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第21話 英雄と帰郷

「ねぇシェリア」

「なんだい?」


 村から出て数時間ほど何もない道を歩いていた時、アリスが気になっていたことを話した。

「移動魔法とか空を飛ぶ魔法とかもあるのに、歩いて移動するんだね。このままだと、私の町まで3日くらいかかるよ?」

「これは旅だからね。問題を解決したり、村や町を訪ねるのは目的じゃなくて私たちがやるべきことだからさ。それに、久しぶりの世界を全力で楽しみたいのさ。私は」

「……確かに、それもそうかも」


 そのまま歩みを進めていると、シェリアとアリスが同時に立ち止まった。周辺には手入れが行き届いていない森があるだけで、その森は魔物の領域と繋がっている森ではなかった。

 だが、2人は同時に立ち止まった。魔物の気配。それも、かなりの数の魔物の気配が森の中に潜んでいることを探知したからだ。


「……シェリア、どうするの?」

「う~ん……あまり派手にやりすぎるのもあれだし、攻撃してきたら殺すくらいの感じでいいかな。数もそこそこいるしね」

「わかった」


 そうして、2人が目を合わせてから大きく1歩を踏み出した。その瞬間、数十体の狼型の魔物が森の中から飛び出して2人に襲いかかり——


「『風の刃(ブレイスター)』」

「『火の風(フレインド)』」


 ——2人が歩きながら放った各属性の基礎的な魔法で、襲い掛かった魔物全てが魔力の粒子となって消失した。残っていた魔物は、ゆっくりと森から出てきて2人を包囲した。その数はさっき襲い掛かった数と同じかそれ以下の数であった。

 その直後、すべての魔物が地面に伏した。まるで命乞いでもするかのような行動。無残に殺された仲間を見て怖気づいたのか、はたまた勝てないと察して逃げる道を選んだのか。そのどちらであったとしても、魔物のこの行動はシェリアにとって虫酸が走るほど不快なものであった。


「……こいつらどうするの?」


 アリスの質問に答える前に、シェリアは容赦なくその場にいたすべての魔物を魔力の一閃だけで一掃した。

 魔力の粒子となって消えていく魔物たちの中心で、シェリアは大きくため息をついてからまた旅路に戻った。


「こいつらも弱くなったね。前は死ぬことが分かっても突っ込んできてたのに」

「そ、そうなんだ。魔物には容赦ないんだね」

「私はこっち側だからね。それに、あいつらを放置しても魔法が使えない人間を襲うだけだからね。これからも容赦するつもりは無いよ。それに——」


 シェリアは一度立ち止まり、不敵な笑みを浮かべながらアリスをじっと見て言った。


「——こういう時に真正面から立ち向かえる者が、戦場では英雄になれるのさ。私は過去、魔王以外と戦って3回追い詰められた。その全てが、そんな勇敢な者との戦いだよ。それに、そのうちの1回は殺されかけたし」

「え?!シェリアが?」

「……奇跡っていうのは、最後まで立っていた者のもとに降りてくるのさ」

「ちなみに、その時はどうなったの?」

「命からがら勝ったよ。その後は少しずつ回復魔法を使って何とか生き延びたね。もうあんな思いはしたくないね」

「そっか……シェリアでも魔物相手に苦戦したことあるんだ……私も頑張らないと」

「何か勘違いしてるけど、全部人間だよ」

「なっ?!」


 アリスが驚きながら立ち止まったのを見て、シェリアは思わず吹き出していた。

 それからシェリアは、その時の戦いのことを懐かしむように話し始めた。どうしてそのような状況に至ったのかを含めて。


「人間には欲望があるからさ。どうやってでも私を殺そうとする輩がいたんだよ。その中でも才能ある人間が集まったのが、人間の歴史上でも3集団あった。私を殺す一歩手前まで迫ったのが、最後の集団であった『聖霧の調(カルクルクリラ)』だね。そこの長が、単属性複合魔法を自分で作り上げていてさ。いや~、それも闇属性だもんだから対応が難しくてね」

「その単属性複合魔法って、なんで魔導書に載ってなかったの?」

「この世界の原理から破綻していたから。私も使えないし、使おうとも思わない」

「この世界の原理から破綻している……?それってどういうこと?」

「ここで話すことじゃない。それに、これは私の憶測だけど……」


 そこでシェリアは考え込むように空を見上げてから、「やっぱなんでもない」と話した。

 それから町が見えてくるまで、2人の魔女の間に会話はなかった。お互い、何かを考えたり想いを馳せたりしながら歩き続けていた。

 町が見えてきたことに気が付いたのは、シェリアだった。


「アリス、町が見えてきたよ」

「あ、ほんとだ……ほん、とだ…………」


 アリスはその場で立ち止まり、少し遠くに見える故郷の町をじっと見ていた。アリスが町から離れていた期間は、約5 年。アリスは今、何を思っているのだろうか。


「……シェリア、行こう」

「もういいの?」

「うん。もう十分」


 数十分ほど経った頃、今にも泣き出しそうな表情でアリスが歩き始めた。

 立ち止まった場所から町までは、森の中のでこぼこ道を下っていく必要があった。太陽が木々の葉に阻まれているせいでうっすらと暗い道。その道の先に光が見え始めた時、唐突に立ち止まったアリスが、何かを取り繕うような声で話し始めた。


「さっきの場所ね、私のお気に入りの場所だったんだ。師匠に出逢うまで、たくさんの時間を過ごした場所。あそこからの景色が、本当に大好きでさ……町のすべてが見えたんだ。私の家も、友達の家も、いろんなものが揃っている市場も、町で一番大きな建物のギルドも。それに、町の人や農民たちの動きもさ……それを眺めるのが、好きだったんだ」


 アリスの声は、震えていた。


「……変わって、なかったなぁ。私の…………い……」

「……うん。よく頑張ったね」


 堪え切れなくなったアリスを、シェリアは優しく抱きしめた。アリスが泣き止むまで、ずっと。






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