なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいですか?
翌日。
王族が使う別邸で、私は目を覚まし――目の前には、ヴィードがいた。
「おはよう」
「おはようございます」
「口調」
「……二人きりの時だけだぞ」
コイツが『暗殺者に狙われているから、一人で寝たくない』とごねるから同室で寝てやったのに、図々しいヤツだ。
弱みを握られているのは変わらないので、ヴィードの言うことは聞くしかない。
不慣れながらも、口調を切り替えた。
「じゃあ、アタシは先に学園行くから」
「何言ってんだ、一緒に行くぞ」
「いや、バレたら……別に、いいのか」
もう婚約していることになってるし、何も問題なかった。
むしろ、見せつけていった方がいいかもしれない。
「……じゃあ、一緒に行くか」
「ああ」
ヴィードは、嬉しさが押さえられないようで、笑みがこぼれていた。
昨日は帰ることができなかったため、ヴィードが用意した制服を着て登校する。
アタシには大きめのサイズで、ある意味安心したのは内緒。
「ここからはこの口調でいきますからね」
「仕方ないな」
同じく登校する生徒も見えてきたため、外面の口調に戻した。
さて……私は、どんな顔をして教室に入れば良いのだろうか。
第一王子にかっさらわれた身ではあるけれど、その前に婚約破もされてもいる。
催眠がどの様に作用しているか分からないのもあり、貴族社会での立ち位置がどうなっているか、自分でも分からない。
「俺が調べたところによると、周りもどうしたら分からなくて、はれ物扱いになっているそうだ」
「……どこからの情報ですか?」
「王家の調査網だ」
……情報源の方は置いておくとしても、言っていることは的を射ていそうだ。
丁度クラスメイトの男爵令嬢がこちらを見ていたので、二コリと微笑みかけてみると、彼女は逃げて行ってしまった。
「これからの立ち回りが大切になってきますね」
「そうだな。なら、俺達の仲を見せつけておこう」
瞬間、ヴィードは私を抱き寄せた。
肩を握ってべったり張り付きながら、堂々と廊下を歩いていく。
周りにいるみんなが私たちに注目し、悪目立ちしてしまった。慌てて私はヴィードに小声で抗議する。
「何するんですか!?」
「仲が良好なのをアピールしているだけだが」
「恥ずかしいから止めてください」
「いや、効果はあったようだぞ」
ヴィードが立ち止まり、目の前の人物――私の元婚約者、カイザと彼にくっ付くアカネを睨みつけた。
「やあ弟よ。何か用かな?」
「……兄上には関係ありません。用があるのはその女です」
人差し指をさして圧を掛けるカイザ。それに呼応して、私も一歩前に出た。
「何の用でしょうか?」
「兄上の件でうやむやになってしまったが、アカネに嫌がらせをしていたことの弁明を聞いていないぞ」
「……ありましたね、そんなこと」
私は誓って嫌がらせなどしていない、むしろ止めようとしていた側なのだが、それを言っても納得しないだろう。
立場が不安定な今、弱みを見せるわけにはいかない。
なんとか言い逃れなければと、思考を巡らせていたその時、ヴィードが口を開いた。
「婚約者の身の潔白のため、口を挟ませてもらおう。まずお前たちは、リジェがそこのアカネとやらの所持品を隠したり、机に落書きをしたりといった嫌がらせをしたと主張しているんだな?」
「チッ。ああ、そうだ」
カイザが舌打ちをしつつも答えた。
「なら、証拠を出してもらおう」
「前も言ったが、夜の校舎でリジェの姿を見たと証言した人が何人もいる」
「それは、嫌がらせをした犯人を捕まえるために、見回りをしていたからだ。そうだろ?」
「……はい、そうです」
「そんな言い訳が通用すると思っているのか!?」
「思っているさ。リジェは嫌がらせなどしておらず、見回りをしていただけだった。この主張を裏返すだけの反論をしてみろ」
「……リジェはアカネのことを嫌っていた」
「その女は普段の言動のせいで一部の令嬢から嫌われている。リジェだと特定する要素にはならない」
「そんな……酷いです」
アカネが目を擦って泣いている演技をするが、ヴィードは全く動揺していない。
冷たい目でアカネを見つめていた。
それに耐えられなくなったのか――
「……いるんです! リジェさんが、私の靴を隠していたのを見たという友人が!」
焦ったように口を開いたアカネの言葉に、ヴィードはそれを待っていたとばかりに口角を上げた。
「ほう、さっきは夜の校舎でリジェの姿を見た人がいるとしか言わなかったのに、靴を隠したのを見た友人がいたのか」
「そ、そうです」
「どうして最初からそう言わなかったんだ?」
「それは――」
「せめて、その友人とやらを連れてこい。お前の頭の中からな。行くぞ」
「……はい」
ヴィードは私の手を握って、いつの間にか集まっていた人混みをかき分けて進んで行く。
その、私たちを見る目は、さっきとは全然違うものになっていた。
「あの……ありがとうございました」
「なに、俺の護衛に集中して欲しかっただけだ。礼は仕事でしてくれ」
「いえ、それだけでは……」
手を握り締めて私がそう言うと、ヴィードは頬を緩めて提案した。
「なら、今日の放課後を貰ってもいいか? やりたいことがある」
「分かりました」
「じゃあな」
私に付き添ってくれていたのか。
教室に着いたところで、戻っていくヴィードの後ろ姿は頼もしかった。




