1.皇室からの勅書
ガキィンッ!キィン!と鉄と鉄がぶつかり合う音が響く中、いつものように鬼の怒号が辺りを満たす。
「遅い!軸も乱れてる!もっと踏み込め!!!」
最年少騎士団長という肩書を持つリフィス・サックは今日も団員達と稽古をしている。
団員たちにとっては今、目覚めたばかりだというのに、悪夢のごとき修練をしている。だが、リフィスにとってこんなものは朝飯前だ。
「団長!!皇室から勅書が届いています!!」
稽古中の数十名の声をかき消すような声でそれを届けに来たのは、副団長のエディ・パーシャルだ。
「皇室から?はあ…どうせ陛下の側近か、皇室騎士団のやつらが面倒な仕事をまわしてきたんだろ」
皇室騎士団とは皇室専用の騎士団のことで、貴族のみで成り立っている。
それに対し、リフィスが率いる騎士団『灰翼の騎士団』は実力重視の騎士団。
平民、弱小貴族など権力がないものでも実力が認められれば入団することが出来る。
皇室騎士団にとっては由緒ある自分たちと、あんな下賤なやつらが〝騎士〟という名目で同じにされるのが本当に耐えがたいようで、普段から、嫌みのように≪皇室からの勅書≫という形で、仕事を回してくる。内容はとてもじゃないが、名誉ある騎士の仕事ではないものもある。
犬猿の仲というより一方的に嫌われているといった方が正しいだろう。
もっとも灰翼の騎士団からしても実力ではなく、貴族というだけで騎士団に入団できるのは嫌悪感があるうえに、面倒ごとばかり押し付けてくる皇室騎士団をよく思っていないのも事実だ。
勅書を受け取り、雑に封を開ける。
綺麗に開けたところで何にもならねえ、というリフィスの大雑把さが出るが、この開け方を見たら貴族の方々は卒倒するだろう。
「今度は何です?どっかの貴族の猫探しとか?」
冗談交じりにフッと笑いながらエディは聞いたが、あながち冗談でもないかもしれない。本当にそれほど面倒な仕事もまわしてくるのだ。
「………」
いつもなら鬼よりも恐ろしい、といわれる団長でも冗談を言えば笑って
「よし。腹筋、腕立て、その他もろもろ追加な」とまた冗談…か本当か、よくわからないことを返してくれるはずだが、真剣な面持ちでそれを見続けている。
「……団長?」
瞬き一つせず、眉間にしわが寄ったリフィスが言葉を発した。
「今すぐ皇宮に行く。」
「今すぐですか!?」
「ああ。すぐ戻れるかもわからない。とにかく後のことは頼んだ」
リフィスは軽装だった服を整え、皇宮に行くための準備を進めた。
「緊急事態ですか…?」
ただならぬ空気を感じ取ったエディは慎重に尋ねる。団長自らが皇宮に赴くことなんて滅多にないため、緊急事態が発生したと思うのが普通だ。
「まあそうだな。そう受け取ってもらって構わない。だが悪いがこれ以上話すことは出来ない。詮索もするな。
団員達には緊急で仕事が入ったとでも誤魔化しておいてくれ。すぐに戻れない可能性もあるからな。」
一体何が起きたんだ、と疑問と不安が残ったが、自分の役割は副団長としての務めを果たすことだと、エディは一瞬で気持ちを切り替える。
「わかりました。こっちのことは任せてください。団長もお気をつけて」
エディとそう言葉を交わし、灰翼の騎士団を後にした。
得体のしれない何かが背後からゆっくりと迫ってくる、そんな不安を抱えてリフィスは馬に乗り皇宮へ急いだ。




