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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

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第18話 職業なき者

 村へ戻る前に、俺とルナは少し離れた岩陰で休憩を取った。


 さっきの戦闘の疲労もある。

 何より、頭の中を整理する時間が必要だった。


「……ほんとに危なかったな」

「うん」


 ルナも膝を抱えて座り込み、耳を伏せていた。

 あの深紅の女将軍――おそらく魔人皇国の高官。それだけでも大事だ。しかも向こうもこちらを敵視していた。


「王国の犬、って言ってた」

 ルナがぽつりと言う。

「ああ」

「コーイチ、そんなふうに見える?」

「見えないと思いたいけど、王国の近くから来た人間ってだけでそう判断されたんだろうな」


 そしてそれは、向こうの立場からすれば不自然でもない。

 国境地帯で妙な人間がうろついている。しかも人為的な魔物誘導の痕跡まである。疑うなという方が無理だ。


 俺は深く息を吐いた。


「戻る前に、もう一つだけ確認したい」

「なに」

「さっきの女から写した断片、少し整理してみる」


 あのまま放置するのは危険だ。

 強い力ほど扱いを誤れば自分を壊す。


 目を閉じ、意識を集中する。


 熱。

 剣圧。

 魔力のうねり。

 どれも膨大すぎて全部は無理だ。だからほんの一部だけ、表面をなぞるように辿る。


 すると分かった。

 あれはただ強いだけじゃない。戦場を前提にした職業だ。単独戦闘もできるが、部隊運用や敵情判断まで含んだ“将”としての力が混じっている。


「……将軍職、みたいなものか」

「わかるの?」

「たぶん。しかも相当上位だ」


 頭の奥で、彼女の一言が蘇る。


 ――何の職業だ。


 あれだけの強者でも、俺の戦い方を“職業らしくない”と感じたのだ。

 つまり、やっぱり俺の力はこの世界の常識から外れている。


「コーイチ」

 ルナが静かに言う。

「前に言ってた。職業ないって」

「ああ」

「でも、ないんじゃない。たぶん、ちがう」


 違う。


 その言葉が、妙にしっくりきた。


 職業がないんじゃない。

 “職業という枠に収まっていない”。


 だから鑑定に映らない。

 だから王国は見抜けなかった。


 そこまで考えた時、背後で草を踏む音がした。


「誰だ!」


 反射的に振り向く。


 だがそこに立っていたのは、先ほどの深紅の女将軍だった。

 今度は一人。部下も連れていない。


「……またあんたか」

「こちらの台詞だ」


 彼女は剣を抜いていなかった。

 警戒はしているが、即座に戦う気配はない。


 俺もルナも立ち上がる。

 だが先に彼女が言った。


「今は交戦の意思はない」

「信用しろと?」

「したくなければ、それでいい」


 相変わらず尊大だ。


「では何の用だ」

「確認だ」


 黄金の瞳が俺を射抜く。


「貴様、本当に王国側の人間ではないのか」

「少なくとも、王国に味方する理由はない」

「理由を聞いているのではない」

「なら事実だけ答える。俺は王国に召喚されて、職業なしとして追い出された」

「……何?」


 今度こそ、はっきりと女の顔に驚きが浮かんだ。


 ルナが俺と彼女を交互に見ている。


「職業なし?」

「この世界じゃあり得ないって反応は、もう慣れた」


 自嘲気味に言うと、女はしばらく沈黙した。


「名は」

「相沢恒一」

「コーイチ、か。私はセラフィナ」


 短い名乗り。

 やはり将軍本人らしい。


「貴様の言葉が真実なら、王国は異物を召喚し、制御できず切り捨てたことになる」

「そういうことになるな」

「馬鹿な国だ」

「同感だよ」


 初めて少しだけ意見が合った。


 セラフィナは視線を外し、周囲の林へ一度目を向けた。


「こちらも人間側の動きを探っていた。国境付近で魔物を意図的に流し、我が軍のせいにしようとしている痕跡がある」

「やっぱり」

「貴様らも見たか」

「ああ。餌、檻の金具、人の足跡、軍用っぽい矢」

「……なら話は早い」


 セラフィナは腕を組んだ。


「王国は挑発の材料を作っている。こちらへ魔物暴走の罪を被せ、国境線での増兵や武力行使の口実にしたいのだろう」

「そこまでやるか」

「人間国家では珍しくもない」


 言い切られると反論しにくい。


 俺は少し考えてから言った。


「こっちも、人為的な仕業である証拠を回収したい。今村へ戻って報告しても、証拠不足じゃ終わる」

「こちらも同じだ」


 つまり利害は一致している。

 だが問題は、信頼がないことだった。


「一時休戦、ってところか」

「大きく出たな、コーイチ」

「さっき殺されかけた相手に言うには十分控えめだと思う」

「確かに」


 ほんのわずか、セラフィナの口元が緩んだ気がした。


 ルナが小さく唸る。

「セラフィナ、信用していい?」

「完全にはするな」

 セラフィナ本人が答えた。

「だが今、貴様らを殺す利は薄い」

「正直で助かる」

「甘い言葉で飾る方が好きか?」

「いや、むしろ分かりやすい」


 そのやり取りを聞いて、ルナが少しだけ警戒を緩めた。


 セラフィナは最後に俺をじっと見た。


「職業なし、か」

「しつこいな」

「興味深いだけだ」


 そして低く言う。


「次に会う時、敵で済むと思うな」


 警告なのか、予告なのか。

 どちらとも取れる言い方だった。


「そっちもな」

 俺は返す。

「王国を潰す利が一致するなら、また話くらいはしてやる」

「ふん」


 セラフィナは踵を返し、木々の奥へ消えていった。


 その背を見送りながら、ルナが小さく呟く。


「強い女」

「間違いない」

「でも、少し話せる」

「ああ」


 少なくとも、王国よりは話が早いかもしれない。

 そんな感想すら出るのが何とも言えなかった。


 俺たちは村へ戻り、見つけた痕跡を村長へ伝えた。

 全部を理解してもらうのは難しかったが、“魔物は自然に増えたのではなく、誰かが誘導している可能性が高い”ことだけは十分伝わったらしい。


「そんな……」

 村長は顔を青くする。

「では、わしらは誰かの都合で襲われているのか」

「可能性は高いです」

「兵に知らせても……」

「村の立場じゃ信じてもらえないかもしれない」


 苦い現実だった。


 だからこそ俺たちは、より上の判断を仰ぐためにも一度ラドスへ戻ることにした。

 報告と証拠整理。それが今できる最善だ。


 村を出る前、東の空を見ながら思う。


 俺はただ生き残るために冒険者になったはずだった。

 なのに今は、国家同士の火種の端に立っている。


 無職。

 職業なし。

 それでも、もう見て見ぬふりはできなかった。

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