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スターゲイザー  作者: ミズノハル
第一章 赤い目の悪魔
18/29

18. 約束

 異能を研究する帝国の施設は三つあった。創設が古い順に、西部、北部、東部だ。

 研究所は帝国兵の養成所としても機能していた。当初は戦闘に特化した訓練を中心としていたが、被験者の内で帝国への不信感が目立ってきているとの報告があり、各施設で教養にあてる時間を多くした。しかしその努力もむなしく、北部では大規模な反乱があり、北部研究所は現在、革命軍に占領されている。西部では反乱こそ無かったが、出所後の犯罪率が最も高かった。反逆者が最多なのも西部だ。東部では被験者が一名、出所前に死亡した。また、別の研究のために収容されていた被験者も死亡している。目立ちはしないものの、他にも多くの問題があったのが東部研究所であった。


 これら研究施設が引き起こした問題は、今も大きな課題となっている。最たるものは、能力者の反逆だ。彼らは個々の戦闘能力が高く、対処が難しい。加えて、反逆者の数は能力者全体の五割を超えている。帝国は専門の部隊を設置するなどして対応しているが、未だ根絶には至っていない。早急な解決が求められる。




 その日は指令が山のように来ていた。差し出された書類の束の厚さに、ユーリは唖然(あぜん)としてしばらく動けなかったほどだった。この一枚一枚が討伐の対象。普段は深く考えないように努めていたが、そのときだけは暗い気分にならざるを得なかった。それはサラも同じらしかった。机の上に並べられた書類の陰鬱な圧力は、彼女からしばらくの間、言葉を奪っていた。


「今回も二手に分かれて行動しよう。幸い、こいつらも二つのチームで行動しているらしい」何が幸いなのかは、ユーリ自身にもよくわからなかった。「西部出身と、北部出身の集まりだそうだ。北部の集団のほうが人数も少ない。お前はそっちを担当してくれ」


 サラは書類を見つめたまま黙っていた。彼女が見ているのは西部出身のものだ。ユーリはその書類をかき集めて、持ち去ろうとした。これは彼女の目に長く触れさせるべきではない。

 これまで、西部出身者の討伐指令は、可能な限りユーリが黙って処理していた。しかし今回ばかりは、それを開示しないわけにはいかなかった。そうしなければ、サラの任務ばかりが重く見えてしまう。互いに過激な任務を強いられて疲れ果てているときに、無駄な衝突は避けたかった。だから見せるのはほんの少しにしようと思っていた。数だけ把握させて、彼女の思い出などは蘇らせないように。


 サラはユーリの腕をつかんだ。

「やるよ」

「え?」

「あたしがそっちをやる」

「やめとけ。こっちは数が多くて危険だし、それに――」

「みんな知り合いだよ。一緒に育った仲間だ。でも……だからこそ、あたしがやりたい。みんなが知らない場所で知らない間にいなくなるなんて嫌だ。だったらあたしがやりたいんだ」

 サラの真剣なまなざしに、ユーリは返す言葉が無かった。彼女は知っている。ユーリが彼女の旧友を裏で手にかけていたことを。

「ユーリが嫌なら、あたしがこいつらもやるよ」

 サラは机の上に残された北部出身者の書類を指差した。文字にされた自分の知り合いをユーリは見下ろした。彼の気持ちも、サラと同じだった。自分の友人には、自分の手で引導を渡したい。ユーリは首を振り、サラに資料を渡した。



 それぞれが旅の準備をしていたとき、サラは不自然にその動きを止めた。

「どうした?」ユーリは彼女の背中に声をかけた。

「あのさ」サラは背を向けたまま話しはじめた。「あたしがもし国に背いたら、こうやってここに討伐の指令が下るんだよね」

「……たぶん、そうだな」

「もしそうなったら、ユーリが来てね」

 殺しに来てくれ、ということだろう。

「わかった」とユーリは言った。「その代わり、俺がそうなったら、お前が来てくれよ」

 サラは振り返り、小さくうなずいた。「約束ね」



  ◇ ◇ ◇



 まぶしい。

 強烈な光が、意識をこじ開けてくる。体のあらゆる部位と頭のあらゆる領域が苦痛と嫌悪を感じている。目を閉じたまま身をよじると、全身の筋肉が硬くこわばって痛んだ。同時に、両手首に違和感。ユーリは何秒もかけてまぶたを上げた。それだけのことがひどい重労働のようにも思えた。

 窓から射す日光が顔に直接当たっていた。ユーリは手でさえぎろうとしたが、思うように手が動かせない。薄く目を開けて自分の手を見ると、石でできた枷がその手首をつかんでいた。これが何であるかは知っている。エリナという少女を捕縛するために、ユーリ自身が持ってきたもの。異能を封じるもの。どうして自分でこれをつけているのかはわからない。何があったのか、うまく思い出せない。ユーリはあおむけになり、見知らぬ天井を眺めた。下腹部に重くのしかかった手錠はとても外れそうにない。手錠の中心に埋めこまれた黒い石は貪欲に光を喰らっている。これが完全な球状であることをユーリは知っていた。


 眠りから覚めてしばらくしても、頭に深い霧がかかったような気分だった。何かを深く考える気も、体を動かそうという気も起こらない。

 扉が開き、何者かが入ってきた。ユーリの頭の上で立ち止まると、そこにしゃがみこんだ。

「おはよう。気分はどうだ?」

 この男のことは知っている。左目に縦に走った傷痕。異能殺しの異能。今回の任務の標的。

 自分は生かされたのか。そして捕らえられた。

「最悪の気分だよ」ユーリは声を絞り出すようにそう言った。

「だろうな。リオがそれをつけてたときも、いつもぐったりしてた。悪いけど、我慢してくれ」

 レイドが言った「それ」が手錠を指すことに気付くまで、数秒の時間を要した。この黒い石は手当たり次第にエネルギーを喰らい尽くす。異能を特異的に封じるような便利で都合の良い代物ではない。それが使えないようになるまで能力者を衰弱させるだけの単純な原理だ。リオがこれをつけて数日歩き通したと聞いたが、この重い倦怠感を実際に味わってみると、やはり彼の体力は人並み外れていると実感させられた。


「サラはどうした」ユーリははっきりとした口調で尋ねた。

「連れなら、そこで寝てるよ」

 部屋の隅、レイドが指差す先に目を凝らすと、毛布がかけられた背中があった。最近伸ばしはじめた褐色の髪が床に垂れている。

「どうして生かした?」

「お前ら、そればっかりだな」レイドは苦笑した。「死ぬ必要なんてない。そう思っただけだ」

 ユーリはレイドの横顔を見上げ、言葉を失っていた。

「あの女にも怒鳴られたよ。覚悟を踏みにじるな。平和な田舎暮らしのお前に気持ちはわからない、ってね」レイドは寝ているサラのほうを見ていた。「俺は人を手にかけたことがない。だからあいつの……お前らの覚悟っていうのがどんなものか、理解したくてもできない。だけど、命を懸けて生きてる人間としての矜持(きょうじ)は、俺は尊重したいと思ってる。理解できない者なりに。自分の力で生きることは、本当に尊敬するよ」

 サラを見つめるレイドの穏やかな目を見て、ユーリは胸の奥から突き上げてくる何かを感じた。

 俺たちはお前を殺そうとしていたのに。

「でも、俺は俺で譲れない思いがあるんだ。矜持ってほどのことでもないかもしれないけど」そう話すレイドの目はずっと遠くの何かを見つめているようにも見えた。「もう誰にも死なないでほしい。死んだら、そこで終わりなんだ。どれだけ誇りを持とうが、それが誰かの心に残ろうが、全部終わりだ」


 ユーリは自分が泣いていることに気付いた。何の涙だ。さっきからずっと、正体のわからない感情がこみ上げる。

 レイドはその涙に気付き、一瞬何かを言おうと口を開いた。しかし小さく首を振り、代わりにポケットから取り出したものをユーリの頭の横に置いた。

 質素な銀の髪留め。サラがいつも身に着けているものだ。

「その手錠は一つしかないから、あの女は縄で縛ってるだけだ。だから金属は全部取り上げることになってるんだけど、それは返すよ」

「どうして……」

「俺は理屈があまり好きじゃないんだって」

 ユーリは思わず起き上がった。「馬鹿か、お前。嫌いでも理屈が必要なときはあるだろ。今がそうだ。あいつにこんなもの渡したら、縄なんて切ってあっという間に脱走できる」

「使わないよ、それ」レイドは言い切った。「俺と闘ってたとき、それだけは一度も手をつけなかった。ぶち切れて襲いかかってきたときもね。経緯(いきさつ)も何も知らないけどさ、大事なものなんじゃないかな、と思って。だから返すよ」

 ユーリは髪留めを震える手で拾った。銀にはまだ真新しい光沢があった。ユーリがどこかの街で見つけたときと同じ、少し前にサラに贈ったときと同じ輝きだ。


 レイドは立ち上がったが、その足は動かなかった。サラの背中を見つめ、思案している。ユーリが不審がって見上げると、それで踏ん切りをつけたかのように口を開いた。

「俺、人が死ぬとわかるんだ。このへんで誰か死んだなとか、死んだのが今かもっと前かも。弱ってる人を見て、こいつもうすぐだな、って思うこともある。どうやら他人よりもその感覚が鋭いらしい」

 適切な言葉を探しているのか、レイドは少し間を置いた。

「逆も同じだ。生きている、っていうのも感じる。生きたいと本気で願う人からは、その……生命力みたいなものが、強く伝わってくる。昔、一人だけそんな人間と会ったことがあるんだ。こんなの俺の感覚の問題だから、信じるかどうかはお前に任せる」

 レイドは再び沈黙をはさんだ。ユーリは髪留めを握りしめながら続きを待っていた。彼が重大なことを言おうとしているのが、その横顔から予感させられる。

「お前らから、それを感じたんだ。生きたいって、強い意志を。それこそが命を懸けた人間の誇りってやつなのかもしれないけどさ、そんなもの見せられたら、なおさら死なせたくないんだよ」


 ユーリは目の奥まで突き抜ける痛みを感じた。涙が髪留めを握る手に落ちた。胸の真の中心を貫かれたような気分だった。しかしそれは苦痛ではない。安堵だ。一片の疑念も不安も無い、深い安堵だった。自分は生きたかったのだ。そしてこの男は、この男だけは、それを無条件に認め、受け入れてくれている。

 この男になら――。

「一つだけ頼みたいことがある」ユーリは頭を垂れた。「サラを助けてくれ。こんないつ死ぬかもわからない毎日から救い出してやってくれ。俺は何だってする。だからお願いだ」

 長い沈黙があった。ユーリの荒くなった息遣いだけが聞こえる。

「まだ俺にはやらなきゃいけないことがある。だから今は無理だ。ごめんな」頭を下げたのか、レイドの声はわずかにくぐもった。「全部片付いたら、また来るよ。できる限り力になる。あいつもお前も、必ず助ける」




 サラが目覚めたのは、レイドが出ていってからしばらく経ってからだった。正確にどれくらいの時間が経ったのかはわからない。天井近くの小さな窓から射す光が動くばかりで、手錠の影響もあってか体を動かす気にもなれず、ユーリはただ鍵のかかった扉を眺めていた。


 サラは天井を見て、縛られた手首とそこから柱につながれた縄に目を移し、再び天井を見た。先ほどのユーリとほとんど同じ反応だ。

「おはよう」とユーリは声をかけた。

「最悪」サラは開口一番にこの世の終わりのような声を出した。

 ユーリはサラが自分と同じ反応をしたことに苦笑した。

「ユーリも生きてんだね」

「このざまだけどな」ユーリは手錠を持ち上げてみせた。

「あたしもね。いろいろ仕込んでたのに、全部無くなってる」

 サラは力なく笑い、深いため息をついた。ユーリは彼女の元へ歩み寄り、毛布の上に髪留めを置いた。

「さっきレイドが来たよ」ユーリはサラから少し離れて座った。彼女に何から話すべきか迷ったが、とりあえず事実を話そうと思った。「あいつがそれを置いていった。大事そうなものだから返すってさ」

 隠そうとしているようだったが、サラの表情が(やわ)らぐのがわかった。彼女は髪をまとめようと頭の後ろに手を回したが、縛られた手ではうまくいかず、やがて諦めて髪留めを膝の上に置いた。


「あいつも余計なことをしてくれたよ」サラが吐き捨てるように言った。

「髪留め?」

「違う。あたしを助けたこと。わざわざ傷を治してまで生かすなんて」

「やられたのか?」ユーリは驚いて尋ねた。

「うん。不意を突かれてね」サラは肩をすくめた。「正直、今でも何があったのかよくわからない。負けたのはわかってる。でも、どうして……気付いたら、炎に囲まれてた。あいつが炎を操れるなんて、おかしいじゃないか。そんなこと聞いてた?」

 ユーリは湖のほとりで巻き起こった炎の竜巻を思い出した。あれはやはりレイドの仕業だったのだ。

「あれについては俺も聞いてないよ。でもまあ、そのことに関して考えたって、俺たちにはわからないだろうな」とユーリは言った。「とにかく、俺たちは生きてるんだ。これからのことを考えよう。前向きにな」

「……前向きに?」サラは首をかしげた。

「何だよ」

「あんたの口からそんな言葉が出るなんて思わなかった」

「悪かったな、根暗で」

「そういうことじゃないよ」


 そのとき、鍵が開く重い音がして、扉が乱暴に開かれた。入ってきたのは見知らぬ男だ。彼は腰にぶら下げた警棒を手にし、二人に歩み寄った。

「さあさあ豚ども、エサの時間だ」と男は言った。

 ユーリはサラの前に立ち、男をにらみつけた。

「どこに飯があるって?」

「それには対価を払ってもらわなきゃなあ。俺を満足させられたら食わせてやるよ」男はユーリを押しのけてサラの腕をつかんだ。

 男の意地の悪い笑みに、ユーリは戦慄した。この男の言う対価が何か、それはわかりきったことだ。革命軍の荒くれ者どもが捕虜にした女をどう扱っているのかは聞いたことがある。遠い異国の話のようにしか考えていなかった。今、目の前で、大切な友人がその中に引きずりこまれようとするまでは。一瞬、恐怖が身を凍らせた。だが同時に、それを上回る衝動がユーリの体を駆り立てた。サラを連れて行かせてはいけない。

 ユーリは男の顎めがけて、石の手錠を振り上げた。しかしそれが命中する直前、膝から力が抜けた。空を切った手錠はユーリの体を大きくふらつかせ、ユーリは頬を警棒で打ち抜かれた。口の中に血の味が広がった。

「お前はここで見てろよ」

 男は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ユーリの腹を蹴りつけた。しかしその隙にサラは男の手から警棒を奪い、体を貫かんとする勢いで男の腹を突いた。男は声も上げられずにその場に倒れ、体を痙攣(けいれん)させてのたうち回った。


 すぐにサラが駆け寄り、ユーリは助け起こされた。まだ頭が揺れている。

「大丈夫?」サラが心配そうに顔をのぞきこんでくる。

「ああ。予想以上にこいつが効いてるんだな」ユーリは忌々(いまいま)しい手錠を見下ろした。「助ける必要も無かったな。今の状態だと、俺よりお前のほうが強いらしい」

「ユーリが気を引いてくれなかったら、あんなことできなかったよ。それに、その……ちょっと、嬉しかった。ありがと」

 ふと視線を上げると、サラのそれとぶつかった。思っていたより近い。相手もそう思っているような気がした。なぜか目をそらせなくなる。奇妙な間が生まれ、胸の奥がうずいた。


 サラは思い出したように立ち上がると、男をまたいで、足元にあるものを拾い上げた。彼女の髪留めだ。「よかった、壊れなくて」と彼女はつぶやいた。ユーリは小さくため息をついた。何のため息か、自分でもよくわからなかった。


 レイドを信じたい気持ちは今でもある。しかし彼を待っていては自分たちがどうなるかわからない。この騒動が他の人間に知られたら。次は数になって来られたら。たとえ今日中に戦争が終わり、明日にはレイドが戻ってくるとしても、それまでに無事でいられるとは到底思えない。一刻も早く、サラだけでもここから逃げなければならない。


「使ったらどうだ」答えはわかっていたが、ユーリは提案してみた。「それを使えば、縄も切れるし扉も開けられる」

「これは……」サラは髪留めを見つめて押し黙った。

「今は脱出が優先だ。このことが気付かれる前に、早く抜け出さないと」

「わかってる。でも、これは」サラは髪留めを握りしめて低くうなった。「最終手段。どうしようもなくなったら、使うよ」

 サラは男の持ち物を物色しはじめた。指示があったのだろう、彼は金属製の物をほとんど身に着けていなかった。警棒も木製だ。結局、サラが見つけられたのはベルトの金具だけだった。彼女は指一本分ほどしかない金属を使って、器用に両手を縛る縄を切り、自由になるや否や髪をまとめた。意地でも髪留めは武器に使わないつもりらしい。


 サラは再びユーリの元へやってくると、手錠の鍵穴に金属を差し込んだ。しかしそれが開く気配はない。サラの表情に焦りが差す。無為な時間だけが過ぎていく。ユーリはその事態を諦観していた。これは外れないだろう。そして自分は――。

「ごめん、もうちょっと待って。すぐにできるから」サラの声は震えていた。

「いや、無理だ」ユーリは落ち着いた声で言った。「簡単な錠じゃない。それに、鍵穴に差し込んだ金属は異能で操れない。すぐになんて無理だよ。だから、お前だけでも――」

「すぐに外すから」とサラはさえぎった。「外せなくても、一緒に逃げればいいじゃない」

「それも無理だ。こいつのせいで、走る体力も残ってない。足手まといになるだけだよ」

「やめてよ。そんなこと言うの」

 サラの奮闘が報われることはなく、鍵穴に差し込んだ鍵はほんのわずかにでも動く気配は無い。

「一人で逃げるなんて、絶対に嫌。ユーリをこんなところに置いていくくらいなら、あたしもここに残る。どんなことされたって平気だから。できないよ。置いていくなんて、そんなこと。絶対に……」

 サラは途中から泣き出していた。彼女の手は錠が開かないことを悟り、ただ小刻みに震えていた。ユーリはそっとその手を握った。

「俺も、お前と同じ気持ちだよ」ユーリは静かに言った。「俺はどうなってもいい。お前は……お前だけは、どうか無事でいてほしい。だから、お願いだ。今は逃げてくれ。俺は、絶対に死なない。約束する」


 サラはうるんだ目を上げた。目尻から流れ落ちる彼女の涙を見ると、脳裏にレイドの言葉が蘇った。生きたいという強い意志。自分には無いと思いこもうとしていた感情。抑えようと必死になるあまりに、誰よりも大きく育ってしまった当たり前の思い。

 不意にサラの顔が近付き、二人は唇を重ねた。長い時間そうしていたかもしれない。しかしユーリにはあまりに短く思えた。近付いてくる足音が聞こえると、サラは立ち上がり、窓を割って足をかけた。そして一度だけ振り返ると、彼女は窓の外へ消えた。男たちが部屋に押しかけたのはその直後だった。

 必ず、生きてまた会おう。


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