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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第4章 再会、そして抹殺命令

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第23話 監視の目

美咲さんが店主に一言二言伝えると、驚くほどあっさり裏手へ通された。


王国の聖女候補という立場は、こういう時には便利らしい。ありがたいと思うべきか、気持ち悪いと思うべきか迷うところだ。


裏口は細い路地に繋がっていた。

人通りは少ないが、完全に無人でもない。


「左」

 ルナが即座に言う。

「右はいる」

「了解」


俺たちは左へ走る。

だが数歩進んだところで、前方の曲がり角から二人の騎士風の男が現れた。


「いたぞ!」

「確保しろ!」


やっぱり包囲されている。


「っ、戻るな! 突っ切る!」

 俺が叫ぶ。


先頭の男が剣を抜く。

だがその瞬間、風を裂く音がした。

玲奈の矢だった。


路地の狭さを逆に利用した鋭い一射が、男の剣を持つ手首すれすれを抜く。完全に当てるつもりはない。だがそれだけで十分だった。


「うわっ!?」

 怯んだ隙に、ルナが低く踏み込む。


膝への蹴り。男が崩れる。

もう一人が俺へ向かってくる。


 動きは騎士だ。重心がぶれない。だがラドスで積んだ訓練と、これまで写してきた断片が今の俺にはある。


剣筋を見て半歩ずれ、腕に触れる。

流れ込む。基礎剣術、盾の使い方、制圧の型。


「――っ!」


重いが扱えないほどじゃない。

柄を押し上げて軌道を逸らし、腹へ膝を入れる。


「ぐっ!」


息が止まった男を突き飛ばし、そのまま走り抜ける。


「こっち!」

 美咲さんが先導する。


王城で管理されていたわりに、こういう逃走路にも妙に勘がいい。

いや、むしろ“管理されていたからこそ”観察していたのかもしれない。

次の路地へ入ったところで、また別の気配。


「前もいる!」

 ルナが告げる。


「任せて」

 美咲さんが前へ出た。


白い光が足元から広がる。

半透明の壁のようなものが一瞬だけ路地を塞いだ。


「結界……!」

 騎士たちが声を上げる。


「数秒しか持たない! その間に!」

「十分です!」


玲奈が走りながら矢を番える。

振り返りもせず放たれた矢が、後続の足元に突き立つ。風精霊を纏った一射は石畳を砕き、追手の足を止めた。


その精度に、正直少し見とれそうになる。

王国で鍛えられていたのは本当らしい。


「先輩、右!」

 玲奈の声に従って身を捻る。


屋根の上から投げ縄が飛んできた。

あぶないところだった。


「捕縛専門かよ……!」

「本気ですね」

 美咲さんが息を切らしながら言う。


路地を抜け、小さな広場へ出た。

人はいる。だが誰もが巻き込まれたくない顔で距離を取る。

その混乱の中を利用して抜けるしかない。


「散るな! 一緒に動く!」

「うん!」

「はい!」


四人と一匹みたいな構図だが、今は気にしていられない。

広場の端まで走ったところで、前方に見覚えのある男が立っていた。


神崎恒一郎。


長身を真っ直ぐに伸ばし、数人の騎士を従えている。

その顔に焦りはない。最初からここに誘導するつもりだったみたいだった。


「やはり来ましたか」

 神崎は淡々と言う。

「相沢」

「最初からそのつもりだったんですね」

「事情聴取に応じれば穏便に済んだ」


その台詞に、思わず笑いそうになった。


「包囲しておいて?」

「抵抗の可能性があったので」


どこまでも合理的だ。


玲奈が怒鳴る。

「神崎先輩、こんなの話が違う!」

「篠宮さん、君たちは下がりなさい」

「嫌です!」

「命令です」


玲奈の顔が歪む。


それでも一歩も引かなかった。

神崎の視線が美咲さんへ移る。


「朝倉さんもです。あなたたちの保護は王国の責務だ」

「保護?」

 美咲さんが冷たく返す。

「監視と拘束の間違いでしょう」


神崎の眉がわずかに動いた。


「感情的になるのはやめてください。王国は今、極めて繊細な時期にあります」

「だから切り捨てる?」

 俺が言う。

「また都合よく?」


神崎は俺を真っ直ぐ見た。


「君は既に危険だ。国境での独自行動、敵性国家との接触、不可解な戦闘能力。放置できる要素がない」

「追い出したのはそっちだろ」

「結果論です」


その一言で、胸の奥の温度がすっと下がった。

ああ、本当にこの人はそういう人なんだ。


「相沢」

 神崎が静かに言う。

「今ならまだ引き返せる。こちらへ来なさい」

「嫌です」

「朝倉さんと篠宮さんも」

「嫌です」

「断ります」

 二人が即答する。


その瞬間、神崎の表情から最後の穏やかさが消えた。


「……そうですか」


騎士たちが一斉に前へ出る。


「ルナ!」

「わかってる!」


俺たちは同時に動いた。

広場での乱戦は避けたかったが、避けられない。


それでも今の俺は、追放された直後の無力な男じゃない。

玲奈の矢が視界を裂き、美咲さんの結界が一瞬の隙を作り、ルナがその隙へ飛び込む。


俺もまた、人の職業を写し取った異物として、その連携の中に踏み込んだ。


共闘。

しかも相手は王国。

皮肉な話だが、それが今の現実だった。

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