夕食会
ああ、悔しいこと!
あの男、どうしてくれよう。
フェリクスは今、煌めく微笑みで妹たちに挨拶をしているところだった。
睨みつけても気が付きもしない。
「エミーリアと申します。エリーと呼んでくださいませ、お義兄様!」
「レベッカと申します。家族はレグと呼びます。どうぞ仲良くしてくださいませ」
妹二人は歓迎モードだ。
フェリクスは、愛称を呼ぶなんてとんでもありません、などとは言わず、
「どうぞよろしくお願い致します」とだけ返した。
その様子をブスッとしながら見守る。
「何度かお会いしておりますね。改めて、レイビックと申します。アダルベルト子爵としてアダルベルト城を管理しております」
レイビックまで妹たちに並んで名乗ると、フェリクスの手をとった。
「ようこそ、アダルベルト家へ。マルグリットの叔父として、心より歓迎致します」
常日頃、わたくしを“当主様“と呼ぶレイビックも、今日はわたくしの叔父として、フェリクスに対するようだ。
和やかなムードの中各々が食卓につくのを、最初からひとり食卓の椅子にかけていたわたくしは黙ってただ見ていた。
当主であり、本日の主役であるわたくしが、こんな風にだんまりしているのがマナー違反であることはわかっている。
けれどあんな会話のあとでフェリクスに何を言えと言うのだろう。
妹たちは“お姉様はご機嫌斜めだわ、そっとしとこう”とでも思っているのだろう。わたくしに話しかけさえしない。
レイビックに至っては、わたくしなど目にも入っていない。浮かれた様子で「今日は良かった、今日は良かった」を繰り返し、フェリクスに向かってアダルベルトの歴史をご機嫌に語り始めた。
いつもより明るい食堂。彩りまで考えられた料理長自信作の品々。
初めて見るような豪華さだ。
なのに、わたくしは自分のお皿にあるものをもそもそと、味気なく食べている。
なぜ!?
みんなに祝福され、中心で笑っているはずの立場のわたくしがなぜ、こんな風にここにいるの?
フェリクスをちらりと見る。
期待を裏切らない優雅な所作で、ゆっくり食事を口に運んでいる。
そして時折、叔父の話に相槌を打ち、同意を返す。
微笑みの仮面をかぶったまま。
ほんの少し前まで美しいと感嘆していたその表情が、今は気に障ってしょうがない。
※※※
真新しい真っ白の寝具。
寝台の両側に飾られた大仰な花。
水差しの横には、2つ置かれたガラスのコップ。
そしてわたくしが身につけているのは、今日の為に用意された艷やかな絹の寝間着。
今日の夜の予定はなくなった、とは言えなかったわたくしは当然のように使用人たちにお支度された。
そして、「良い夜になりますように」と口々に言って使用人たちは部屋を出て行った。
部屋にひとりきり、寝台に上がる気には当然ならず、肘置き椅子に腰をかけ、ドアを睨む。
フェリクスは今頃どうしているだろう?
あれ程はっきり言ってやったのだから、この部屋には来ないだろうか。
それとも使用人に案内されてのこのこやって来るのだろうか。
来るとしたら、あとどれくらい?
来ないのなら、わたくしはいつまでここで悶々としていなければいけないの?
来たとしたら、…どうすれば!?
「ああ、もう耐えられないっ」
とてもこの部屋にはいられない。
わたくしは立ち上がり、勢いよくドアを開けると、部屋から逃亡した。




