

でも生きている。

その安堵も束の間、玲奈が震える声で言う。


「……これで、完全に戻れなくなった」

「最初からそのつもりだったんでしょう?」

 俺が問うと、玲奈は少しだけ泣きそうな顔で笑った。

「そう、ですけど……やっぱり、実際になると怖い」


正直でいいと思う。

美咲さんは空を見上げ、小さく息を吐いた。


「神崎さんは、すぐに正式な命令を出してくるはず」

「抹殺命令とか?」

「そこまでは……」

 言いかけて、彼女は言葉を止めた。

「……いえ。あり得るわね」


やっぱりか。

俺たちはもう、王国にとって“話し合いの相手”ではない。


捕縛対象、もしくはそれ以上。

ラドスへ戻る前に、俺は振り返って宿場町の方角を見た。

見えない距離なのに、神崎の冷たい目だけがまだ背中に貼りついている気がした。

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