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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第3章 王国に残された同僚たち

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第13話 無職への嘲笑

 討伐依頼を一つ終えただけで、世界が変わるわけじゃない。


 それを実感したのは、ギルドへ戻ってからだった。


「おい、無職」

 昼過ぎ、依頼掲示板の前で声をかけられる。


 振り向くと、革鎧姿の若い男が二人立っていた。

 以前からラドス支部にいる冒険者らしい。俺より少し年上か、同じくらいか。腕組みをして、こちらを見下ろす目に露骨な嘲りがある。


「何か」

「何か、じゃねえよ。最近ちょっと調子に乗ってるらしいな」

「牙犬を狩ったくらいで一人前気取りか?」

「別にそんなつもりはないですけど」


 正直にそう返すと、二人は顔を見合わせて鼻で笑った。


「無職のくせに偉そうだな」

「つーか、あの獣人のガキのおかげだろ?」

「お前、自分は強いと思ってんのか?」


 思っていない。

 だがわざわざ否定してやる義理もない。


 黙っていると、それが気に入らなかったのか、一人が肩を小突いてきた。


「聞いてんだよ」

「やめてください」

「なんだよ、怒った?」

「無職が怒ってるぞ」


 周囲で何人かが苦笑する。

 止める者はいない。


 ギルドはこういう場所だ。

 強い者、古株、声の大きい者の方が通りやすい。


 ルナは今、町外れの廃屋で待っている。

 連れてこなくてよかった、とまず思った。ここで彼女まで嫌な目に遭わせたくない。


「無職って、ほんとに職業ねえの?」

 一人が面白がるように顔を寄せる。

「それでよく生きてんな。見世物小屋でも入るか?」

「……」

「おい、何とか言えよ」


 また肩を押された。


 腹の奥が熱くなる。

 でもここで殴り返したら、面倒になるのはこっちだ。


 俺は一歩引いて距離を取った。


「依頼を見る邪魔なんで、どいてもらえますか」

「は?」

「邪魔です」


 一瞬、空気が止まる。


 相手は露骨に顔色を変えた。

 たぶん、言い返してくると思っていなかったのだろう。


「お前……」

「格好つけてんじゃねえぞ」


 次に来る。

 そう思った瞬間、自然と身体が備えていた。


 右の男が胸ぐらを掴みに来る。

 盗賊崩れから写した荒っぽい動きなら、その癖は読める。


 半歩ずれて腕を流す。

 相手の手首を軽く払うだけで、体勢が崩れた。


「なっ!?」


 驚いた声。


 倒しはしない。

 ただ距離を作る。


 もう一人がカッとなって踏み込んできたところで、低い声が飛んだ。


「そこまでにしとけ、阿呆ども」


 ガレスだった。


 酒場の奥の席から立ち上がり、面倒くさそうにこちらへ歩いてくる。

 それだけで、絡んできた二人の顔が少し引きつった。


「ガレス……」

「ギルドで喧嘩すんなっつっただろ。脳みそ牙犬か」

「こいつが生意気で……」

「生意気なら何だ。お前らの方が仕事できんのか?」


 痛烈だった。


 二人は何か言い返そうとしたが、結局できずに舌打ちする。


「ちっ……行くぞ」

「覚えとけよ、無職」


 ありがちな捨て台詞を残して去っていく。

 正直、少しだけ助かった。


「ありがとうございます」

「礼を言う前に、もう少し上手く流せ」

「無理です」

「だろうな」


 ガレスは鼻で笑い、近くの椅子を顎で示した。


「座れ」


 促されるまま腰を下ろす。

 ガレスは向かいに座り、酒ではなく薄い茶みたいなものを二つ頼んだ。


「苛立つのは分かる」

「……顔に出てましたか」

「出る。お前はまだ分かりやすい」


 返す言葉もない。


「だがな」

 ガレスは湯気の立つ茶を一口飲む。

「力があるかどうかと、認められるかどうかは別だ。特に冒険者なんざ、自分の物差しでしか相手を見ねえ」

「実感してます」

「だったらなおさら、無駄にぶつかるな」


 正しい。

 頭では分かっている。


「でも、言われっぱなしも癪なんですよ」

「若いな」

「二十五です」

「十分若えよ」


 そう言われると微妙に納得できないが、ガレスにとってはそうなのだろう。


 しばらくして、ガレスがじっとこちらを見た。


「さっきの手首の流し方」

「はい」

「誰のだ」

「……たぶん、前に触れた盗賊崩れの」

「やっぱりか」


 ガレスは小さく息を吐いた。


「お前、本当に妙な力だな」

「自分でもそう思います」

「気味悪がられるのも分かる」

「そこはフォローしてくださいよ」


 思わずそう返すと、ガレスは珍しく少しだけ口元を緩めた。


「だが悪くねえ。少なくとも、生き残る力にはなる」

「それなら十分です」


 ガレスは頷き、椅子の背に寄りかかる。


「一つ教えとく。力を積むだけじゃ、強くはならねえ」

「……と言いますと」

「お前のそれは、誰かの欠片を拾う力だ。だが土台がなきゃ、いずれ身体も頭もついてこなくなる」


 その言葉は、ここ数日の戦いで何となく感じていたことと一致していた。

 ルナの身体運用を写しても、俺の筋力や柔軟性は彼女と同じじゃない。ガレスの野営知識を得ても、経験値そのものが一瞬で増えるわけじゃない。


「じゃあ、どうすれば」

「鍛えるしかねえ」


 あまりにも当たり前の答えだった。


「走れ。素振りしろ。体幹を作れ。呼吸を整えろ。冒険者はそこをサボって死ぬ」

「地味ですね」

「地味なもんが一番裏切らねえ」


 その一言に、不思議と説得力があった。


 ギルドを出た後、俺は廃屋へ戻る前に少しだけ市場で安い食料を買った。

 パンのようなもの、干し肉少し、安い果物。銀貨が減るたび胃が痛むが、食わなければ動けない。


 廃屋に戻ると、ルナがすぐこちらへ寄ってきた。


「遅い」

「すまん。少し絡まれてた」

「……人?」

「人」

「めんどくさい」

「ほんとにな」


 食べ物を分けながら、ギルドでのことを話す。

 ルナは途中から露骨に不機嫌になった。


「その人たち、ルナが蹴ればいい?」

「だめ」

「なんで」

「余計面倒になる」

「もう面倒なってる」

「それはそうなんだけど」


 言い返せなかった。


 ルナはパンを齧りながら、むすっと言う。


「コーイチ、見た目よわそう」

「知ってる」

「でも中身も、まだわりとよわい」

「容赦ないな」

「だから鍛える」


 それはガレスと同じ結論だった。


「……よし」

 俺は干し肉を飲み込み、立ち上がる。

「明日からじゃなくて、今日からやるか」

「いま?」

「いま」


 ルナの耳がぴくりと立つ。

 少しだけ楽しそうだった。


 無職と笑われる。舐められる。絡まれる。

 それはきっと、しばらく続く。


 だったらせめて、笑われたままでは終わらないようにしよう。


 その夜から、廃屋の裏手での訓練が始まった。

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