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第31話 信頼と絆

「さて、具体的な作戦を立てようか。グスタフはシュリーと一緒にこの家の中で待機してて。仕事は、フレイザに頼んで『闇蜂』との戦いが終わるまで給料ありの休暇にしてもらっているから大丈夫。もちろん、外部から攻撃されないように特殊な結界を張ってあるから安心して。外部、内部共に攻撃されないようになってるから」

「わかりました。ありがとうございます、魔女様」

「それとフィル。フィルは私に着いてきてもらうよ。大丈夫。フィルのことはちゃんと守るから」

「は、はい……!頑張ります」

「えっと、私は?」

「死なないように頑張ってね。以上」


 次の日の夜、ギルドから帰ってきたシェリアを中心に作戦会議が進められていた。この日は襲撃されることはなかったが、常に『闇蜂』の人員が監視しているような動きがあった。

 シェリアは、これ以上『闇蜂』の動きが活発化する前に叩く必要があることをギルドにいるときにフレイザに伝え、自分で作戦を立てて動くから手出し無用であることも併せて伝えていた。


「さて……具体的な作戦だけど、まずは『闇蜂』の本拠地を探し出す。それから、時を見て私とアリスとフィルで叩く。主に戦うのは私とアリスで、フィルは支援役。フィルの魔法は後方支援役に向いているからね。ただ、『転移者』との戦いは私がやる。アリスは周りの取り巻きたちを片付けながら私の戦い方を見ておいて。正直、学びに繋がる自信は無いけど損はないでしょ?」

「うん!わかった」

「戦い方だけど、フィルは支援全力。特にアリスを助けてあげて」

「は、はい!シェリアちゃんも、支援できそうだったらするね」

「ありがとう。でも無理はしないでね」


 シェリアはそう言ってフィルに優しく笑いかけた。


「それで、アリス。これは私とアリスだけの問題だけど……」


 そこまで話してから、シェリアはフィルとシャイル夫妻を見て考え始めた。何を話そうかではなく、この場所で本当に話していい内容なのかを考えている様子で。アリスはそんなシェリアを見てなんとなくシェリアが何を言おうとしているのかを察し、「大丈夫だよ」と声をかけた。


「……アリスがそう言うなら。このことは、本当に他言無用にしてほしい内容だから、本当にここだけの話にしてね」


 シェリアの言葉に、3人は迷わず頷いた。


「——これは、この世界で私とアリスだけが該当する問題。『転移者』相手に、星属性魔法を使ってはいけない。私が今まで戦ってきた『転移者』の中に、私の使った魔法をそのまま扱ってくる敵がいた。もし相手が最初から星属性魔法、又はそれに準ずる魔法を扱ってきた場合を除き、星属性魔法を扱ってはいけないよ。相手の『絶戴顕界』は、この世界の常識が通用しないんだから」


 誰も、言葉を発することができなかった。

 だが、その沈黙はフィルの言葉によってすぐに打ち砕かれることとなった。


「星属性魔法って、どんな魔法なの?」

「簡単に言うと、この世界で『魔女』である証明である魔法。世界に存在する7属性の魔力と、自然に存在している無属性の魔力を混ぜ合わせて作る魔力を用いる魔法だね。見たい?」

「……はい。お願いします」

「うん、わかった」


 その直後、世界が揺れた。グスタフとフィルにとっては2回目のようで初めての体験。その場に空が生まれたかのような魔力の風。それが星座のような模様を持つと同時にシェリアの髪の毛と瞳の色が変化していった。

 世界に静寂が訪れてから数秒後、シェリアは「ふぅ」と1つ息を吐いてから左手に魔力の球を創り出して机の上にそっと浮かべた。


「これが、星属性。私たち魔女の、本当の最終奥義」

「……この姿を見るのは2度目ですが、やはり異次元すぎますね。なんと言いますか、魔法の深淵のようなものに触れているように感じます」

「うん……でも、今はすごく安心する」

「ありがとう。それで、今何気なく置いてあるこの魔力。少しでもバランスが崩れるとそのまま崩壊してこの町は全部吹き飛ぶから気を付けてね」

「……ねぇシェリア、みんな怯えちゃってるから早く回収してよ。それに巻き込まれたら私たちだってただじゃすまないでしょ?」

「いいじゃん。ちょっとしたお遊びだよ」


 机の上に出した魔力を持ち上げながら、シェリアは『神の成れ果て(ルイン・オブ・ルーン)』を解いた。そして、本題に戻すために1つ咳払いをしてから話し始めた。


「さて、それじゃあ作戦会議はこの辺にして動き始めるとしようか」

「うん!」

「はい!」

「元気でよろしい。それじゃあ目標は、全員無事にここに戻ってくること。行くよ」


 そうして、シェリアはアリスとフィルを連れて屋敷の玄関扉を開けた。

 外は夜。風の音すら聞こえない世界で、3人の足音は強く響き渡った。





・・・





「ねぇシェリア」

「なんだいなんだい?」


 屋敷と町を繋ぐ森の中。3人しか聞こえない声で、アリスがシェリアに質問した。


「なんでこの時間に出たの?探すだけなら朝まで待ってからでもよかったんじゃない?」

「じゃあ1つ。魔力探知に最適な条件は何だと思う?」

「……あっ」

「そっか……この時間なら広範囲の探知でも絞れるんですね」

「そゆこと。うん、この辺でいいかな。アリスとフィルは私が探知した中から探すのを手伝ってね」


 町に繋がる裏道に出る直前でシェリアは立ち止まってそう言った。

 そうしてシェリアは目を閉じ、魔力探知の輪を町全体に一気に広げた。広範囲の探知は、魔力の扱いに長けているシェリアであっても大まかな探知しかできない。だが、夜の深いこの時間では動いている対象が少ないため最適な方法の1つになっていた。アリスとフィルはシェリアの背中に手を当て、魔力探知に参加した。

 見つけ出すまで、あまり時間はかからなかった。


「——見つけた」


 この時間でも活発に動きを見せている場所。それは宿屋が立ち並んでいる場所にあった。

 シェリアは魔力探知を解いてから一度目を開き、魔力の動きや質まで探知できるものに切り替えてその場所を調べた。

 そしてシェリアは、闇属性の魔力で繋がった多くの人間と、何もない場所に繋がれている複数の不自然な魔力の線を見つけた。


「うん、ここで確定だね。そして、相手の『絶戴顕界』は探知阻害あるいは魔力や存在の隠蔽のようなものだろうね。後はどこまで隠れられるのか、かな。存在そのものを相手の意識から隠すことができるのであれば、覚悟して戦わないとね」

「でも、この人数なら私たちで戦えそうだね」

「ほ、本当に戦うことができるのでしょうか……」

「ふふっ。まだそんな心配をしてるの?」


 不安そうな表情で呟いたフィルに、シェリアは無邪気に笑いながら振り向いた。そして、空中に出現させた魔法陣から杖を取り出し、杖の先をフィルに向けた。


「えっと……」

「信頼と絆の証。あれ?もしかして、初めて?」

「……ごめん、私も知らない」

「え?!魔法使いが杖の先を合わせて信頼と絆を表すのは、遥か昔から続けてきた儀式なんだけど……消えちゃった?」

「お、おそらく?」

「でも私やってみたい!」

「はい!私もやってみたいです!」

「……そっか。ありがとうね2人とも」


 そうしてアリスとフィルは、楽しそうな様子で収納魔法から杖を取り出した。その際にフィルが上手く取り出せず四苦八苦していて、シェリアとアリスは吹き出していた。そんなこともありつつ、3人は杖の先を当てた。暗闇の中、静かで穏やかな、それでいて微かな時間。それでも3人にとって、これからの戦いに向けて士気を最高潮にするには充分すぎる時間だった。







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