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第40話 怒りの言葉と新たな転移者

「——全員出て来い」


 その瞬間、威圧感にも似た魔力がシェリアから溢れ始めた。その眼はまっすぐ、農民区画で一番大きな家に向けられていた。農民たちは、それでも家から出なかった。怯えていた。シェリアにではない。シェリアを殺せなかったことに。

 シェリアは、それが分かってさらに威圧的な魔力を開放した。アリスですら、耐えきれなくて地面に座り込んでしまうほどに。

 その直後、シェリアから溢れていた魔力が霧散した。


「出てこないならいい。そのまま聞いていなさい」


 怒っていた。心の底から、シェリアは怒っていた。


「この世界に、道具になる生命はあってはならない。人にその選択を迫られることも、自分でその選択をすることも——人生は数多くの選択の連続だ。だからこそ、生きることが選択の理由であるべきだ。生きている限り、選択は続けられるしやり直せる。でも、死んだ瞬間それが終わる。すべてが終わるんだよ。その選択を、こんな小さな子供に受け入れさせるなんて……お前らはそれでも人間か!」


 そう強く言い放ったシェリアの腕は、ぎゅっと男の子を抱きしめていた。


「死の恐怖は誰にでもある。奪われる恐怖も、理不尽な運命に人生を歪まされる恐怖も。それから逃げることは簡単だし、必要が無ければ向き合わなくてもいい。でも、今この状況で君たちは何を思っている?恐怖か?怒りか?それとも、私に対する敵対心か?そのどれもが、己の未熟さだと自覚しなさい。勇気を出して命を投げ打とうとしたこの少年よりも弱い自分を、強い後悔として心に刻み込みなさい」


 シェリアの言葉は鋭い。数日前にシュリーに話した時よりも鋭くて強い言葉を、シェリアは意図的に選び続けていた。


「お前らが望むのであれば、今すぐお前らと戦うことだってできる。戦うつもりなら、そのまま隠れていなさい。戦う意思がないのであれば出てきなさい。もし出た瞬間に何者かに殺されるのであれば、そいつが私の敵になるだけだ。そして1つ。その存在が『闇蜂』であるならば、その心配は必要なくなったものであることを教えなければならないね。『闇蜂』はすでに私たちによって滅んでいる」


 シェリアが話し続けた中で、農民の間に動揺が走ったのはこれが2回目であった。


「この話をしたうえでもう一度聞こう。お前らは私たちと戦うのか、戦わないのかどちらだ。そのまま隠れているのであれば、私は容赦なくこの区画を破壊する。隠れることをやめて私たちの前に姿を現すのであれば、今この瞬間までの無礼は無かったことにしてやる。そして——」


 シェリアがその先の言葉を発する前に、農民たちは怯えた足取りで建物の中から出てきた。全員が、農民区画の寂れた状態からは想像できないほどに普通の服を着ていた。それこそ、商業区画の人々と同じような服を。

最終的にこうなることは、シェリアにとっては想定通りだった。そう、小さな子供を命令を遂行するための道具にしたこと以外は。

 シェリアが言葉を止めてから5分ほどすると、農民区画の人間がほとんど全員シェリアの前に出てきた。ただ1人、農民区画の長を除いては。


「……どうやら、この村と繋がっていたのは『闇蜂』だけじゃないみたいだね。じゃあちょうどいいや」


 シェリアがそう言った瞬間、魔力の風だけで農民区画の長が住んでいる少し大きな家を吹き飛ばした。そして慌てた様子で家の残骸から出てきたのは、シェリアが人間界に来てから初めて見た程に豪華な装飾が施された服を着た中年の小太りの男性だった。

 その男性を見た他の農民たちの様子から、彼のこれまでの独裁的で身勝手な振る舞いを察することができるほどにはこの空間で浮いていた。


「今、本人に聞くことができるからね」





・・・





 シェリアに隠れていた家を吹き飛ばされ、農民たちから嫌悪の眼を向けられたままさっきまで立っていた場所に引きずり出された農民区画の長は、連れてこられたばかりの子犬のような様子で正座して全身に力を入れて俯いていた。


「いくつか聞きたいことがある」


 地面に脱ぎ捨てた服と帽子、そして置いた杖を持ったシェリアは農民の長に対して冷たい声色で話しかけた。


「まず1つ。この子に、爆発魔法を起動させるように指示したのはお前か?」

「……はい、そうです」

「次。誰の指示でやった?『闇蜂』はわかっている。だけど、お前の場合は他にもいるだろ。誰の指示だ?そして、誰と繋がっている」

「それは……」


 農民の長はそこで言葉に詰まり、体の動きや息遣いからでも強い動揺が伝わってきた。

シェリアは答えが発せられるまでじっと待ち続けた。数分か、はたまた数十分か。長い沈黙の後に農民の長が発した名前は、シェリアの想像通りの名前と、シェリアが知らない名前だった。


「……国王様と、ユウジ様です」

「そう。そのユウジという者は、何者だ?」

「少し王都方向に進んだ先に、ハナブサ町という名前の町があります。その町の長が、ユウジ・ナカガワ様です。彼とは先代から繋がりがあり、個人的な支援をしていただいておりました。彼の要求する、子供や大人を引き換えに」


 その言葉を聞いた瞬間、農民たちの間に怒りの波が一気に広がり始めたが、シェリアの「落ち着いて」という言葉でほとんどの人間が言葉をぐっと飲み込むことができた。それでも数名——恐らく被害者の家族が大きな声を出して農民区画の長に対して非難し始めた。

 そんな人たちにシェリアは、魔法で作った風を顔に当てて再度「落ち着いて」と声をかけた。それでも何かを言おうとした者はじっと睨みつけて強引に言葉を飲み込ませた。


「みなさんが私に恨みを持つのは、当然のことです。もうこのまま私を殺してくださいませんか?」

「……逃げるの?」


 短くて鋭いその言葉。この言葉を発したのは、渦中の人間の前に立っているシェリアではなく——


「この期に及んで、また逃げるの?ジェッジおじさん」


——後ろでじっと様子を見ていたアリスだった。






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