表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/100

第15話 国境からの依頼

 ギルドの掲示板に、その依頼が貼り出された時、ざわつきが起きた。


 国境近くの村で発生している魔物異常の調査。


 討伐ではなく調査。

 だが報酬は低ランクにしては高めで、しかも“現地判断で追加報酬あり”と書かれている。


「なんか、嫌な匂いするな」

 近くの冒険者がぼやく。

「国境絡みとか面倒に決まってる」

「上の連中は?」

「別件で出払ってるってよ」


 つまり、危ないが人手が足りない。

 そういう依頼だ。


 俺は少し迷いながら依頼書を読んだ。

 最近、本来は出ないはずの魔物が村の周辺に現れているらしい。農地被害、家畜被害、小規模な襲撃。まだ壊滅的ではないが、このまま放置すれば危険。


「受ける気か」

 いつの間にか隣に来ていたガレスが言う。


「……気になってます」

「やめとけ、と言いたいところだが」


 ガレスは掲示板を眺めたまま鼻を鳴らした。


「逆に、こういう依頼をこなせるとでかい」

「ですよね」

「だが危険もでかい。国境ってのは、それだけで面倒だ」


 分かっている。

 だが最近の訓練と依頼で、少しずつ金も経験も必要だと痛感していた。いつまでも低報酬の採集だけでは立ち行かない。


 それに、気になった。

 “魔物異常”という曖昧な言葉が。


「ルナの意見も聞きます」

「それがいい」


 廃屋へ戻って話すと、ルナはすぐに耳を立てた。


「国境ちかく?」

「ああ」

「いやな感じ」

「やっぱり?」

「魔物、急に増えるの変。自然じゃないこと多い」


 獣人の勘なのか、経験則なのか。

 どちらにせよ軽視できない。


「でも、行く?」

 ルナが聞く。

「……行きたい」

「なら行く」


 即答だった。


 決断してギルドへ戻ると、マリナさんは少し驚いた顔をした。


「本気?」

「無理そうですか」

「無理とは言わないけど、難しいわね」


 書類をめくりながら、彼女は続ける。


「調査依頼だから、魔物を全部倒す必要はない。現地で状況を見て、原因や傾向を掴んで戻るだけでもいい」

「つまり、危なくなったら引く前提」

「そう。死んでまで英雄になる依頼じゃないわ」


 その言い方はありがたかった。


 依頼を受理すると、マリナさんは簡単な地図と村の情報を渡してくれた。国境沿いの小さな開拓村。人間国家群の境目に近く、軍の巡回も不定期で、こういう異常があると真っ先に被害を受ける立地だという。


「気をつけて」

「はい」

「あと、何か変だと思ったら、無理せず戻ること」


 何度目かの忠告に頷く。


 出発前、ガレスは小さな革袋を投げてよこした。

 中身は干し肉と簡易薬、それから簡単な火打石だった。


「貸しだ」

「あとで返します」

「生きて戻ったらな」


 その言い方が、妙に温かく聞こえた。


 翌朝、俺とルナはラドスを出た。

 街道を進み、途中から細い土道へ入る。周囲の景色は少しずつ開け、森より草地が増えていく。


「におい、ちがう」

 道中、ルナがぽつりと言った。

「何が」

「国境に近づくと、空気ぴりぴりする」

「分かるのか」

「なんとなく」


 俺にはまだそこまで分からない。

 ただ、確かにどこか落ち着かない感じはした。


 日が傾き始める頃、目的の村が見えてくる。

 木柵で囲まれた、小さな集落。畑と家畜小屋があり、煙突から細い煙が上がっていた。


 門のところで見張りをしていた男が、こちらを見るなり警戒した顔をする。


「誰だ」

「ラドスの冒険者ギルドから来ました。魔物異常の調査依頼で」

「ああ……!」


 男の顔が一気に安堵へ変わる。


「待ってた、待ってたんだ。村長を呼ぶ!」


 案内された村の中は、思ったより疲れた空気に満ちていた。

 子供たちは外で遊んでいない。家畜も落ち着かない様子だ。大人たちも、こちらを見る目に期待と不安が混ざっている。


 村長の家で話を聞く。

 魔物はここ数日で急に増えた。しかも今まで近辺では見かけなかった種類も混じっている。被害の痕跡は、村の東側に集中しているらしい。


「兵は来なかったんですか」

 俺が尋ねると、村長は苦い顔をした。


「連絡はした。だが巡回は先延ばしだ。国境近くは今、どこも忙しいと」

「忙しい……」

「戦になるんじゃないかって噂もある」


 戦。

 その言葉に、胸がざわつく。


 王国で聞いた“戦力”や“緊張状態”の話が頭をよぎった。


「まずは現場を見ます」

 そう告げると、村長は何度も頭を下げた。


 東の外れへ向かう途中、ルナがふと足を止める。


「コーイチ」

「どうした」

「これ」


 彼女が指差したのは、草むらに半ば埋もれた一本の矢だった。


 拾い上げる。

 黒い羽根、しっかりした造り。狩人の矢というより、軍用に見える。


「魔物が持ってくるものじゃないな」

「うん」


 俺は矢を握りしめた。


 魔物異常。

 国境。

 軍用の矢。


 嫌な予感が、少しずつ輪郭を持ち始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ