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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

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第20話 再会の前夜

 手紙が届いた翌日から、俺は準備に追われた。


 行くか、行かないか。

 その結論は半日悩んで決めた。


 行く。

 ただし、王国の思惑通りに捕まるつもりはない。


「反対」

 ルナは即答だった。


 廃屋の床に座ったまま、むすっと耳を伏せている。


「危ない。ぜったい罠」

「俺もそう思う」

「なのに行くの?」

「行かないで済むなら、それが一番いい。でも」


 手紙を指で叩く。


「美咲さんがわざわざ筆跡を変えてまで書いた一文が引っかかる」

「……その人、前にコーイチを助けられなかった人」

「そうだな」

「また同じかも」

「かもしれない」


 否定はできない。


 けれど、だからこそ一度確かめる必要があるとも思った。

 王国に残った同僚たちが、本当に完全に向こう側へ行ったのか。それとも、まだ何かを抱えているのか。


 俺自身、そこをはっきりさせていないまま先へ進むのが嫌だった。


「逃げ続けても、王国はそのうちまた手を伸ばしてくる」

 俺は言う。

「だったら、一度こっちから状況を見に行く方がいい」

「危ない」

「だから準備する」


 そう答えると、ルナはしばらく黙り込んだ。

 やがて小さく息を吐く。


「……ルナも行く」

「当然そう言うと思った」

「一人で行かせない」


 その言葉が、少しだけありがたかった。


 ギルドではマリナさんとガレスにも話を通した。

 どちらも渋い顔をしたが、最終的には止めなかった。


「行くなら宿場町の地図と周辺の抜け道を覚えなさい」

 マリナさんはそう言って簡単な周辺図をくれた。

「あと、王国側の人間とは人目のない場所で絶対に会わないこと」

「分かってます」

「分かってなさそうだから言ってるの」


 ごもっともだった。


 ガレスはさらに露骨だ。


「王国の連中が本気で回収する気なら、三重くらいに囲ってくる」

「回収って言い方やめてください」

「実際そうだろうが。お前は向こうにとって“管理不能な異常個体”だ」

「言い方は悪いけど否定できないですね」

「だろ」


 ガレスは腰のポーチから小ぶりの短剣を一本取り出して投げてよこした。


「持っとけ」

「借り物ばっかりで悪いですね」

「返せる時に返せ。死んだら返ってこねえ」


 不吉だが、そのぶっきらぼうさが逆にありがたい。


 夜、出発前の最後の準備をしながら、俺は少しだけ落ち着かない自分に気づいていた。


 警戒はしている。

 罠だとも思っている。

 それなのに、心のどこかで再会そのものを恐れてもいた。


 もし美咲さんや玲奈が、本当に王国の側に染まっていたら。

 もし「あの時は仕方なかった」とだけ言われたら。

 たぶん想像以上に堪える。


「コーイチ」

 ルナが荷物をまとめながら聞く。

「会ったら、どうするの」

「分からない」

「怒る?」

「それも分からない」

「やさしい」

「違う。整理ついてないだけだ」


 本当にその通りだった。


 怒っている。

 見捨てられたと思っている。

 でも同時に、完全に切り捨てたくもない。


 異世界に来る前からの関係があるからだ。

 単なる裏切り者として処理できるほど、簡単な相手じゃない。


 翌朝、俺たちは宿場町へ向けてラドスを出た。


 道中、空は高く晴れている。

 その分だけ、これから向かう先の不穏さが際立つ気がした。


 昼過ぎ、中継地となる宿場町が見えてくる。

 王都ほどではないが、人の出入りは多い。商人、旅人、護衛、兵士。誰が王国側の目か分からない。


「まず、周囲を見る」

 ルナが低く言う。

「ああ」

「すぐ出ない」

「もちろん」


 宿を取る前に町の構造を確認し、逃げ道になりそうな裏路地や柵の薄い場所を探る。ガレスの教えが、こういう時に活きる。


 そして夕方、王国指定の宿の近くまで来たところで、俺は足を止めた。


 窓辺に、一瞬だけ見覚えのある横顔が見えたからだ。


 長い黒髪。

 落ち着いた立ち姿。


「……美咲さん」


 思わず小さく呟く。


 向こうは気づかなかった。

 だがその一瞬だけで、胸の中に色々な感情が押し寄せる。


 生きていた。

 無事だった。

 でも同時に、あの日のことも全部思い出す。


 俺は深く息を吸った。


「コーイチ」

 ルナが袖を引く。

「いま行く?」

「……いや、今日はまだだ」


 王国側も、こちらの到着を想定しているはずだ。

 動くなら慎重に、だ。


「明日、会う」

「うん」


 宿を離れ、別の安宿へ向かいながら、俺は低く呟いた。


「今さら何を言われても、簡単に許せると思うなよ」


 それは、美咲さんや玲奈に向けた言葉であると同時に。

 自分自身へ言い聞かせる言葉でもあった。


 再会はもうすぐだ。

 そしてたぶん、それはただの感動的な再会じゃ終わらない。

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