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第26話 正体と心

「それで、今度こそ教えてくれる?あなた達が何者なのかを」


 崩壊した場所が元通りになり、全員でひとしきり笑い終えてシュリーお手製の晩御飯を5人で食べ終わった後、真剣な表情でシュリーがシェリアに話しかけた。


「……あそこまで色々と見せてしまった後ですし、お話ししましょう」


 シェリアは少し考えてから、何かを決心したように話し始めた。


「まずは、私の本来の自己紹介からすることにしよう。改めて、私はシェリア。始まりの魔女にして、世界の観測者。そして、この世界に存在する魔法すべての創造主でもあり、世界を創りし『原初の魔』の1人、原初の魔女でもある」

「そして私は、原初の魔女の弟子で、この世界における『原初の魔』の役割を継承する人間です。私たちの旅は、私が『原初の魔』の役割を継承するための旅なんです」

「そ、それじゃあ……あなたは本当に……?!」

「最初に説明しなかったのは、言っても信じてもらえないと思ったから。それに……それに、私はこの町で何が起きているのか知りたかった。だから、私の素性を明かさずに動いた。それだけ」


 シェリアの言葉を聞いたシャイル夫婦は、安堵と困惑と驚愕が入り混じった表情でシェリアとアリスの顔を交互に見ていた。その様子を見ていたフィルは、「うん、そうだよね。うん」と小さくつぶやきながら何度も小さく頷いていた。


「私の今の役目は、この世界を浄化すること。歪んだものは正し、苦しんでいる者は救う。その為の手段を、私は選ぶつもりは無い。だって私には、時間が無いからね」

「時間が、無い?でも、魔女様は不老不死だって……」

「それは継承の旅が始まるまで。継承の旅が始まった今、私に残されている時間は10年だけだからね」

「……10年、ですか。ですが、魔女様であれば可能でしょう。どうか、私たちを……いえ、人間世界を助けてくださいませんか?」

「もちろん。その為に私たちがいる。それに彼女——シュリーにはもう話したけど、グスタフにはもう一度簡単に私の想いを伝えるね」

「いえ。その必要はありませんよ、魔女様。魔女様の想いは、きっと我らを救いの道へと導いてくださることでしょう。我々にできることは、魔女様を信じ、この場所にて待つことです」


 シェリアはグスタフの言葉を受け止め、満足そうな表情で笑った。

 そしてシェリアは、両親と2人の魔女の会話を聞いているフィルに視線を移した。その瞬間、何を言われるか察したフィルはすぐに目を逸らして震えた足で逃げ出そうとしたが、そのままの姿勢で目を閉じて何かを決心したかのようにゆっくりと座っていた席に戻った。足の震えは全身の震えに変わっていて、ただでさえ小さい体を丸めてしまっていたけど、震える眼だけはまっすぐシェリアを見つめていた。そのフィルは、襲撃から助けた後にシェリアを呼び止めた時と全く同じフィルだった。

 フィルの様子を見て、シェリアは嬉しそうに「まぁ落ち着いてよ」と一言声をかけてから本題を切り出した。


「ねぇフィル、私の弟子になってくれないかい?そして、一緒に旅をしてほしい。ダメ、かな?」

「……わ、私なんかでいいんですか?私なんて、魔法を少し使えるだけで……実力も、無くて……気も弱くて……それに——」

「——フィルは優しいよ。それで十分でしょ?」

「……本当に、いいの?」

「ふふっ。ねぇフィル、私が弟子に取るときに一番大切にしていることは何だと思う?」

「え、えっと……伸びしろとか、実力や前向きな気持ちがあるかとかですか?」

 フィルの言葉を聞いたシェリアは、優しい表情で首を横に振った。

「正解は、『優しい心』を持っていること。私ね——私の弟子には、優しい魔法使いになってほしいんだ。それでさ——」


 そこで言葉を区切って、シェリアは少し身を取り出してフィルの手を取りながら笑いかけた。もう、フィルの震えは止まっていた。


「私は、フィルを素敵な魔法使いにすることはできる。でも、フィルの心を『優しい心』にすることはできない。だから私は、『優しい心』を持っている人間を弟子に取ってるんだ」

「優しい魔法使い……初めて聞きました。でも、本当に素敵ですね」

「それに、フィルは『強い心』を持ってる。私にとって、フィルはこれ以上ないくらい素敵な魔法使いの卵なんだ。だってさ——あの時も今も、逃げずに立ち向かってる。私にじゃない。自分の心の中に広がる恐怖に」


 シェリアの言葉を聞いて、ハッとした表情をしたのは、フィルじゃなくてグスタフだった。数時間前にあったシェリアとグスタフの戦闘。傍から見たら魔法使い同士の戦闘だったが、その場に立っていたグスタフにとっては経験したことのない恐怖との戦いだった。グスタフは、その恐怖に負けた。

 グスタフは、シェリアの言葉を聞くまでフィルが原初の魔女の弟子になることに反対だった。「フィルには実力はない」「フィルは心が弱い」、そんな言葉で。だが、シェリアの言葉で気が付いたのだ。フィルは心が弱いんじゃない。優しいからこそ、真に強いからこそ自分の心を殺して諦めきることができたのだ。真に弱い心を持っていたのは、グスタフだった。


「だから、私の弟子になってほしい。どうかな?」

「——はい。私でよければ」


 フィルはシェリアの手を握り返しながら笑って答えた。もう、誰も止める人はいなかった。

 継承の旅に、新しい仲間が加わった。彼女は、魔法学園の中でも魔法実技が平均より低く、理由は不明であるが魔法学園を退学させられた少女。だが、どんな恐怖にも負けない『強い心』と、原初の魔女よりも『優しい心』を持った少女だった。






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