デートデイ
授業が全て終わり、放課後。
ヴィードとの約束通り、校門前に向かう。ちょっと口角が上がっているのはナイショ。
そこで私を待っていたのは、黒ずくめの不審な格好をしたヴィードだった。
「……何をしているんですか?」
「お前を待ってたんだ」
「その恰好は?」
「変装だよ。それより、口調」
「はいはい」
ぶっきらぼうに答えると、ヴィードは機嫌が良さそうに笑った。
コイツ、もしかしてそういう癖なんじゃ……。
「どうした?」
「なんでも」
アタシが引いている間に、ヴィードはどこかに向かって歩き出した。
慌ててアタシも駆けだし、隣に並ぶ。
大柄なヴィードが歩くのに合わせて、ハイペースで足を動かしながら話しかけた。
「どこ行くんだよ」
「言ってなかったか? 町に行くんだ」
「……何しに?」
「デートしに」
「ハァ!?」
いきなりデートなどと言われて、顔が熱くなる。
そんなアタシをヴィードはじっと見つめた。
「まずは服屋だな。貴族学院の生徒とバレてしまっては、市民を怖がらせてしまう」
「うん、まあ、それは、そうだけど」
「安心しろ、代は全部俺が出してやる」
「いやいいから! 服くらい一回帰って着替えればいいだろ!」
「それだと面白くない」
「ハァ!?」
他にも言いたいことは色々あったが、無視されて服屋に連れていかれた。
街はずれにある、レンガ造りの小さな服屋さん。
スペースの都合上、商品の種類は少なめに見えるが、流行に合わせた必要なものをしっかりと取り揃えた、かなりやり手な店に見える。
「いらっしゃいませ」
女性の店員が店から出てきて、深めに頭を下げた。
結構通っているのか、慣れた調子でヴィードに対応する。
「今日はどのような御用件でしょうか」
「コイツに合う服をくれ」
「よろしく」
「ほぉう」
若い店員は、見分するようにアタシを上から下にジッと見つめた。
「中々いい素材をお持ちのようで」
「適当でいいんで――」
「任せてください、あなたにピッタリの服を選ばせていただきます!」
やけにハイテンションな店員に連れられて、店の試着室に入れられた。
十分後。
着せ替え人形のように色々な服を着させられた後、アタシの動きやすい服というリクエストもあって、へそが見えるショート丈のシャツにデニムパンツ、それと顔を隠す黒い帽子、という服装になった。
「どうでしょうか! ボーイッシュなカッコいい雰囲気に、ガードが高い下半身とへそ出しのギャップ。さらに、黒い帽子が――」
「あー、うん。ありがとう」
「グハッ!?」
お礼を言ったら鼻血を出して倒れてしまった。
「おーい、大丈夫か?」
「いつものことだ、放っておけ」
「それでいいのか……」
態度からして、この二人は結構長い付き合いらしい。
健気な感じが可愛くて、面白い性格をしていて――そんなことを考えていると、ちょっと胸がチクッとした。
「……ヴィードはどうだ? 似合ってると思うか?」
悪戯っぽく聞くつもりだったのに、マジトーンになってしまった。
「ん、似合ってるんじゃないか。可愛いぞ」
「可愛くはないだろ」
「可愛いよ」
恥ずかしいことを真っすぐと言われて、思わず帽子を深くかぶり、目を逸らしてしまった。
顔が熱い。多分赤面してる。
「どうかしたか」
「いや、なんでもない。一応、コイツを奥に置いてくる」
倒れたままの店員を連れて逃げるように店の奥に隠れ、顔の熱が冷めてから、店を出た。
「で、これからどうする?」
「俺がエスコートしよう。付いてこい」
アタシはあまり王都を回ったことがないので、ヴィードに連れられて、人が入り混じる街道を歩く。
店があった専門店が並ぶような区画を抜け、屋台が集まる区画に着いた。
食べ物の美味しそうな匂いと、肉が焼けるような音が耳朶をくすぐり、食欲を湧かせる。
「何か食べたいものはあるか?」
「……特にない」
「アレだな。待ってろ」
急に離れたかと思うと、両手にカラッと揚がったフライドチキンを買って来た。
どうしてアタシが一番食いたかったものが分かったんだ……。
通る時にずっと見てたのがバレた訳じゃないだろうし……もしかして、心を読む魔法でも使ってるのか?
「ほら、これが欲しかったんだろ」
「……ありがとう」
警戒しながら、フライドチキンを受け取って噛みついた。
ジューシーな食感が口の中に広がる。塩の味付けも丁度よく、とても美味い。
無意識のうちに頬を緩めていると、ウィードにジッと覗き込まれていることに気づいた。
「……なんだよ」
「いや――それ共食いじゃないのかなって」
「え? ああ」
そういえば、アタシはクラゲ鳥とのハーフだったわ。
共食いとかは、今まで意識したことがなかった。
「……クラゲ鳥って、クラゲが魔物化した生物だから延長線上だから、鳥とは生物学的にかなり離れてるらしいぞ。だからアタシはチキンを食える」
「いや……リジェはクラゲを出した時に足が鳥のものになるよな」
「ああ」
「それって、鳥の遺伝子が入ってるってことじゃないのか?」
「……確かに」
言われてみると、確かにそうだ。
一応、自分の半身である魔物の生態は調べていたけれど、鵜呑みにするだけではダメだな。
「鳥の遺伝子が混ざっているとなると、クラゲと交わった鳥がいる? でも、それで子孫が出来て生物として定着するのは――」
「ヴィードさん?」
「……悪い、思考に没頭してた。これで論文三本くらい書けそうだ」
「お前って学者だっけ」
「違う。面白いテーマが見つかった時に書くくらいだ」
そう言いながら、ヴィードは屋台の串焼きを買って来た。
コイツ、的確にアタシが欲しいと思ったもの買ってくるな。
「っていうか、こんなに呑気なことをしてていいのか? 暗殺者に狙われてるんだろ?」
「予知で見た死ぬ場面は、決まって夜だった。日がある間は問題あるまい」
「そんなもんか」
念のため、ずっと警戒はしていた。
何者かの視線はある気がするが、接近してくる気配はない。
(今仕留めるのは、人が多過ぎて難し――)
ドン
考え事をしていると、急に立ち止まったヴィードにぶつかってしまった。
何かあったのかと前を見てみると、見知った顔があった。
前婚約者カイザと彼にくっ付いているアカネだ。
「奇遇だな、弟よ」
距離が近い二人に対抗してか、ヴィードが私を抱き寄せた。
心臓の鼓動が高鳴り、顔が沸騰しそうになったが、どうにか平静を装う。
「兄上……何をしているのでしょうか?」
「婚約者とデートしているだけだ、何も問題あるまい。お前こそ何をしているんだ? 婚約もしていない令嬢と二人きりで」
「二人きりじゃないですよ」
アカネの言葉と同時に、彼らの後ろから二人の青年が出てきた。
「どうも、騎士団所属のタンギルです」
「……エルフの国から留学してきた、サツリだ」
二人とも有名人なので、少しは知っている。
タンギルは軽い鎧を着て剣を差した優男。
騎士団期待の新人と言われていて、剣の腕は免許皆伝レベルらしい。
もう一人の男は、細長い耳のエルフであるサツリ。
上品な雰囲気を醸し出しているが、冒険者上がりのゴリゴリの実力派であり、ネームドモンスターの討伐実績もある強者である。
令嬢間の人気も高い二人だが、最近はアカネにゾッコンで、カイザも含めて催眠術にでも掛かったのではないかと噂になっていた。
「まだアカネへの嫌がらせは続いているみたいで、僕達は彼女を励ますために、こうして町に連れ出したのです」
「……」
タンギルの言葉に呼応するようにサツリが私を睨んできたけれど、どこ吹く風とスルーした。
「早く犯人が見つかるといいですね。では、行きましょう、ヴィード様」
今まで正義感で嫌がらせの犯人を探していたけど、それで犯人にされては元も子もない。
私はもうこの事件には関わらないようにするため、ヴィードの腕を掴んで速足で去ろうとしたその時。
「お待ち下さい」
アカネが、ヴィードを引き留めた。
「ヴィード様も、私たちと町を回りませんか?」
「「は!?」」
突然の引き留めに、私とカイザは間抜けな声を出してしまった。
コイツと被るの嫌だな……。
「弟のカイザもいるし――いいでしょう?」
可愛らしく、甘ったるい声。
正当性など一切無いのに、一瞬ヴィードが奪われてしまうのではないかという、焦燥感を抱いてしまった。
が――
「悪いな、今日は先約がいるんだ」
ヴィードは私の頭にポンと手を置き、さっさと行ってしまった。
「……では、ごきげんよう」
意趣返しに、軽く煽りを入れてから彼を追う。
こうなるのは当然のこととはいえ――ちょっとだけ、嬉しかった。
Ж
「アカネ、どうしてあんな提案を……」
「……カイザとヴィードさん、最近ちょっとギクシャクしてたから、仲直りできればなって。迷惑、だったかな?」
「そ、そんなことないぞ!」
「アカネさんは優しいですね」
見切り発車で何も考えていなかったけれど、どうにか言い訳できた。
バカみたいに私の妄言を信じ込んで感動している三人。
どうしてこの中にヴィード様がいないんだろう。
前世のゲームではヴィード様推しだったのに。
一番大事なキャラがハーレムの中にいない。
「これも全部、あの女のせいだ」
排除しよう。
大丈夫、本来のストーリーでは、もういないんだから。
正しいストーリーに修正しなくっちゃ。
「カイザ……お願いがあるんです」
「ん、何だ?」
カイザの瞳に――妖しい紫色の魔眼が写った。




