表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/100

第14話 積み上げる者

 訓練は、想像以上に地味で、きつかった。


「遅え」

 ガレスの声が飛ぶ。

「踏み込みが浅い。腰が浮いてる」

「っ、はい!」


 朝の廃屋裏。

 俺は木の棒を握り、何度目かも分からない素振りを繰り返していた。


 きっかけは、前日の俺の話を聞いたガレスが「見てやる」と言い出したことだ。正確には、「そのままだとそのうち死ぬから最低限叩き込む」だったが。


「お前の悪いとこは二つだ」

 ガレスは腕を組んだまま言う。

「一つ、覚えた動きをすぐ使える気になる」

「耳が痛いです」

「もう一つ、土台がねえ」

「もっと耳が痛いです」


 ルナが少し離れたところでくすくす笑う。

 他人事だと思っているらしい。


 でも実際、その通りだった。


 俺の力は便利だ。

 相手に触れれば、その職業の技能や感覚の一端を得られる。けれどそれはあくまで“借りた型”であって、自分のものになったわけじゃない。


 素振り一つでも分かる。

 頭では軌道が分かっているのに、身体が追いつかない。踏み込みがずれる。呼吸が乱れる。重心が高い。少し回数を重ねるだけで腕が悲鳴を上げる。


 会社員時代、運動不足だったツケがここに来て全部出ていた。


「百回」

「さっきやりましたよ!?」

「じゃあ次は百五十回だ」

「増えてる!」


 容赦がない。


 結局、悲鳴を上げる腕で素振りを続ける。

 終わる頃には汗でシャツが張り付き、息も絶え絶えだった。


「次、走るぞ」

「……まだあります?」

「あるに決まってんだろ」


 地獄か。


 ルナはそんな俺の横を軽々と走る。

 月牙闘士の名に恥じない身軽さだ。悔しいが、彼女の動きは見本になる。


「コーイチ、遅い」

「知ってる……!」

「足、もっと前」

「口で言うのは簡単だな!」


 それでも、少しずつ変わる感覚はあった。


 身体を動かし続けるうちに、ガレスから得た“重心”の意識と、ルナの“踏み込み”の感覚が、前より滑らかに繋がっていく。借り物だったはずの断片が、反復で少しずつ自分の身体に馴染んでいくのだ。


 訓練の合間、俺は地面に座り込んで息を整えた。

 隣にルナがしゃがみ込む。


「だいじょうぶ?」

「死にそう」

「まだ死なない」

「そう思いたい」


 ルナは俺の肩を軽く叩く。


「でも、前よりまし」

「本当か?」

「うん。ちょっとだけ」


 ちょっとだけ、か。

 だが今はそれで十分だった。


 昼前、ようやく一区切りついたところで、ガレスが水を投げてよこした。

 受け取って飲む。ぬるいが、生き返る気がする。


「で、どうだ」

「何がです」

「積み上げるってのが、少しは分かったか」

「……便利な力だけじゃ無理だってことなら、嫌ほど」

「上出来だ」


 珍しく、ガレスが少しだけ頷く。


「勘違いするなよ。お前の力は間違いなく異常だ。だが異常ってのは、扱う側が凡人ならそのまま事故って終わる」

「耳が痛い」

「まだ痛がる余裕があるなら続けろ」


 ほんとに容赦がない。


 その後、ガレスは木の棒を自分で持ち、簡単な型を見せた。

 飾りのない、実戦寄りの動き。大きくも速くもないのに、隙がない。


「派手な技はいらん。まず立つ、歩く、構える、振る。そこからだ」

「はい」

「お前は色々な動きを拾える分、逆に迷いやすい」

「……それも分かります」

「なら軸を作れ。何を拾っても戻れる、自分の型だ」


 その言葉は、妙に腹に落ちた。


 俺の力は、他人の断片を集める。

 だったらなおさら、自分自身の中心がなければ振り回されるだけだ。


 夕方、ガレスが戻った後も、俺は一人で素振りを続けた。

 ルナも付き合ってくれる。


「もっと低く」

「はいはい」

「まじめ」

「やってるだろ」

「口だけじゃなくて」


 すっかり教官気取りだ。


 でも、そんなやり取りが少しだけ楽しかった。

 異世界に来て、ようやく“次の日も生きる前提”で動けている気がする。


 訓練が終わる頃には、空が赤く染まっていた。

 俺は木の棒を地面に立て、肩で息をする。


「……しんどい」

「うん」

「でも」

「うん」

「嫌いじゃないかもな、こういうの」


 言うと、ルナが少し目を丸くした。


「変」

「またそれか」

「でも、ちょっといい変」


 それは褒め言葉らしい。


 夜、廃屋の中で簡単な食事を取りながら、俺はふと会社員時代を思い出した。

 毎日同じ時間に起きて、満員電車に乗って、上司に頭を下げて、仕事を回して、疲れて帰る。あれはあれで大変だった。でも、少なくとも“今日生き残るために訓練する”みたいな切実さはなかった。


 異世界は理不尽だ。

 追放されたし、無職と笑われるし、明日の保証もない。


 それでも、ただ切り捨てられるだけで終わるつもりはなかった。


 積み上げる。

 少しずつでも、自分の足で。


 そう思えたのは、たぶん初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ