決闘
翌日。
私はカイザに校舎裏に呼びつけられた。
きっとまた嫌がらせの冤罪だろう。
無視することもできず、憂鬱な気分になりながらも、校舎裏に向かった。
「来たな」
校舎裏にいたのは、昨日遭遇した、アカネ、カイザ、タンギル、サツリの四人。
カイザの後ろに隠れたアカネ以外は、殺気立っているように見える。
「何の用――でしょうか」
危ない、向こうが殺気立っているせいで、こちらも喧嘩腰でいきそうになった。
どうにか軌道修正して、内心安堵しているところに――白い、手袋を投げつけられた。
「決闘だ、リジェ・リファイス!」
「……また嫌がらせをしたのが私だといいたいのですか?」
「違う。それじゃない」
「では、どうしてーー」
「お前が兄上を誑かしたからだ!」
……うーん?
「最近兄上の様子がおかしい!お前が薬か何かで操っているんだろう!」
「いえ、そんなことしてませんけど」
「とぼけるな!」
カイザは声を張り上げた。
「俺が勝ったら、兄上とは今後一切関わらないでもらう!」
「俺達と言って下さい。僕らも参戦するんですから」
「カイザにばかりいい顔をさせるわけにはいかない」
タンギルとサツリが前に出て、カイザと並んだ。
コイツらどうやって三人で決闘するつもりなんだろう。
「……まあいいや。三人まとめて掛かってこい」
「流石に三対一は厳しいだろう」
上から声がし――天からヴィードが降って来た。
「俺も参戦する」
「は?」
「お前たちから仕掛けたんだ、これくらいの条件は飲んでもらう」
「兄上……」
「そして、こちらが勝ったら、三人はアカネと今後一切関わらないこと」
「……いいだろう」
「勝てばいいだけです」
「日時は?」
「今日の夜七時、学院の決闘場」
……怒涛の展開で決闘が決まってしまった。
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「悪いな、兄弟喧嘩に巻き込まれてしまって」
「なに、決闘を挑まれたのはアタシだ。それより、勝った時のアレはなんだ?」
勝ったらアカネとカイザを別れさせる。
アタシとしても、一応元婚約者で昔からの顔なじみであるカイザと、あまり良い印象が無いアカネが付き合っているというのは、引っかかっていたところではあった。
しかし、こうも強引に行くとは。
アタシの疑問に、ヴィードは杖の手入れをしながら答えた。
「カイザは――少し抜けているところがある奴だったが、最近のアイツは目に余る。アカネとかいう奴から、悪影響を受けている可能性が高い」
「……確かにな」
昨日までの言動はまだ分かるが、今日の強引な決闘は目に余る。
アカネに魅了されて、まともな思考ができなくなっているのか。
「カイザのためにも、別れさせておいた方がいい。あとの二人はおまけだ」
「なるほど」
「これが理由の半分」
「もう半分は?」
「お前の実力を見ておきたい」
……そっちの理由の方が大きそう。
そういえば、ヴィードには一度も戦っているところを見せていなかった。
命を預けている身としては、一度見ておきたいのだろう。
「さて、相手はカイザに加えて騎士団の超新星、最高ランクの冒険者だ」
「カイザにも何か付けてやれよ。ガルド流とかいう剣術の免許皆伝だったろ」
「そうだな、決して弱い相手では無い。それに、人間相手だと魔物の力を使えないだろう。勝算はあるのか?」
「まあ――いけるだろ」
ググッと腕を伸ばしながら、アタシたちは決闘場に赴いた。
学園の決闘場。
コロシアムのような建物で、観客席もあるが、座っているのはアカネしかいない。
そして、決闘場の中央には既にカイザ、タンギル、サツリの三人がいた。
カイザは魔力が籠った炎の魔剣を持ち、タンギルは騎士団の盾と剣、サツリはヴィードと同じような杖を手にしている。
「遅かったな、兄上」
「定刻通りだ」
「フン、まあいい。それより、これにサインしろ」
カイザが出したのは、決闘の誓約書。
魔法がかけられており、敗者は書かれた内容に従わなければならない。
一応、書かれていることが事前に決めたことと相違ないことを確認してから、サイン欄に名前を書いた。
ヴィードもサラッと名前を書き、これで名前が五つ並んだ。
「よし、やろうか。相手を全員気絶させるか、降参させたら勝ちでいいな」
「ああ。開始の合図はどうする?」
「俺が魔法でやろう」
ヴィードは杖で地面を一突きし、光の玉を作り出した。
フワフワと浮き上がり、私たちの中間に浮かぶ。
「これが爆ぜたらスタートだ」
「それだと、ヴィード様がタイミングを選べちゃうんじゃ……」
「人数が違うんだ、それくらいは許してやろう」
外から声を上げたアカネだったが、カイザに諫められて渋々納得した。
場の全員が注目する中、光の玉が上へ上へと登っていく。
ジリジリと緊張感が高まる中、ヴィードが三、二とカウントダウンし――
パン!
ゼロのタイミングで、光の玉が爆ぜた。
瞬間、相手の魔法使いであるサツリが魔法を使用し、雷の槍が十本ほど浮かび上がる。
それに被せるように、ヴィードが同じ魔法を使った。
「「サンダーランス」」
雷の槍が飛び交い、互いを相殺し合う。
風、火、水と属性を変えながら、同じ魔法の打ち合いとなり――後衛がつぶし合う形となった。
様々なエレメントが入り乱れる中、カイザとタンギルが、ヴィードを倒すために距離を詰める。
その二人の前に、アタシが立ちふさがった。
「邪魔だ!」
「どけ!」
「やだね」
振り下ろされる二本の剣を、両腕で一本ずつ止めた。
「な、素手で!?」
「フッ!」
二人の目が驚愕で見開かれる中、周り蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。
「……どんな肉体強度してるんですか」
「ヴィードの魔法だよ」
本当は身体の中のモンスター体で止めたのだが、魔法ということにして誤魔化しておく。
タンギルは納得できていない様子だったが、付き合いが長いカイザは納得したように頷いてから立ち上がった。
「さすがはリファイス家の人間ということか。生身だから手加減していたが、全力で挑むとしよう」
言葉と同時に、カイザの魔剣が燃え上がった。
心なしか、周囲の気温が上がる。
次の瞬間、カイザが眼前に迫っていた。
「スラッシュバーン!」
「ッと!」
飛び上がって袈裟切りを回避し――地面に刺さった魔剣が、爆発した。
爆風が吹き荒れ、土煙が上がる。
「流石にあれには当たりたくねーな」
「スキだらけですよ」
空中にいるアタシの、さらに上にタンギルがいた。
鋼の盾で叩き落とされ、地面に落下する。
そこにはーー剣を振りかぶった、カイザが待ち構えていた。
「炎輪!」
「ッ!」
横凪に振るわれた燃え盛る剣を、体を反るそこで回避した。
剣に触れた前髪の先が焦げる。
さらに剣を振り上げたカイザに、、逃げると見せかけて、逆に突っ込む。
凄まじい瞬発力で地を駆け、剣が振るわれる寸前に、カイザの腹に拳を叩き込んだ。
衝撃でノックバックしたカイザを追撃するーー前に、背後のタンギルに裏拳を繰り出した。
ガンっと鈍い音がして、盾で受け止められたことを察する。
その隙に振るわれた剣を、裏拳に使っていない方の手を使い、白羽取りで受け止めた。
「はい!?」
「オォラァ!」
手のひらが傷つくことを厭わず、剣をガッチリと握ってグルグルと振り回す。
そのまま、ハンマー投げの要領で、タンギルを投げ飛ばした。
咄嗟に剣を手放せず。
タンギルが飛ばされた先は――魔法がぶつかり合う、ヴィード達の射線上。
(やったか?)
一瞬期待したが、魔法の雨に突っ込む前に、カイザにキャッチされてしまった。
「さすがに二人相手は面倒だな」
切り傷が付いた左手を、服で拭った。
カイザとタンギルはまだまだ戦える状態。それどころか、ダメージでいうと負けている。
決闘が長引くと、カイザの痛烈な一撃を喰らう可能性がある。
出来る限り早めに決着を付けたいところ。
幸い、もう布石は打った。
ゆっくりと歩いて、カイザとタンギルに接近する。
二人もアタシに目を据えながら、ジリジリと近づく。
二間の距離が数メートル程度まで近づいた時、思わず見逃してしまいそうな、ごく自然な動作でタンギルが盾を持ち上げ――投げた。
鋼の塊が眼前に迫り、その影からカイザが突っ込んで、タンギルは回り込むような動きをする。
「ッと」
そんな奇怪な動きに対して、まずは投げられた盾をキャッチした。
お返しとばかりにカイザに盾を投げつけるが、カイザは盾を足場にし、大きく飛び上がった。
夜の空に、炎が宿った剣が舞う。
「炎天禍!」
「ッ!」
天から振り下ろされた剣に、タイミングを合わせてバックステップをして、なんとか回避した。
カウンターを叩き込むため、踏み出した瞬間。地に刺さった剣を中心に、炎が渦巻く。
反撃しようとしていたせいで避けられず、地獄のような業炎に、服が焼け、身体を焦がした。
「ッツ――」
手をクロスして、炎に耐える。
多分、炎が止った後に隙ができる。そこに拳をねじ込むため、今は耐える。
その背後に――タンギルの影。
「喰らえ!」
「待ってた」
どうせ背後から来ると思っていた。
身体を捻って、タンギルに向かって手刀を薙ぐ。
しかし、狙いが甘く、簡単に回避され――想定通り。
ヌアァ
タンギルの死角。
手の傷から深緑の触手が生え、タンギルの顎を殴り飛ばした。
「ガッ!」
まともに触手パンチを喰らったタンギルは、なんとか意識を保とうとしていたが、脳が揺れたのか失神した。
「よし」
これで、人数の不利は無くなった。
「今……何をした?」
「普通に殴っただけだよ」
「ウソをつけ、俺には見えたぞ。手のひらの、緑色の何かが」
「気のせいだろ」
ギッと剣を握りしめ、歯を食いしばる音がした。
「お前は、いつも――ずっと!」




