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第23話 元貴族と約束

「ただいま~!お母さん、お父さん、友達連れてきたよ!」

「あらおかえり、フィル。あら?初めて見る子ね。お名前はなんて言うの?」

「初めまして!私、学園時代にフィルと同じ部屋だったアリスです。フィルには、本当に助けられて……フィルがいてくれたから今の私がいるんです」

「そう……あなたが、アリスちゃんなのね。フィルがことあるごとに話してたから、どんな子なのか気になってたのよ。ようこそ、本当にあなたがフィルの友達でよかったわ」

「あ、ありがとうございます!私も、フィルと友達に……いえ、親友になることができて嬉しいです!」

「ふふっ。それで、そちらの子は?アリスちゃんと本当に瓜二つね。もしかして、アリスちゃんの妹さんかお姉さん?」


 アリスが挨拶を終えると、フィルの母親はシェリアに視線を移した。

 シェリアは家の内装からフィルの母に視線を移し、丁寧にお辞儀をしてから明るい声で話し始めた。


「初めまして。私はシェリアです。私は……」


 そこでシェリアは少し迷ったように、フィルとアリスの顔を見た。そして、何かを諦めたかのような不器用な笑顔でまた話し始めた。


「……フィルさんとは今日初めて出逢いました。アリスとは、直接的な血縁関係はありませんが、魔法を教える師弟関係です」

「あら、そうだったのね!ちなみに、どっちが教える側なの?」

「それは——」

「それはもちろんシェリアが教える側です!私なんて、シェリアに比べたら本当に雑魚も雑魚なので」

「あら?でもアリスちゃんって、魔法学園で圧倒的主席だったって聞いたんだけど……」

「はい。でも、シェリアに魔法を教えてもらうようになって気づいたんです。魔法学園で教わったことは、果てしなく広い魔法の本当に一部だったんだって。それに、魔法以上に大切なこともたくさん教えてもらっています」

「そう……本当に、良い師弟関係なのね。良かったらフィルも弟子にしてもらったらいいんじゃない?」

「そんな!私じゃ足手まといになるだけだって!」


 フィルの母が口にした「シェリアの弟子になる」という提案を、フィルはすぐに無理だと断ったが、アリスとシェリアは顔を見合わせて全く同じ反応をした。

 シェリアはいたずらっ子のような表情を浮かべなら、両手と首を全力で横に振っていたフィルの両肩を後ろから優しくつかんだ。その瞬間、ぴゃあ!という悲鳴を上げながら母親の後ろに隠れるように飛びのいたが、すぐにフィルの母がフィルの両肩を掴んで前に出した。

 前に出されて、さっき襲われた時以上に震えているフィルを見て、シェリアとアリスは同時に笑い出した。この3人ならば、この先の旅でも上手くいく。それを確信するには十分すぎる時間だった。


「ねぇフィル、よかったら私の弟子にならないかい?もちろん、悪いようにはしないよ」

「うんうん!私も賛成!フィルと一緒に旅ができるなんて夢みたい!」

「あら?2人は旅をしているの?」

「え?!2人ともこの町に帰ってきたわけじゃないの?」

「あれ?言ってなかったっけ?私たち、これから世界を旅するんだよ。ここに来たのは、この先ある一番の目的に向かうための中継地点だからだったんだ」

「ち、ちなみに……その一番の目的って聞いてもいいの?」

「国王と話す」


 フィルが質問を言い終わると同時に、シェリアがその質問に答えた。その答えが、目の前の親子にとってどんなものであるかを知っていながら。

 フィルの母は、その答えを聞いた瞬間に一気に表情を曇らせた。


「いったい、何を話すというの?そもそも、あなたの訪問を国王は受け付けるのかしら?」

「間違いなく受け付ける。その先のことは、運命だけが知ってる」

「あなたは、国王がどんな人間か知ってるの?どれだけ……どれだけ自分勝手で、残忍な人間なのかを……!」


 フィルの母の言葉が少しずつ強くなっていった。その声に含まれる感情は、怒りと恐怖。元々貴族の人間だったフィルの母だ。国王と直接話す機会だってあったのだろう。そして、それによって心が傷ついてしまったのだろう。シェリアもアリスも初めて話した人間だったが、心中を察するのにそれ以上の言葉は必要なかった。

 だからシェリアは、言葉だけの慰めはしようとしなかった。その感情に向き合い、たった1つだけの約束を交わした。


「なら、私がこの先の運命を決めましょう。この際だからはっきり言わせていただきますね」

「あなた……本当に何を考えているの?」

「——今の人間世界は腐ってる。人間だけでなく、魔法も格差が酷い。吐き気がするくらいに。人間が人間に襲われるなんて、格差だけで説明していいような状況じゃない。それに、治安維持組織が形式すらなくなっている。それは間違いなく、街に集約されているからに他ならない。これは、周りの村や町にいる人間は使い捨て同然の扱いだ……この町に来る前に訪れた村でこんなことを聞いたよ。『村に誰かが訪れた瞬間、村人たちは恐れて家の中から出ないようになってしまった。時折家から抜け出した子供がいたが、そのほとんど全員が精神的にボロボロになるまで痛めつけられるか、言葉で攻撃され続けていた』ってさ。魔法だって同じだ。元貴族のあなた達の前でこんな話をするのは筋違いだと思ってもらっていい。それ自体が、格差がある証拠だから。魔法学園の基本理念はなんだ?『魔法に境界はない』じゃないのか?それを理念としている学園が、貴族だけに魔法を教え続けて他の人間には魔法を教えないような工作をしている。アリスは、元々農民の出だった。それでも本人の努力で、入学試験を主席合格して中等部では主席を維持していた。そんなアリスは、高校1年生の進級試験の時に複合属性魔法を1人で使う試験に変更されていた上、そのうち1属性だけでも基準値からそれていただけで退学。それ以外にも、他生徒や教師から執拗な攻撃を受けていた。それは、学園長ですら容認していたと聞く。それだけじゃなく、農民だったからという理由で生物実験の実験体にもされていた。これはもう、人間であるとか常識がどうとかで済ませられるような状況じゃないだろ。本当に吐き気がするんだよ。どうしてこんなことが起きている?どうしてこんな行動が常在化している?どうしてこんな仕打ちを受けている人間と、仕打ちをしている人間がいる?そしてなにより、その『どうして』を解決する人間がどうしてその場所にいないんだ?私はこの世界でいろいろなものを見てきたが、ここまで不可解な状況が揃っている理由がわからなかった。でも、この複数の不可解な状況が重なっている説明は、たった1つの要因で説明すれば一気につながる。それは、誰かによって意図的に起こされていること。そして、この状況を意図的に起こしているやつの神経と性根は腐っていること。それが今、国王につながっている。世界を収める王が腐っているこの人間世界は、本当に腐っているんだよ。人間が人間を苦しめるなんて、本当に腐っている」

「……あなた、本当は何者なの?」

「それは、私が国王を殺した後に教えるよ。約束する」

「国王を殺す……ね」


 シェリアの怒りにも似た言葉を全て受け止め、フィルの母はフィルの肩に置いた両手を震わせながら俯いて考え始めた。長い沈黙だった。そして、深呼吸を2回してから『祈り(お願い)』を口にした。


「わかりました。お願いします、この国を変えてください」

「うん、聞き届けた。それから——」


 シェリアはそう受け止めると、さっきまでとは正反対の雰囲気を纏った声で続けた。


「——フィルを弟子にする件、答えは私が国を変えた後に聞きますね!」






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