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第29話 瞬殺とお茶会

 夜になり、グスタフの仕事が終わるまでシェリアはフレイザと会議室で作戦会議を続けていた。その間もフレイザはギルド長としての仕事をこなしており、その様子を見ながらシェリアはひたすら情報の整理をしていた。

 町の構造はシェリアが人間の世界にいた時から複雑化しており、商人と農民と冒険者が入り混じっているせいで独特の様相を呈していた。

 この中でも特に情報量が多いものが冒険者関連の情報で、この情報の整理がこの日の作業の9割となっていた。その中でもシェリアが引っ掛かった内容は、冒険者の中で魔法を使う人間が極端に少ないということ。冒険者のパーティーが5人で1つが平均的であったが、その中で魔法使いの人数は多くても2人。中にはいないパーティーもあった。


「師匠、そろそろギルドを閉めたいのですが……」

「ん?もうそんな時間なんだね。ありがとう、出ようか」

「ちなみにですけど、これってこの部屋を出た瞬間から偽装するんですよね?」

「もちろん。私は、この町では生き別れたアリスの双子の姉って設定だからね。くれぐれも間違えないようにね。この町で一番権力があるフレイザが敬語使ってたら、町全体が驚いちゃうからね」

「それもそうですね」


 そんな話をしながら、シェリアは帽子を深くかぶって部屋から出た。部屋の外には、帰り支度を済ませたグスタフが待っていた。他の人はもう帰ったようで、朝は冒険者で賑わっていた酒場も静まり返っていた。


「……2人?いや、4人いるね。2か所に2人ずつ」

「ねぇ、グスタフちゃん。酒場の締め作業をしたのは誰か教えてもらえるかしら?」

「はい。今日はマノンさんと、シルドルさんでした。お2人とも、隅々まで確認されていたので、事前に潜入していたのであれば気づくはずです」

「う~ん、それもそうよね。それに、争った形跡も無いし——」

「——来るよ」


 シェリアが静かに、そう言った瞬間に机の下から黒い服を着た刺客が一斉に攻撃を仕掛けてきた。2人は刃物を持って突撃し、残りの2人は暗闇の中から闇属性の魔法を撃つ為の詠唱をしていた。その全てが、グスタフを狙った攻撃であった。

 シェリアは即座に前に駆け出し、受付内に入ってきた刺客の首を魔力で保護した手刀で切り離した。頭を失った体は勢いのまま地面を滑っていき、グスタフの足元付近で止まった。もう1人はその光景を見てシェリアを避けようとしたが間に合わず、首根っこを掴まれて2回転したのちそのまま空中に投げ飛ばされた。それも、魔法の射線に重なる場所に。その直後、刺客の魔法が空中の男の体に直撃し、跡形もなく体組織を崩壊させていた。


「……すごいですね」

「うふふ。すごいでしょ、私の師匠は」

「ええ。本当に規格外な人です。それ故に、私たちのことを本当の意味で救ってくださりそうです」


 グスタフとフレイザは、急襲してきた4人の刺客を1分程度で全滅させている光景を見ながらそんな話をしていた。

 残った魔法使い2人を闇属性の魔法で殺しながら、シェリアは悲しげな表情で小さく息を吐いた。

 実力差があまりにも開いているとはいえ、状況や環境的要因は圧倒的に刺客側が有利であった。それなのに、刺客はそれらを一切活かすことができずに死んだ。あまりにも愚かで、味気のない敵だった。例えそれが、殺すべき刺客との戦いであっても、シェリアとっては悲しい現実だった。

 シェリアは、残った2つの死体を闇属性魔法で痕跡ごと消しながらグスタフとフレイザが立っている場所まで戻った。


「早かったですね、師匠」

「うん。でも、みんな弱すぎる。実力はそれなりにあるのに、ただ不意打ちで攻撃することしか知らない。あまりにも陳腐で愚かな人間だよ」

「それは……かなり手厳しいお言葉ですね。ですが、きっと魔女様にとって今の時代の魔法使いや戦士は物足りないのは事実でしょうね。そういえば、フレイザさんと魔女様は戦ったらどちらが強いのですか?」

「圧倒的に私。今日の摸擬戦は3分で決着した」

「人類最強の魔法使いであるフレイザさんでも、魔女様とはそれほどまでに差があるのですね」

「うぅ……100年前はもっと続けられたもん」


 先ほど襲撃されたとは思えないような和やかな空気が、3人の間に流れていた。そうして少し話した後、グスタフとシェリアは家族が待つ家への帰路に就いた。少しはしゃいだ様子でグスタフと一緒にギルドを離れるシェリアの姿を見ながら、フレイザは思わず笑みをこぼした。


「ほんと、変わってないですね。師匠は」





・・・





 シェリアとグスタフがギルドに働きに行っている時間、シャイル宅にて平和なお茶会が開かれていた。丁寧に手入れされた庭園に傘のついた円卓と、貴族特有の背もたれの装飾が豪華な白い椅子が用意されていた。


「うわぁ~!なんか貴族のお茶会って感じ!」

「えへへ。私も、この感じ久しぶりで嬉しいな」

「ふふっ。たまには私も、元貴族らしいことをしたくなっちゃったのよ。それに、いろんなお話聞きたいしね。それこそ、学園でのフィルのお話とか!」

「もちろんです!私も、私がいなくなった後のこの町のこと知りたいです!」


 シュリーがお茶とお菓子を円卓の上に乗せ、2人を椅子に座るように促した。

 時間は3時ごろ。程よく温かい陽気の中で、3人は想い出話に花を咲かせた。基本的に話していたのはアリスで、シュリーが質問をして話を広げ、フィルが懐かしんだり驚いたりしながら聞くという感じだった。話している内容も、ほとんどが学園時代の話だった。それでも時間は走るように過ぎ去り、気が付いた時には空が茜色に染まっていた。


「あら?もうこんな時間だわ。そろそろお開きにしましょうか」

「そうですね!ただ——」

「ど……」


 立ち上がったばかりのシュリーがアリスに聞き返そうとした瞬間、シュリーの目の前で何かがはじけた。風や衝撃はない。シュリーもフィルも状況を呑み込めていない。だが、アリスは迷わず森の中に向かって手のひらを向けた。その瞬間、無数の魔法陣が何かを囲うように出現し、それぞれの魔法陣から単属性の魔法弾が大量に撃ち込まれた。悲鳴が聞こえたのは数秒間。その後はただ魔法がぶつかる音しか聞こえなかった。


「アリスちゃん、もしかして……」

「1人だけでしたが、ずっと私たちを狙っていました……まさか今狙ってくるとは思いませんでしたが」

「そ、そうだったのなら早く言ってよ~!私、本当に死ぬかと思っちゃった」

「それについては安心してください。私、こう見えても魔女の後継者難ですよ?私やシェリアがいる限り死ぬことはないです!」

「ほんと、人生って何が起こるかわからないわね。よし!それじゃあ気を取り直して、晩御飯の用意にしようかしら。2人とも、手伝ってくれる?」

「もちろん!」

「もちろんです!」


 そうして、3人で仲良く夕飯を作りながらグスタフとシェリアの帰りを待っていた。その間も様々な話に花を咲かせており、まるで家族のような時間が流れていた——


「ただいま。今戻ったよ」

「ただいま。みんな……ふふっ。まるで家族みたいだね」

「あら?そうかしら?2人はどう思う?」

「私はずっと家族だよ。当たり前じゃん」

「えへへ。でも、私も懐かしいなって思いました!」

「そっか」


——そしてそれからも、グスタフとシェリアも一緒になって家族のような時間が流れた。


「さて、明日から本格的に『闇蜂』対策を始めようか」


 そう、シェリアが夕食後にこの一言を言い放つまで。







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