↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/48

第36話 教えと憧れ

「……帰ろうか」


 重い沈黙を破ったのは、シェリアのそんな言葉だった。声色はいつも通りで、数分前に目の前で残酷な光景を目の当たりにしたとは思えないほど落ち着いていた。

 アリスとフィルの反応は、無かった。それでも、既に一歩を踏み出したシェリアに続こうとしていたが、足が震えてまだ動くことができない様子だった。


「——うん。それじゃあ2人に少しだけ、おばあちゃんからありがた~いお話をしようじゃないか」


 そんな2人の様子を見て、シェリアは優しく笑いながらそう言った。そして2人の近くに座って、2人にもその場所で座るように促した。


「さてと——まずは2人に質問。どうして私が、今こんなにも冷静なんだと思う?」


 その質問に2人は、顔を見合わせてお互いに首を横に振るだけだった。


「そうだよね。まぁ、普通に考えたら長く生きてるから?とか、たくさんこういう状況を経験してきたから?とかが思い浮かぶかな……私ね——」


 シェリアは、ゆっくりと歌うように言葉を紡ぎ始めた。聞いているだけで心と表情が和らいでいくような、そんな話し方だった。話の内容は、シェリアが経験してきた命がけの戦いの結末たちで、その全てが2人にとって新鮮で驚きの内容だった。


「——そのあと私、決まってすることがあるんだ。それはね、戦った場所を離れながら戦いを思い返すこと。そして、星空を眺めながら殺した相手を思うことなんだ」

「殺した相手を思う……?」

「うん。例えば、今までどんな人生を送ってきていたのかなとか、殺した瞬間にどんな感情だったのかなとか。他にも、どうしてそんな能力を持っていたのかなとか、どうしてそんな考え方を持っていたのかなとかたくさん。そうやって考えてると、当たり前だけど少しずつ夜が明けていくんだ。それが少しずつ私の心を晴らしていってくれるような感じがして、なんだか前を向くことができるんだ。もちろん、殺した相手全員の顔も能力も覚えてるよ」

「……それは、何かきっかけがあったの?」

「魔王の教え。あいつは私に、ただ殺すだけだといつか足元をすくわれるって教えてくれたんだ。最初はよくわからないままやってたけど、それが実感になって変わった瞬間があったんだ。それが、『転移者』との2回目の戦い。本当に足元をすくわれそうになって、その瞬間に魔王の言葉を思い出したんだ。それまでは、ただ気晴らしに空を眺めていた。でも、変わったんだ。それからも何度も何度も『転移者』と戦ったけど、その度にちゃんと戦いと相手のすべてを思い返すようになったんだ。これが私のきっかけ」


 そう話すシェリアは、どこか楽しそうで、そして懐かしさに浸っているようで——


「2人も一緒にどう?今日は星がきれいだよ」


 そんなシェリアに引っ張られるように、2人が立ち上がって出入り口まで歩み始めた。足の震えは止まっていて、曇っていた表情は普段の表情に戻っていた。そんな2人は、シェリアを巻き込みながらハジメとの戦いやハジメのことについて話していた。もう、2人の眼はまっすぐに前を見ていた。

 こういうのも悪くないなと思いながら、シェリアは先陣を切って階段を昇っていた。

 光が見え始め、地上まであと少しのところでシェリアが立ち止まった。その眼はさっきまでとは違って、戦いが始まる直前の眼をしていた。


「やっぱり釣られてきちゃったか」


 その言葉を受け、2人も一緒に杖を取り出して臨戦態勢を取りながら光の場所をじっと見据えた。シェリアの視線の先、そこには3人をじっと見ている人型の魔物の姿があった。


「ま、魔人……!」

「へぇ、あれが魔人か」


 シェリアはそう言って、ハジメと戦っていた時に見せた不敵な笑みを浮かべながら杖を構えた。

 魔人はそれに応じるように、手をシェリアに向けて魔法を詠唱し始めた。聞こえる声は3つ、出入り口から見せている顔は2つ。それ以外にも魔人がいるかもしれないが、狭い空間にいる3人には観測することができなかった。

 だが、シェリアは迷わなかった。


「2人は結界魔法で巻き込まれないようにしながら階段を昇ってね。私はあいつらを残さず始末するから」

「……お気を付けて」

「大丈夫大丈夫。私、強いからさ——」


 そう言って魔人から目を逸らしたシェリアに、魔人による魔法が襲い掛かった。すべてが単調な単属性魔法。シェリアは魔法を見ることなく、魔力を纏わせた杖を振って魔法を全て相殺しながら方向転換した。そして魔人をじっと見て一気に距離を詰めた。

 アリスは、結界魔法を張って自分とフィルを守りながらシェリアの後を追った。

 アリスたちが出入り口の外に出た瞬間、2人が固まってその光景を見ることしかできなかった。2人の眼に入ってきた光景は、魔法使いと魔人の戦いとは思えないほど苛烈だった。

 魔人の数は5体。その全てが空中でシェリアを追いながら、3属性複合魔法を撃ち続けていた。その攻撃をすべて空中で回避しながら、シェリアは確実に1体ずつ『波導(ウェイド)』を当て続けていた。攻撃の数や使っている魔法の種類は圧倒的に魔人が有利なのに、戦いで主導権を握っているのはシェリアだった。


「か、かっこいい……!」

「うん。私も、あんな戦いをしているシェリアは初めて見たけど……ほんと、すごいよね。シェリアって、普段は落ち着いてて優しくてどこか抜けてる……そう、まるでお母さんみたいな存在だけどさ」


 アリスは、空中で無邪気な笑みを浮かべながら戦っているシェリアを見ながら噛み締めるように話し始めた。


「さっきもそうだったけど、シェリアって純粋に戦いを楽しんでるよね。一方的な戦いじゃなくて、お互いの実力が拮抗している緊張感のある戦いをさ。すごいよね。自分に枷を付けてまで、戦いを楽しめる状態を作ってるんだから」

「そうだね。でも、なんだかそれがシェリアっぽいかも」

「フィルもそう思う?私も一緒。だから、シェリアは信頼してるし尊敬してる。それに——」


 5体すべての魔人を全て地面に叩きつけ、その中心に降り立って服や髪型を整えているシェリアを見ながら呟いた。



「——私もそうありたいって、思うんだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。