私がいないとダメなんだから・2
「来たね、霰くん!ゆっくりしていきなさい!」
「あ、お邪魔します……」
純葉の家のリビングに入った瞬間、いきなり大柄な男性が現れてビックリしてしまう。
彼の名前は萩原和一さん。ジムトレーナーをしているそうで、その肉体美は俺が見たことのある男性の身体で一番と言えるだろう。
というか、また体つきがひとまわり大きくなってないか?
「あらあら、アナタ。そんなに大声だと霰くんがビックリしちゃうでしょ?」
「い、いえ!大丈夫ですから!」
「そう?もし迷惑なら言ってね?すぐに追い出すから」
「あれ?鏡花?なんか僕だけ扱いひどくない?」
「あらヤダ、アナタったら〜!もとからそうでしょ?」
「怖い!僕の嫁が怖いよ、霰くん!」
「あはは……」
冷笑のような反応をしながら和一さんをスルーしつつ、俺はちらりと鏡花さんの方を見る。
彼女は純葉の母親の萩原鏡花さん。
結構穏やかな性格だが、怒ると怖いので、絶対に敵に回してはいけない人だ。見た目は純葉とそっくりなのだが、純葉の性格は父譲りだな。
「お母さん、私取り敢えずお風呂入ってくる」
「あらそう?……霰くんはもう入ったの?」
「い、いえ……」
「じゃあ、二人で入って──」
「「入るか!」」
思わず純葉と同時に突っ込んでしまうが、これはもはや仕方ない。反射なのだ。当の彼女は顔を真っ赤にしてるし。
「え?でもちょっと前まで一緒に入ってたじゃない?じゃあ大丈夫よ〜!」
「どこが大丈夫なのよ!というか、いつの話をしてんだ!」
「ハイハイ、冗談よ。さっさと入ってらっしゃい」
「心臓に悪いわ!」
そう言い残し、リビングを後にする純葉。数秒後に「バァン!」と強く扉を閉めたであろう音が聞こえてきた。
というか、鏡花さんも鏡花さんだ。思春期男子相手にそういう冗談はあまり良くないだろう。
俺は少し呆れたようにため息をしつつ、鏡花さんと少し話すことにした。
「鏡花さん。少しいいですか?」
「ん?あ、もしかして娘を貰ってくれるのかしら!それなら大歓迎よ!」
「なんでだよ!」
「違うの?」
「違います!」
というかオッケーなのかよ!少しは娘を大事にしろよ!
と、和一さんはニコニコしながら鏡花さんの肩にポンと手を置く。
「まあまあ、鏡花。少し冗談が過ぎたんじゃないか?」
「あら、まだ居たの?もう消えてもらって良かったのだけれど」
「霰くん!僕の嫁がひどいんだけど!」
「あはは……」
少し世間話でもするつもりだったのに、和一さんのダメージが凄いな……。
◇◇◇◇◇◇
「それじゃ、お邪魔しました」
「はいはい。また来てね〜」
「霰!明日はゴミの日だから、ちゃんとゴミを捨ててよ!」
「俺の母親か!」
「霰くん……。今日は泊まっていかないかい?ウチの嫁がね、怖いんだよ……。霰くんが帰った途端に暴力を振るうかも……」
「そんな家に泊まりたくないです」
というか、和一さんは一家の大黒柱なんだから、もう少し堂々とするべきなんだよ。
その後も、必死に俺にしがみつく和一さんだったが、それも虚しく、鏡花さんに無理やり引き剥がされて俺は解放された。
その夜、和一さんの悲鳴が何度か聞こえてきた気がするが、気のせいだと思うことにしよう。




