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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第4章 再会、そして抹殺命令

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第21話 再会

翌朝、宿場町の空気は妙に澄んでいた。


昨夜ほとんど眠れなかった俺は、安宿の狭い部屋で身支度を整えながら、窓の外を見ていた。人の行き交いは多いが、王都ほどせかせかしていない。商人、旅人、護衛の冒険者。その中に、王国の目も混ざっているのだろうと思うと落ち着かなかった。


「……ほんとに行くんだね」

 ルナがベッドの端に腰掛けたまま言う。


「行く」

「やっぱり反対」

「知ってる」


短く答えると、ルナは不満そうに耳を伏せた。


「でも、一人じゃ行かせない」

「助かる」

「助かるなら、もっと感謝して」

「してるよ」


少しだけ口元が緩む。

こういう軽口があるだけで、張り詰めていたものがわずかに和らぐ気がした。


指定された場所は、宿場町の外れにある小さな茶店だった。王国の施設ではなく、人目もある。完全な罠にしては露骨じゃないが、逆に“安心させるため”とも考えられる。


俺とルナは少し早めに現地へ向かい、周辺を確認した。逃げ道は三つ。裏手の小路、店の横の荷運び通路、少し離れた馬屋の柵越え。昨日のうちに見ておいた通りだ。


「……二人」

 ルナが小さく呟く。

「中にいる?」

「ううん、外。見張ってる」


やっぱりか。

茶店に入る前、俺は一度だけ深呼吸した。


心臓が妙にうるさい。

戸を開ける。


店内の奥、窓際の席に二人の女が座っていた。


朝倉美咲。

篠宮玲奈。


一瞬、時間が止まった気がした。

美咲さんは以前よりずっと整った服を着ていた。淡い色の上衣に、上質そうな布地。けれど表情は疲れて見える。


玲奈も華やかな装いだが、目元には薄く隈があった。

そして二人とも、俺の顔を見た瞬間に立ち上がった。


「相沢さん……!」

「先輩……!」


声が重なる。

昨夜、窓越しに見た時よりずっと近い。


 確かにここにいる。生きている。あの日、城門の向こうで切れたはずの繋がりが、無理やりまた手元に戻ってきたみたいだった。


でも、すぐにそんな感傷は引っ込む。


「久しぶりです」

俺はできるだけ平坦に言った。

「元気そうで何より」


その一言に、美咲さんの顔が僅かに曇る。

玲奈は唇を噛んだ。


ルナが俺の少し後ろに立つ。視線は二人へ向けられたまま、警戒を解いていない。


「座っても、いいですか」

美咲さんが問う。

「立ち話でも困るでしょうから」


頷いて席につく。


 四人掛けの机。俺の隣にルナ、向かいに美咲さんと玲奈。店のざわめきはあるのに、この席の周りだけ別の空気みたいだった。


先に口を開いたのは美咲さんだった。


「……まずは、ごめんなさい」

 まっすぐに頭を下げる。

「あの日、止められなかった。庇いきれなかった」


玲奈も続けて頭を下げた。


「私もです。先輩、あの時……何もできなくて、ごめんなさい」


謝罪。


予想していた。していたはずなのに、実際に聞くと胸の奥が鈍く痛む。


「謝られても、どうにもならないですよ」

 口から出た声は思ったより冷たかった。

「俺は実際に追い出されたし、その後も普通に死にかけました」


玲奈の肩がびくりと揺れる。

美咲さんは顔を上げず、静かに受け止めていた。


「分かってるわ」

「……本当に?」

「ええ。分かってるつもり。だからこそ、今さら許してなんて言えない」


その言い方に、少しだけ息が詰まる。


綺麗な言葉で誤魔化さないのは、この人らしかった。


玲奈が顔を上げる。

その目は少し赤い。


「でも、先輩……生きててよかった」

「玲奈」

「だって、本当にそうなんです。ずっと分からなくて、王国の人たちは何も教えてくれなくて、もう……」


そこまで言って、玲奈は言葉を詰まらせた。

見ていられなくて、俺は視線を外した。


 簡単に絆されるつもりはない。けれど、全く何も感じないわけでもない。そこが厄介だった。


「話したいことって?」

 俺は本題を促した。

「わざわざ手紙を寄越したんだから、それだけじゃないですよね」


美咲さんは頷く。


「王国が、あなたをもう一度確保しようとしている」

「やっぱり」

「事情聴取なんて名目だけ。実際は拘束して、調べるつもりよ」


玲奈がすぐ続ける。


「先輩が国境で動いてること、王国はもう知ってます。しかも魔人側と接触したことまで掴んでるみたいで……」

「情報、早いな」

「神崎先輩が絡んでると思う」

 玲奈が苦い顔で言う。

「最近、王国の上の人たちとかなり近いんです」


神崎。


あの人なら、状況を“合理的に”整理して俺を危険判定するだろう。


「大雅は?」

聞くと、二人は一瞬だけ顔を見合わせた。


「剣聖として持ち上げられてる」

 玲奈が言う。

「でも、最近は少し変。前みたいに単純に浮かれてる感じじゃない」

「それでも、王国側ではあるんでしょう」

「……今のところは」


曖昧な答えだった。

俺は机の上で指を組んだ。


「じゃあ今日は何だ。王国の罠だって教えてくれるためだけに呼んだんですか」

「それもある」

 美咲さんが言う。

「でももう一つ。私たち自身のことも伝えたかった」


その声が、少しだけ低くなる。


「王国は私たちを守ってるんじゃない。使おうとしてる」

「気づいたのは最近か」

「……遅かったわ」


そう言って、美咲さんは苦く笑った。


「最初は、召喚された混乱もあったし、あなたのこともあって……正直、それどころじゃなかった。でも時間が経つほど、王国の“優しさ”が全部管理だって分かってきたの」

「私もです」

 玲奈が身を乗り出す。

「外出は制限されるし、会う人も選ばれるし、何か聞くたびにはぐらかされる。あれ、絶対おかしい」


ルナがそこで初めて口を開いた。


「でも、二人は残った」

 短い言葉だった。

「コーイチ、外に出された時」


空気が少し張る。

玲奈が言い返しかけて、言葉を飲み込んだ。


美咲さんが代わりに静かに答える。


「その通りよ」

「先輩……」

「言い訳はできない。私は残ったし、玲奈も残った。結果的に、相沢さんを一人にした」


ルナはじっと二人を見ていたが、それ以上は追及しなかった。


ただ、警戒が完全に消えたわけではないのが分かる。

俺は湯気の立たない冷めた茶を一口飲んだ。


 苦い。


「……俺、まだ簡単には許せませんよ」

 率直に言う。

「生きててよかったって言われても、じゃああの時何でって思うし、今だってどこまで信じていいか分からない」


美咲さんは静かに頷いた。


「うん。それでいいと思う」

「先輩」

「でも、私たちはもう王国を信じてない。それだけは本当」


玲奈の声も震えていたが、嘘ではなかった。


「もし王国が本気で先輩を捕まえるなら、私……もうあっちには戻りたくない」


その言葉に、俺は一瞬だけ目を細めた。


「簡単に言うなよ」

「簡単じゃないです」

「分かってる。でも、“戻りたくない”と“戻れない”は違う」


玲奈は言葉を失う。

たぶん自分でも分かっているのだろう。王国を離れるということは、ただ感情で済む話じゃない。


その時だった。

ルナの耳がぴくりと動いた。


「……来る」

「何が」

「外、増えた。気配」


俺も遅れて違和感に気づく。

店の外の空気が変わった。人の流れが妙に偏っている。

美咲さんの顔が強張る。


「まさか……」

「つけられてたのか?」

「分からない。でも、あり得る」


玲奈が青ざめる。


「神崎先輩……」


やっぱり、そう簡単には終わらない。

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