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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

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第19話 王国からの使者

 ラドスへ戻ったのは、夕暮れ前だった。


 ギルドへ直行すると、マリナさんは俺たちの顔を見るなり表情を引き締めた。


「何か掴んだのね」

「はい。かなり面倒なやつを」

「でしょうね。顔に出てる」


 依頼報告室へ通され、村で見つけた痕跡を一つずつ説明する。軍用の矢、魔物を誘導した痕跡、人為的な餌、焚火跡、そして魔人側の斥候らしき存在まで。


 全部を話し終えた時、マリナさんは深いため息をついた。


「……予想以上ね」

「信じてもらえますか」

「あなた一人の話なら半信半疑だけど、ガレスも似た匂いを感じていたわ」


 そう言って、彼女は書類をまとめる。


「この件は支部長にも上げる。あなたたちの報酬も上積みされるでしょう」

「ありがたいです」

「でも喜んでばかりはいられないわね」


 嫌な予感がした。


「何かあったんですか」

「ええ」


 マリナさんは机の引き出しから一通の封書を取り出した。

 厚手の紙に、見覚えのある紋章――レーヴェルト王国の紋章が押されている。


 喉がひくりと鳴る。


「……俺宛ですか」

「そう。今日届いた」

「なんでギルドに」

「登録情報から辿ったんでしょうね」


 思ったよりずっと早い。

 王国はもう、俺がまだ生きていて、しかも活動していることを把握している。


「内容は?」

「勝手に開けるわけにもいかないから、まだ」


 マリナさんは封書をこちらへ差し出した。


 受け取る手が少しだけ重い。

 王国からの手紙。ろくな内容じゃないのは想像がつく。


 封を切る。


 中には、丁寧な書式の文書が入っていた。


 異世界召喚者・相沢恒一に告ぐ。

 国境地帯における不審な行動および敵性国家勢力との接触の疑いあり。

 ついては王国騎士団の管理下にて事情聴取を行う。指定場所へ出頭されたし――。


「事情聴取、ね」

 マリナさんが冷たく言う。

「ずいぶん物は言いようだこと」


 実質的には召喚、いや拘束だろう。


「……敵性国家との接触」

 俺は苦笑する。

「まあ、セラフィナとは接触したけど」

「その名前、今ここで軽々しく出さないで」


 釘を刺され、口を閉じる。


 だがそれだけじゃない。

 手紙の最後に、小さく一行だけ別の筆跡があった。


 お願い、来て。話したいことがある。――朝倉美咲


 視界が一瞬だけ止まる。


「どうした?」

 マリナさんが怪訝そうに問う。


「……同僚からの伝言です」

「王国側の?」

「はい」


 ルナが隣で封書を覗き込み、耳をぴくりと動かす。


「行くの?」

「……分からない」


 本音だった。


 王国は信用できない。

 事情聴取なんて名目で拘束する気なのは明らかだ。けれど、美咲さんがわざわざ筆跡を変えてまで一文を添えたのなら、何かしら伝えたいことがあるはずだった。


 しかも手紙を送れる程度には、彼女もまだ王国内にいる。

 玲奈もおそらく同じだろう。


 もし本当に王国内部で何かが起きているなら、聞く価値はある。


「すぐ返事する必要は?」

「期日は三日後」

 マリナさんが文書を見て答える。

「王都ではなく、中継地の宿場町ね。露骨に王都へ来いと言わないあたり、まだ表向きは穏便に済ませたいのかも」

「逆に怪しいです」

「同感」


 その時、部屋の扉が開いてガレスが入ってきた。

 事情を聞くなり、彼は盛大に顔をしかめる。


「王国が動いたか」

「思ったより早かったですね」

「お前の国境調査が尾を引いたんだろう。目立ったんだ」


 やっぱりそうか。


 ガレスは腕を組んだ。

「普通なら行くなと言う」

「……でも」

「だが、その一文があるなら話は別だ」


 俺は驚いてガレスを見た。


「意外ですね」

「女二人が王国の中で好き勝手できるとは思えん。そこにわざわざ手を入れてきたなら、何か切羽詰まってる可能性はある」


 現実的な判断だった。


「ただし、のこのこ出向けば捕まる」

「ですよね」

「行くなら準備しろ。逃げ道も、相手の意図も、最悪を想定してな」


 それはつまり、“条件付きで行け”という意味だった。


 ギルドを出た後、廃屋へ戻る道すがら、俺はずっと手紙を握っていた。


 美咲さんの筆跡は、会社にいた頃から見慣れている。

 丁寧で、少し真面目すぎるくらい整った字。


 あの場で何もできなかったことを、彼女はどう思っていたのか。

 玲奈はどうしているのか。

 大雅と神崎は、今どこまで王国側なのか。


 知りたい。

 でも、それ以上に警戒心もある。


「コーイチ」

 ルナが横から言う。

「その手紙、やな感じ」

「うん」

「でも、会いたい人いる?」

「……いる」


 少しだけ間を置いて、そう答えた。


 ルナは黙って頷いた。

 それ以上、何も言わない。


 異世界へ来てから、俺は一度すべて切り離された。

 でも向こうから糸が伸びてきたなら、そこで断ち切るのか、掴み返すのかを選ばなければならない。


 夜、廃屋の中で何度も文面を読み返す。

 事情聴取。敵性国家との接触。王国騎士団の管理下。


 まともな匂いはしない。

 なのに最後の一文だけが、どうしても無視できなかった。

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