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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

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第17話 深紅の魔人

 翌朝、俺とルナは林のさらに奥へ入った。


 村人たちには、危なくなったらすぐ戻ると伝えてある。だが正直、危ないことになる予感しかなかった。


 林を抜けると、地形は少しずつ荒れていった。土は踏み固められ、ところどころに荷車の轍が残っている。村人が使うには不自然な太さだった。


「人、多い」

 ルナが低く言う。

「何人くらい分かる?」

「いっぱい。昨日より多い」


 俺は木陰に身を寄せ、気配を探る。

 まだ曖昧だが、確かに複数の人の存在を感じる。しかも、そのうちいくつかは規則正しく配置されている。


 兵士の陣形。

 そんな単語が頭をよぎった時だった。


「止まれ」


 鋭い声。


 次の瞬間、木々の間から数人の武装した影が現れた。

 人間じゃない。


 肌の色はやや褐色がかり、角を持つ者もいる。装備は黒と赤を基調とした軍装。目つきは鋭く、明らかに戦場慣れしている。


「……魔人?」

 思わず呟く。


 王都で断片的に聞いた知識が蘇る。

 人間国家群と対立する、亜人国家の一角――魔人皇国。


 その先頭に立っていた女が、一歩前へ出た。


 深紅の長髪。

 黒い軍装の上からでも分かる引き締まった体。

 冷たい美貌に、黄金の瞳だけが強く光っていた。


「貴様ら、何者だ」

 声もまた冷たかった。


「俺たちは冒険者です。ラドスから調査依頼で」

「嘘をつけ」

 即答だった。

「その先にある痕跡を辿ってここへ来た時点で、ただの田舎冒険者では済まぬ」


 鋭すぎる観察眼に、思わず息を呑む。


 ルナが俺の前に半歩出る。

 女の視線がルナへ向いた。


「獣人か」

「……」

「人間側の走狗ではないようだが、だからといって信用はできん」


 周囲の魔人兵たちも武器を構えている。

 完全にこちらを敵性と見ている空気だ。


「待ってください」

 俺は両手を見せる。

「俺たちは村の魔物異常を調べていただけです。そっちこそ何をしてるんですか」

「答える義理はない」


 女は一切揺れない。


 そして次の瞬間、彼女の周囲に赤い光が集まった。


「――っ、来る!」

 ルナが叫ぶ。


 炎だった。


 紅い魔力が槍のように収束し、一直線にこちらへ走る。

 咄嗟に飛び退く。地面が爆ぜ、熱風が頬を打った。


「話し合う気ないのか!」

「王国の犬と話すことなどない」


 深紅の女――将軍格らしきその魔人は、さらに一歩踏み込んだ。

 魔力の圧が違う。今まで相手にしてきた盗賊や魔物とは格が違った。


「ルナ、下がるなよ!」

「うん!」


 来る。


 女は剣を抜いた。

 刀身に紅い魔力が絡みついている。


 初撃。

 速い。見えたと思った瞬間、もう目の前だった。


 盗賊の回避感覚、ルナの踏み込み、ガレスの重心意識。全部を無理やり繋いで、紙一重で逸らす。だが余波だけで腕が痺れた。


「ちっ……!」

「ほう」


 女の目がわずかに細まる。


「今のを避けるか」


 余裕だ。

 こっちは避けるだけで精一杯なのに、向こうはまだ観察している。


 ルナが横から飛び込む。

 鋭い蹴り。だが女は半歩ずれてかわし、逆に肘でルナの軌道を崩した。


「ぐっ」

「獣人の動きとしては悪くない」


 褒めてる場合かよ。


 俺は短槍を投げ捨て、近距離へ踏み込む。触れれば何か取れる。そう思った。

 だが女も甘くない。剣を振り上げると見せて、柄でこちらの肋を打ち抜いてきた。


「がっ……!?」


 息が詰まる。

 それでも倒れず、腕にしがみつくように触れた。


 瞬間、流れ込む。


 膨大な熱。

 軍として鍛えられた剣技。

 魔力操作。

 指揮官としての戦場感覚。


「――っ、ああぁ!?」


 重すぎる。


 今までの断片とは比較にならない情報量に、頭が割れそうになる。

 膝が折れかけた。


「コーイチ!」

 ルナが叫ぶ。


 女の目が、初めて明確な驚きを帯びた。


「貴様……」


 その一瞬の隙に、俺は距離を取る。

 呼吸が乱れる。視界がぶれる。


 強すぎる相手の力は、写せても扱いきれない。

 でも、断片だけでもヤバいと分かる。


 女は剣を下げず、じっとこちらを見た。


「何の職業だ」

「……答える義理、ないだろ」


 強がって返すと、女の口元がわずかに歪んだ。

 笑ったのか、それとも呆れたのか分からない。


「面白い」


 その一言と共に、再び魔力が膨れ上がる。


 次は本気だ。

 そう直感した時、林の向こうから別の声が飛んできた。


「将軍閣下! 東側で人間側の痕跡を発見しました!」

「……ちっ」


 女が舌打ちする。


 黄金の瞳が一度だけこちらを射抜いた。


「今は見逃す。だが次に会えば、敵として斬る」

「こっちだって、好きで会いたくない」

「なら国境に近づくな」


 そう言い捨て、彼女は踵を返した。

 魔人兵たちも素早く撤収していく。


 その背を見送りながら、俺はその場に膝をついた。


「はぁ……っ、はぁ……」

「だいじょうぶ!?」

 ルナが駆け寄る。

「死ぬかと思った」

「ルナも」


 本気でそうだった。


 しばらくして呼吸を整え、俺は立ち上がる。


「今のやつ、将軍って呼ばれてたな」

「つよかった」

「ああ……別格だ」


 それでも収穫はあった。

 あの女は、俺たちを王国側の工作員だと思った。つまりこの周辺で、王国と魔人皇国が何かしら水面下で動いているのは間違いない。


「戻るか」

「うん」

「これ以上は今の俺たちじゃ危険すぎる」


 そう言いながらも、頭の奥にはさっき写した断片がまだ熱を残していた。


 深紅の魔力。

 軍人としての剣。

 圧倒的な格の違い。


 もしあれを少しでも扱えるようになれば――いや、今は考えるな。下手をすれば飲まれる。


 村へ戻る道すがら、俺は一つだけ確信していた。


 この異常は、単なる地方の魔物騒ぎじゃない。

 国家同士の火種が、もうここまで伸びてきている。

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