10.約束
「………。」
2人の間に、緊張した沈黙が流れる。
その空気に耐えかねたのか、サラが口を開く。
「ご、ごめん!嫌だったら無理して話さなくていいのよ…!変なこと聞いてごめんね…。」
「いや、大丈夫だ。話したくないわけじゃないからな。ただ、色々思い出してしまって…。」
悲しそうにそう言うリフィスは、遠くを見ながら話し始めた。
「シュダリ―……、シュダリ―・パーシャルは、灰翼の騎士団の元団長なんだ。」
「それで、………、俺の………、恩人なんだ………。」
リフィスの目元が少しだけ潤っているのを見たサラは、固く握り続けている拳に、そっと自分の手を重ねた。
その優しさに心がほぐれたのか、滞っていたものが一気に流れ出すように、リフィスは話し続けた。
「俺も、実は孤児なんだ。まあ孤児というより浮浪児だな。」
「まだガキの頃、母親と二人で暮らしていたんだが、母親が急に病気で逝っちまって。まあ、そのあとの生活は何となく想像つくだろ。クソみてえな生活してんだ。」
「それを救ってくれたのがシュダリ―だったんだ。」
「だから本当、俺にとっては救世主みたいな存在で、でも時にはすげえ厳しい師匠で、それで……」
彼のことを思い出しグッと堪える。
「世界一優しい父親だった………。」
「でも………。死んじまったんだ。みんなを守って………。」
「俺があの時ッ………。」
怒り、悔しさ、無力さ、寂しさ、様々な感情に襲われ、リフィスは唇を噛みしめた。
そしてほんのわずかな沈黙が流れる。
ふうとため息をつき、自分を落ち着かせた。
「俺は………、約束したんだ、シュダリ―と。」
サラは心配そうにリフィスを見つめながら話を聞いている。
その瞳にはまだ慣れないが、しっかりとサラの目をリフィスは捕え、サラに告げる。
「民を守ると。」
「この国の人を………、絶対に守るとシュダリ―に誓ったんだ。」
サラはその目を見て、リフィスの真意を理解した。
「そっか…。とっても素敵な約束ね。」
またあの可愛らしくも、何か不穏な笑みを見せた。
「その約束。絶対守らなきゃだめよ。」
「………ああ…。」
そう言うと、リフィスはサラの手から抜けて、立ち上がった。
「長話をしてすまない。もうゆっくり休むといい。」
「ええ。あなたもね。おやすみなさい。」
おやすみと返し、リフィスは部屋を出た。
《自分は民を守らなければならない》
シュダリ―の約束を果たすために、これまで死に物狂いで騎士団長として全うしてきた。
目の前の小さき命か、大勢の命か。
そんなもの、答えは決まっているだろう。
だが、ふと心の奥の方にあった小さき疑問が灯りをともした。
そもそも、《儀式》とは何だ?
本当に《必要》なのか?
リフィスは頭をブンブンと振り、その灯りを消した。
《俺は………、皇命を全うしなければ………。どうせ俺に出来ることなんて、それしかない…。》
眉間にしわを寄せ、悲しげともいえる表情で、リフィスは自室に戻った。




