2.皇宮で
ー皇宮ー
「陛下!!どうかご再考を!!あんな下賤なやつにこんな重大なことを託すなんて!」
広い帝座の間に、宰相ムーサ・エルイダの声が響き渡る。
「やつではなく、皇室騎士団に頼むのはいかがでしょう?
あっ…!副団長のアスター・シンゼルハックなんていいではありませんか!
公爵家の嫡男ですし、このところ、とても素晴らしい功績を残していると聞きます…!」
皇帝の機嫌を損ねぬよう控えめに発言するが、その試みも一瞬で泡となって消える。
「黙れ!!もはや決定事項だ…!!それとも貴様は、そのアスター・シンゼルハックは彼よりも実力があると言い切れるのだな?」
「そ、それは……。」
何も言い返せず、血がにじむほど唇をかみしめた。ムーサも彼以上の強者はこの帝国、いやこの世界を探してもいないと思っているからだ。
「陛下…、いくら彼が強かろうが元平民ですぞ…!功績を残させれば『灰翼の騎士団』のやつらはつけあがります!貴族の威厳というものが……」
そう言いかけたところでこの帝国の頂点、デリウス・モア・マクザートが一括した。
「貴様…、事の重大さがわかっていないようだな。
そのくだらぬ威厳、というやつで多くの民が命を落とすかもしれぬというのに…。
まさか自分は関係ないと、高をくくっているわけではあるまいな?」
その発言に意を突かれたようで、ウッ…と顔を強張らせた。
「ハッ……!!そこまで愚かであったとは!!
貴様、万が一にも儀式が失敗した場合、何が一番問題かわからぬか?
他国から攻められることだ。大災害が起き、その不安定な中を狙うものなど五万といる。
そうなったとき貴様はどうするのだ?フッ……。自分は関係ないからと他国にでも逃げるのだろうな。」
鼻でフッっと笑いながら話す皇帝だったが、その目は一切笑っていなかった。
むしろその豹のような目に、今にも狩られるのではないかと錯覚させられる。その圧倒的気迫にムーサは汗が止まらなかった。
「ムーサよ。そなた息子がいたな?そろそろ世代交代でもしたらどうだ。もう年のせいか頭が全く働いておらんようだぞ。まあそのそなたが育てた息子などたかが知れているが、幾分かましであろう。」
「た……大変失礼いたしました……。陛下……。」
機嫌を損ねないよう最善の注意を払っていたつもりが、全く出来ていなかった。
むしろとても怒りを買ってしまったと狼狽したが、何とかこれ以上悪化しないように愛想よく引きっつった笑顔で謝罪した。
「陛下!ご会談中失礼いたします!『灰翼の騎士団』団長のリフィス・サック様がお見えになりました!!」
扉の前で護衛していた騎士が朗々と告げた。
「思ったより速かったな。フッ…、そなたの言う下賤な奴が来たぞ。」
片方の口角を上げてムーサを見る。ムーサはその視線を感じつつも、もうこれ以上余計なことを言うのはまずいとまだひきつっている笑顔で返す。
「通せ」
扉が開き、あの豹のような皇帝の独特な風格に負けず劣らず、孤高な狼のような覇気を放つ一人の騎士が現れた。




