姉妹3人で
「エリー、もう心配させて」
寝台で身を起こしている長妹の額をつついた。
末妹のレグが隣で頷く。
「本っ当に心配しましたのよ。マルゴお姉様は“もう医師じゃ駄目よ。教会に行きましょう”て騒いで」
「ご心配おかけしました。もう大丈夫ですわ」
エリーは4日前に高熱を出した。しかも持病の発作まで出て、半日ほど意識が戻らなかったもので、邸は大変な騒ぎだった。
やっと昨夜から熱が微熱になり、エリー本人も元気だと言うので、今日のお昼はエリーの部屋に食事を運ばせて、姉妹3人で食べることにした。
大きな丸いテーブルの上に並んだ3種類のパン、きゅうりのサラダ、2種類のハム、アイスバイン、腸詰め、レモンケーキ。飲みやすい冷たい飲み物。
肉類が多いのはもちろん、エリーに力をつけさせる為だ。
「よく出来ているわよ、このハム」
「わたくしきゅうりのサラダが大好きです!」
「お姉様、柔らかいパン取ってくださいませ」
3人でテーブルを囲んで、思い思いに好きなものをとった。
部屋で食べるのでマナーなどもさほど気にしない。
レグがお皿を取りながら言った。
「お義兄様のお父様のエドウィンさん?ご挨拶しましたけど、面白い方でしたわね」
「そうそう!眉が下がってて目がうるうるしてて、何だか子犬みたいな方でしたわ!」
エリーもパンにジャムを塗りながら言った。
「やっぱり?わたくしも子犬みたいって思ってたのよ」
3人できゃらきゃらと笑う。
きゅうりを独り占めしているレグが皿から頭を上げて、疑問を呈する。
「結局、クレーベは誰が継ぐことに?」
「まだわからないの。国預かりになったから、とりあえずは官吏がクレーベに派遣されるでしょうけど」
わたくしは難しい顔でアイスバインを齧る。
「次期領主はねぇ…、残ってるクレーベ一族から出すのか、第三者が出てくるか、王家の直轄地のような扱いになるのか…」
下手な者を領主にすると、せっかく残したクレーベ伯爵家が今度こそ潰れる。
そもそもクレーベを統治できるような人物がいるのかどうか。
レグが愁い顔で頬に手を当てた。
「クレーベ領はこれからどうなるんでしょう。今、農地がめちゃくちゃになって浮浪者が溢れているって聞きましたわ。そのせいで今、国中の食料が足りないんでしょう?」
「クレーベだけのせいじゃないけど、ここ数年は国内で小麦と野菜が賄えなくて他国から大量に買っているの。大問題よー」
アイスバインの残った骨をポイとして、手を拭う。
「クレーベ領の今の状況が全然わからなくてね。とりあえず裁判の後すぐにうちの者を調査にやったから、返事待ちよ」
「クレーベもアダルベルト領にしちゃうのはどうです?」
エリーの無邪気な言葉に笑った。
「まさか!もうこれ以上管理する領地はいらないわよ。それにクレーベは無理!」
「そうなんです?」
「あそこは特殊なところなのよ」
エリーは皿を置いて、お腹をなで擦った。まだ病み上がりであまり食べられないようだ。
果物を入れたお水を注いで渡してあげると、ごくごく飲んだ。
「お義兄様がクレーベを継いだりは?夫婦で別の爵位を持つなんてよくありますでしょう?」
「とんでもないわ!」
わたくしは目を怒らせた。
「アダルベルト侯爵の夫は忙しいのよ。それにクレーベは遠いし。フェリクスがクレーベ領主になったら、クレーベから出てこなくなるわ」
「「あー」」
妹2人が納得の声を上げた。
先に食事を終えたエリーを寝台に入れる。寝台の頭にクッションを置いて、もたれかけさせるとずいぶん楽そうになった。
「ねえ、マルゴお姉様。お義兄様とはどうなってますの?」
大人しく掛布を掛けられながらエリーが聞いた。
「どうなってって?」
「お姉様たちが結婚してそろそろ二月ですけど…お姉様とお義兄様、なんかよそよそしくないです?」
「そおかしら?」
「ええ。遠慮しあってるっていうか。夫婦っぽくないっていうか」
「ま、エリー、よく見てるわね!」
いつも周りをあまり気にしない妹がそんなことを言ったので、感心して頭を撫でた。
思い当たる節はあり過ぎるほどある。
フェリクスから、“あなたの夫になろうとしたけど無理だった”的なことを言われてから、それほど時はたっていない。
わたくしだってそんなことを言われれば、気を使ってしまうというもの。
「あれは時間がかかるかしらねぇ」
「何の時間です?」
「本当の夫婦になるのに、よ」
妹二人が目を見合わせた。
「まさか、お姉様…」
レグがいつもより低い声で言った。
「あの初夜の日から、まだ…?」
事実を突かれたことより、レグの怒りが籠められた声にぎくりとなった。
「じ、時間が必要なのよ…」
レグは自分のお皿のレモンケーキをフォークでつつきながら言った。
「いつまで待てばいいんです?」
「待つ、って何を?」
ブスリとフォークがケーキに突き刺さった。
「お姉様たちが落ち着いたら、次はわたくしの番だとずっと待ってますのに。こんなんじゃ心配で、わたくしいつまでもお嫁にいけません」
「あっ!」
妹の怒りの理由がわかって、わたくしははっとした。
「大丈夫よ、あなたの結婚のことは忘れてないわ!」
嘘である。自分の結婚のバタバタですっかり忘れていた。
幼い頃からの婚約者との結婚をこの妹は心待ちにしている。
レグももう今年で16歳。結婚適齢期。
「向こうのおうちもいつでも嫁いできてくださいって仰っていたでしょう?そうね。そろそろ準備を始める頃よね!」
「違います。このままでは心配で家を出られない、て言ってるんです」
そう言うと、レグはケーキが刺さったままのフォークを放り出しテーブルに突っ伏した。
「もう!マルゴお姉様は結婚前から散々心配させて…」
「…レグ」
「当主であるお姉様がちゃんと落ち着いて下さらなかったら、わたくしは…うぅ…」
「え?泣いてる?」
驚いて、慌ててレグの顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ。どうにかなるわ」
レグは顔を上げて、潤んだ目でわたくしを睨んだ。
「全然大丈夫じゃありません!お義兄様と本当の夫婦になれるように努力してくださいませ!一刻も早く!!」
「はい…」
妹に怒られて、難しい約束をさせられた。
最終章始まりです。課題がいっぱい残っています。
次回はマルゴが少し頑張ってみたり。




