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第27話 変化と朝食

 次の日の朝、フィルが起きて1階に移動すると、外から誰かの話し声が聞こえてきていた。

 気になったフィルが玄関の扉を開けると、外には地面に座ってくつろいでいる2人の魔女がいた。2人の魔女は何も話していなかったが、朝焼けに照らされている2人の光景は神秘的で、フィルは思わず見とれてしまっていた。

 そのままフィルが外に一歩を踏み出した瞬間、2人の魔女が同時にフィルの方を見た。後ろ姿や顔だけでは2人とも全く同じ見た目で区別できなかったが、フィルを見た瞬間の表情の変化で、フィルは2人を見分けることができた。


「あ!おはようフィル!」

「おはよう、アリスちゃん。シェリアちゃんも、おはようございます」

「うん、おはよう。あと、堅苦しいから敬語は止めてほしいな。ちゃん付けはそのままでもいいけど」

「それはその……頑張りま、あっ……頑張るね」

「うん、頑張ってね。それで、フィルは朝早いんだね。もしかして、邪魔しちゃった?」

「あ、えっとその……いつもは、一番最初に起きて魔法の練習をしているん……いるの。学園で学んだ基礎的な魔法しか、使えないけど」

「そっか。それじゃあ、私たち見学しててもいいかな。私、フィルがどんな魔法を使うのか気になるし」


 シェリアの申し出に驚きつつも、フィルはその申し出を受けて家の中に緊張した足取りで杖を取りに行った。

 数分後、フィルが比較的使い込まれている杖を持ってきた。その杖にはフィルの名前が刻まれており、十分に手入れが行き届いていた。


「お待たせしました!」

「気にしないで。それじゃあ、まずは全力で魔力を開放してみて。フィルの魔力の質を知りたいから」

「はい!」


 フィルは強く頷き、眼を閉じて深呼吸をしてから杖を地面に突き立てた。そうしている内に、魔力の風がフィルを中心に吹き始めた。静かで柔らかい風。その風が薄い緑色に変わり始めた瞬間、フィルが体勢を崩して魔力が周囲に霧散してしまった。


「……こう、なっちゃうんです……」

「ねぇアリス、フィルって学園時代からこんな様子だった?」

「ううん。むしろ、魔力の色が変わってからの扱いの方が上手かったよ。だから、なんであそこで霧散したのかが……」

「なるほどね」


 シェリアは、落ち込んだ様子で杖を抱えて俯いているフィルに近づき、そっとフィルの手を取った。


「え、えっと……」

「大丈夫、安心して。私が合わせるから、フィルは安心して私に委ねて」

「わ、わかりました!」

「敬語止めてよ。私たちは、対等な仲間なんだから」

「……っ!はい!」


 フィルはシェリアの言葉を受けて、少しだけ表情が緩んだ。そして、フィルがもう一度目を閉じて杖を地面に突き立てて魔力を開放し始めると、シェリアがフィルの手を包み込むように手を重ねた。その瞬間に一瞬フィルの魔力が揺れたが、シェリアが「続けて」と静かに言うとフィルは目を閉じたまま頷いて再度集中を始めた。

 少しして、さっきと同じようにフィルの魔力の風が薄い緑色に変わり始めた。色が変わる途中で不自然に風が強くなり始めたが、すぐにシェリアの水色の魔力が外から包み込むようにフィルの魔力を安定させた。その直後、フィルの魔力の風が薄い緑色から薄い緑と淡い白色が入り混じった風に変化した。


「——これで安定したでしょ?」

「こ、これって……もしかして私、2属性の魔法使いになったの?!」

「うん。さっきのは、持っている魔力の属性が変化する時特有の症状なんだ。魔法に対して高い適正を持っている人間は、修行を続けることで2属性、3属性と属性が増えていく。私が見てきた中だと2人目だね」

「ちなみに1人目って……?」

「2人ともよく知る人物だよ。さ、今の感覚を忘れないようにもう1回やってみようか」

「はい!」


 それから、シェリアの指示を受けながらフィルの早朝修業が始まった。フィルの修業内容は2属性の魔力の扱いに慣れること。最初は1属性ずつ別々に開放するところからだったが、日が昇って空が青くなるころには別々の属性を安定して解放できるようになっていた。


「よし、朝はここまでにしようか。もうそろそろ、シャイル夫婦が起きてくるだろうし」

「はい!なんだか、すごい不思議な気分。私、こんなにやりやすかったの初めてかもです」

「それなら良かった。アリスもそのくらいにして、家の中に戻ろうか」

「わかった!」


 フィルの修業の裏でずっと体術の修業をしていたアリスも、シェリアに呼ばれて2人のもとに戻った。ちょうどその頃、家の中から3人のことを呼ぶシュリーの声が聞こえた。まるで未来予知をしていたかのような状況に2人がシェリアを訝しげに見たが、シェリアが笑いながら「そんなわけないでしょ」というと「だよね~」と言い合って笑った。そんな、平和な朝だった。

 家に戻ると、食卓の上に全員分の朝食が並べられており、グスタフが先に席についていた。


「みんな早いね。おはよう」

「おはようございます!」

「うん、2人ともおはよう」

「おはよう!今日はシェリアちゃんに魔法を見てもらってたんだ!」

「おぉ、そうだったのか。ありがとうございました、魔女様」

「私の弟子だからね。それで、グスタフ。今日の予定は?」

「今日ですかな?今日はいつも通り、フレイザさんの紹介で入会したギルドの事務をしに行く予定ですが」

「それなら私と目的地が一緒だね。せっかくなら一緒に行かない?あ、アリスとフィルは留守番しててね。それと、フィルの魔法の修業は今日はアリスが見てあげて」

「は~い。何か用事?」

「うん。良いかな、グスタフ」

「はい。私は構いませんよ。それに、魔女様と一緒に行けるのであればそれ以上の幸福はありません」

「喜んでくれるのは嬉しいけど、この町での立場はあなたの方が上。移動中やギルド以内では、私はアリスのふりをして付き従うからくれぐれも間違えないでね」

「もちろんですとも」


 その日の予定を和気あいあいとした雰囲気で話していると、シュリーが調理場から朝食の卵焼きを持ってきた。そうやって朝食と人間が揃うと、誰が言うでもなく全員が手を合わせて目を閉じた。数秒の黙祷後、全員が目の前にある食事に手を付け始めた。

 今日の朝食は卵焼きと、シェリアが見たことない小麦を焼いたものだった。


「……これ、初めて見た」

「そうなの?魔女様でも知らない物があるのね。これは『パン』っていう、小麦と水を混ぜて焼いたものなの。とてもおいしいから、ぜひ食べてみてほしいわ」

「『パン』……そっか。ありがとう。便利なものもできたんだね」


 シェリアはそう言うと、パンをじっくりと観察しながら一口かじりついた。


「……おいしい」

「よかった!町に売ってるから、ぜひ買ってってね!」

「うん、ありがとう。買ってみるよ」


 そんな様子を見たシャイル夫婦は、昨日ははるか遠い場所の存在のように感じたシェリアが普通の少女に見えることに苦笑いを浮かべていた。


「……そんなに私が不思議?」

「あっ……そういうわけじゃ」

「いいよ、みんな思うことだと思うし」

「それは、魔女様にも自覚があるということですかな?」

「ちょっとあなた!そんな直接的な——」

「そうだね」


 慌てて取り繕おうとするシュリーの言葉を遮るように、シェリアは少し照れ隠しをするように答えた。フィルとアリスは、シャイル夫婦とシェリアの会話を楽しみながら黙々と朝食を食べ進めていた。


「私は魔女。魔女だから真剣な時は本気で魔女になるし、責任を持って魔女になってる。でもそれ以前に、私は『1つ』の存在だからさ。普段は魔女のシェリアじゃなくて、ただの『シェリア』でいるだけ。そもそも、魔女って言うのは魔王と決別してからなったものだし」

「……では、我々が不思議な目で見るのは失礼ですな。今後は、ありのままの魔女様を受け入れていかせていただくとしましょう。そういえば、今日一緒に行動するときはどう呼べばいいですかな?」

「それは『シェリア』で頼むよ。大事な名前だから」

「わかりました」


 『シェリア』で頼む。そう答えた時のシェリアの表情は、宝物を自慢するような満足げな表情だった。その表情を見たグスタフは、驚きながらも心の底から納得したような表情で受け取った。

 温かい食卓。それは食事が終わった後も、グスタフとシェリアが出発する時間になるまで家の中の空気であり続けた。シェリアの行動の理由を、家に残された人たちが気にする隙間もないほどに。






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