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第22話 邂逅と襲撃

「……ありがとう、もう大丈夫」

「そう。じゃあ、進もうか」

「うん」


 そんな会話をして森を抜けた頃には、空が茜色に染まり始めていた。幸いにも町の入り口に関所や衛兵がおらず、自由に出入りできるようになっていたため、すぐに泊まりの宿を探すことができそうだった。


「珍しいね、入口に何も置いてないなんて。この町はかなり開放的なんだね」

「うん。師匠の意向でね。『魔法に境界がないなら人間の間に境界なんていらないわよ』って、昔の町長に直談判したんだって。今は町長兼ギルド長みたいになってるんだけどね」

「フレイザらしいね。それじゃあ、フレイザに逢いに行くついでに泊めてもらおうかな」

「賛成!」


 それから2人は、ギルドまでの道を笑顔で話しながら歩いた。その様子は、魔法使いの真似をした双子の姉妹が仲良さげに歩いているようにしか見えなくて、道行く人々がその正体に気づくことなく温かい目で見逃していた。ただ1人、ギルドの近くを偶然歩いていたアリスと同じ年齢ほどの少女を除いて。

 その少女は、恐る恐ると言った様子で2人の少女に話しかけた。その声には驚きと喜び、そして大きな安堵が込められていた。


「ねぇ、もしかしてアリスちゃん?」

「……知り合い?」

「え?あ!もしかしてフィル?!久しぶり~!元気にしてた?」

「やっぱりアリスちゃんだ~!元気にしてた?はこっちのセリフだよ~!ねぇねぇ、今日泊まる場所って決まってる?もし決まってなかったら私の家に来て来て!」

「いいの!?ねぇシェリア、フィルが泊めてくれるって!」

「……いや、私は遠慮しておくよ。知らない人まで家に上がるのは失礼だろう?私はこのままギルドに——」

「ううん!アリスちゃんの知り合いなら大歓迎だよ!それに、アリスちゃんにそっくりすぎて最初間違えちゃったもん。シェリアちゃん、だったよね。あなたのお話もたくさん聞きたいな!それに——」


 目の前の少女——フィルが、嬉しそうにはしゃいでいた表情から一変して、今にも心の中に押し留めていた感情が溢れ出しそうな表情でシェリアに話し始めた。


「……アリスちゃんを、どうやってこんなに幸せそうにしてくれたのか教えてほしくて。それと、ここに来るまでに何があったのかも」

「そういうことなら、お言葉に甘えようかな。それに、私も君のこと興味あるし」

「そういうことなら是非!私の家に案内するからついてきて!」

「やった!それにしても、フィルはなんでこの町にいるの?」

「う~んとね……じゃあ、家まで距離あるし、その道中で話すね」


 フィルはそう言うと、町の外れにある少し大きな家を指さして「あそこだよ」と話し、2人の前に立って歩き始めた。さっきのアリスとフィルのやり取りで、それまで2人に興味を示していなかった周囲の人間たちがどよめき始めていたが、シェリア以外の2人は気にしていない様子で歩き続けていた。


「えっと、アリスちゃんには自主退学した理由までは話したよね」

「うん。教授に圧力をかけられたって」

「その後、追放されちゃったんだよね。だからもう、貴族じゃなくなっちゃったんだ。家も財産もほとんど失って彷徨っていたんだけど、ギルド長のフレイザさんが拾ってくれたんだ」

「そっか。それでこの町で暮らしてるんだね」

「そうだよ~。それに、フレイザさんは私に魔法も教えてくれてるの。本当に助けられて——」

「……2人とも、止まって」


 楽しそうに話す2人の声を、シェリアの緊迫した声が遮った瞬間——


「——ちっ!」

「……捕まえた。目的を話して」


——建物の間に隠れていた黒い服を着た刺客が、右手に持った刃物を突き出し、フィルに向かって飛び出してきた。シェリアは飛び出してきた男の右手を蹴って刃物を落とさせ、そのまま腕を掴んで馬乗りのような状態になってから男を腹から地面に叩きつけた。その間、僅か5秒。それでも、命を落としうる戦いであった。


「なんでおま……うぐっ」

「最後の忠告。目的を話して。さもないと殺す」

「へっ!それで脅しのつもりかよ。そんなんで俺が話すとでも——」

「『闇の奈落(アビゼイション)』」


 男に対するシェリアの対応は、非情だった。

 突然の出来事でフィルは完全に委縮してしまっており、今にも座り込んでしまいそうなほど足が震えていた。そんなフィルを横目に、シェリアはゆっくりと立ち上がってローブの裾を軽く払い、帽子の角度を直してから重々しく口を開いた。


「……教えて。今のは?」

「…………ひ、人を……こ……殺し……」

「……いいよ。人殺しと一緒にいたくないなら。アリス、フィルと2人でフィルの家に行ってきて。私は1人でいるから」

「ちょっとシェリア、そんな言い方……!」

「それじゃあ、私は行くね。今後のことは。また後日——」

「待って……ください」


 刺客が残した刃物だけを残して現場から離れようとしたシェリアを、震える声でフィルが呼び止めた。


「……何?」


 シェリアは立ち止まり、重々しい声で応じた。フィルの声は今にも泣き出してしまいそうなほどに震えていたが、それでも強い意志を持ってシェリアに話しかけていた。


「わ、私を……助けて、くれ……たんです、よね。あり、がとう……ご、ござい、ました……それで、その……さっきは、ごめんな……さい……シェリアちゃん、さえよ、よければ……一緒に、きて、くれませんか……?」


 フィルが息も絶え絶えになりながら話し終わっても、シェリアは振り向かず、じっと立ったままでいた。重い沈黙が場を支配し始めた頃、シェリアが初めてフィルの前で帽子を取った。そして振り返り、さっきまでの空気をかき消すような声色と笑顔でこう応じたのであった。


「じゃあ、よろしくね。フィル」

「は……はい!」


 フィルにとって永遠にも感じられる緊張が解けたからか、フィルは一歩を踏み出そうとした瞬間に地面に座り込んでしまった。シェリアはそんなフィルに近づき、背中に乗るように合図した。最初は申し訳なさそうにしていたが、アリスからの押しもあって最終的にフィルはシェリアの背中に乗って移動することになった。

 移動中、フィルは眠りそうになりながら、シェリアに先の出来事について質問していた。


「ねぇ、シェリアちゃん」

「ん?何かな?」

「さっき、なんで助けてくれたの?」

「フィルが殺されそうだったから。本当はあっちも殺すつもりなかったんだけどね……」

「じゃあ、なんで殺したの?」

「生かす理由が無かったから。あの手の輩は生かしていても碌なことにならないからね」

「そっか……それにしても、さっきの動き……あれ、魔法使いの動きじゃないよね。あの動き、どこで教わったの?」

「自己流。ああいう場面じゃ、魔法よりも自分の体で動いた方が有利になるからね。特に、こっちが魔法使いだと思って襲ってきた連中には」

「すごいね……シェリアちゃんって、何者なの……?」

「私は、始まりの魔女にして世界の観測者だよ。全部の魔法の創造主でもあるかな」

「そっかぁ……魔女かぁ………………ん?」


 「魔女」。その単語は、今にも眠ってしまいそうだったフィルの意識を叩き起こすには十分すぎるほどの衝撃を持っていた。

 次の瞬間、町中にフィルの悲鳴にも似た驚嘆の声が響き渡ったという。






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