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人外勇者の魔調合  作者: 木ノ下
30/31

27 王国の勇者の実力

「おらっ、さっさとこっち来いよ!」

「いやあっ、離してっ、離してください! お願いっ誰か助けて!」

「はははっ、バーカ、誰も助けてなんかくれねえよ。お前俺らが誰か知らねえのか? 天下の勇者様だぜ?」

「そうそう、どいつもこいつも俺らにビビッて逆らえないんだからさあ~、君もさっさと諦めた方が身のためだよ?」

「へへへっ、別に難しいこと頼んでる訳じゃねえんだよ。たださあ、お前らは俺らの御蔭で今日も平和に過ごせてる訳じゃん? だからその分感謝の気持ちを籠めて俺らに奉仕してくれればいいんだよ」

「そんなっ、私嫌です! お願い、助けて!」


 勇者は好き勝手なことを言いながら泣き叫ぶ女性を無理やり引き摺っている。


「た、頼む止めてくれ! 彼女は私の恋人なんだ!」

「はあ? てめえは黙ってろや!」

「がっ⁈」

「アルっ⁈」


 女性を助けてくれと懇願した男性は鬱陶しそうな表情になった勇者に蹴り飛ばされて再び床に打ち付けられた。


「へへっ、さーて邪魔者は消えた事だしさっさと連れてって楽しもうぜ」

「俺が最初な?」

「はあ? こいつに目を付けたのは俺が最初だろうが」

「だったら同時にやれよ。どうせ壊れたってかまやしねえんだからよ」


 勇者達の身勝手極まりない言い草に怒りが沸いて来るものの、女性はこれから待ち受ける自分の運命に絶望し声も出ない様だ。

 項垂れた女性を見て勇者は全員厭らしい笑みを浮かべて店外に連れ出そうと振り向く。が――


「よっしゃ、騎士共が来る前にさっさとここからぐげぼっ⁈」


 一番近くにいた勇者が振り向いた瞬間に眼前に掲げた右手でデコピンをお見舞いしてやった。

 デコピンが直撃した勇者は車に跳ねられたような勢いで吹き飛び、奥のカウンターを飛び越えて収納されているグラスやワインラックに衝突して派手な音を立てながらぶちまけた。

 うおっ、ちょっと力籠め過ぎたか?

 予定じゃカウンターにでも激突させるつもりだったんだが……弁償代は国に持ってもらうか。

 視線だけを動かして軽く周囲を窺ってみると店内は水を打ったように静まり返っていた。

 みな突然店内に乱入していきなり勇者をデコピンで吹き飛ばした俺に視線を集中させている。

 勇者に捕まっていた女性もさっきまではこの世の終わりの様な悲壮な表情をしていたが、今は何が起きているのかわからないといった風に目を白黒させて混乱を来していた。

 勇者達も今起きたことに理解が追い付かないのか、さっきから俺と吹き飛んだ仲間の方を交互に見ては口をポカンと開けて間抜けな顔を曝している。


「取り敢えずその手を離せ」

「おげぇっ⁈」


 俺は女性の腕を掴んでいる勇者に瞬時に接近して腹パン一発。

 勇者は口から胃液とその他諸々の汚物を吐き出しながらその場に倒れ込んでもがき苦しみだした。


「なっ、健二っ⁈」

「てめえっ、なんのつもりだこらあ! 俺らが誰だかわかってんのか⁈」


 台詞が三流過ぎる……。

 様子を見てた時から思ったけど、もう何から何まで悪役まっしぐらだなこいつら。

 と、その前に――


「おい、大丈夫か?」

「え……えっ? あ、あの……」

「立てるなら離れてろ。危ないぞ。……おい、そこのあんた、この人の恋人なんだろ? 早く連れてけ」

「は、はいっ!」


 女性はいまだ呆然としているので勇者に蹴飛ばされていた男に声を掛けて女性を回収してもらった。

 さてこれで一先ずはいいだろう。


「ああ⁈ 何勝手に連れて行ってんだてめえ!」

「その女は俺らのもんだ!」


 往生際悪く勇者がまたも女性に手を伸ばそうとしたので俺は両者の間に立ち塞がって伸ばした手を阻む。


「ちっ、さっきからなんなんだてめえ!」

「俺らはこの国の勇者だぞ⁈ 俺らに手を出してタダで済むと思ってんのか? ああ⁈」


 邪魔をされた勇者は苛立たし気に恫喝して来るが俺にはガキが喚いている程度にしか感じない。

 こんなひよっこの脅しにビビるほど俺は生半可な経験はしてないからな。

 さっきちょろっと〈鑑定〉を使ってみたが、こいつらのステータスはせいぜいディアンウルフに毛が生えた程度の物でしかなかった。

 この世界の人間を基準にするならかなりの物なのだろうが、俺や恵理と比較したら足元にも及ばない。

 本気を出せば多分四人まとめて五秒で挽肉に出来る。

 目の前で喚く二人の勇者を観察しているうちに最初にデコピンで吹き飛ばした奴とずっと蹲ってげーげーやってた勇者がふらふらと立ち上がって戻って来た。


「てめええ、ぶっ殺してやる!」

「ざけやがって! おい、逃がすなよっ、囲め!」


 勇者達は俺を逃がさないためか四方を囲む様に移動した。


「へへっ、これで逃げられねえぞ」

「言っとくが骨の二三本折るだけじゃ済まさねえからな」

「おい、さっさとやっちまうぞ」

「勇者に喧嘩売るとか馬鹿じゃねえのかお前? 正義の味方気取りかよ」


 いかにも不良って感じだなー……。

 あ、そう言えば実際恵理の通ってた学校って県内有数の不良校なんだっけか?

 こんなのしかいない学校に通ってた恵理が不憫でならん。


「なあ、一応聞いておくけど何であの女の人に手を出したんだ? 何か接客中に失敗でもしたのか?」

「はあ? 何言ってんだお前?」

「馬鹿じゃねえのか。ちょっと顔が好みだったから遊んでみたかっただけだし」

「そうそう。なんたって俺らは勇者だからな。そこらの女に遊び半分で手を出したって誰も文句は言えない訳よ」

「この前なんか面白かったよなー。なんか汚ねえ爺がやってる露店があったけどなんとなく気に入らねえから商品も店もめちゃくちゃにしてやったやつ」

「ああ、あれな。ぎゃははっ、店めちゃくちゃにされて怒るどころか金を払うから勘弁してくれって泣きついて来た奴だろ? マジウケたわ!」

「惜しかったよな。途中で騎士の奴らが来て半端に終わっちまったけどもうちょっと時間があれば店も完全に潰してやれたのによ」


 そこまで行って勇者は「ギャハハハ!」と大声を上げて笑い始めた。

 そんな勇者の様子を見ていた店内の客と外の野次馬の視線に険が増すのがわかった。

 はあ……念の為と思って聞いた俺が馬鹿だった。

 でもまあいいか。

 これで心置きなくボコれるし慈悲を掛ける必要もなくなった訳だしな。


「もういい。わかった」


 店にも他の客にも迷惑になるしさっさと片付けてしまおう。

 こいつらが終わってもまだ城にいる勇者が残ってるんだからな。


「あ? 何がわかったってんだよ?」

「お前らが馬鹿だってことがだよ」

「ああ⁈」

「ざけんなこら!」


 安い挑発に簡単に乗って来た勇者達はそれぞれの獲物を抜き放つ。

 扱っているのはそれぞれ剣、槍、斧、槌。

 見た限り武器自体はそれなりにいい物の様だが、殆ど使われた跡がないし手入れも適当の様だ。

 どうせある程度Lvが上がった所でサボっていたんだろう。


「くたばれおらっ!」


 背後で上がる悲鳴を聞き流しながら剣を振り上げて襲い掛かって来る勇者の動きに視線を這わす。

 ……こりゃあてんで駄目だな。

 速度自体はそれなりだが軌道が単純すぎて狙いが丸わかりだ。俺のことを舐めてるのか大振りになっているし。

 ぶっちゃけ鱗があるからそのまま受けてもダメージはないが(まあ仮に斬られたとしても中身はスライムの体だから魔法以外では結局ダメージは喰らわない)、わざわざ喰らってやるのもしゃくなので振り下ろされた剣の軌道に合わせて掲げた右手――その親指と人差し指で刀身を挟んで受け止める。


「ふんっ」


 さらに受け止めた刀身の腹に左拳を叩き付けて半ばから圧し折る。


「なっ⁈」

「どけ」


 一瞬で武器を破壊されたことに愕然とした勇者に一言告げ、振り上げた右アッパーで顎を打ち抜き丁度いい所に体が浮き上がった所で顔面に拳を叩き込む。


「げぼおっ⁈」


 殴り飛ばされた勇者は奇怪な呻き声を上げながら吹き飛び壁に思い切り叩き付けられた。

 感触的に多分顎と歯、それから鼻も砕けていると思う。

 ちらっと見てみると大量の鼻血を噴出し、さらに顔の一部が陥没して変形していた。

 かなり手加減したとはいえあれでも意識を保っている所を見ると腐っても勇者ということか。

 バタバタと床でのたうち回っていると鬱陶しいので指先から〈蜘蛛糸〉を射出して動きを封じておく。

 これで残りは三人。


「な、な……⁈」

「な、なんで……⁈」

「このっ!」


 剣の勇者の惨状を見て三人の内二人は口をパクパクさせて硬直していたが、残りの一人――槌の勇者が動き出し、己の武器を振りかぶって俺の頭上から叩き潰そうとして来る。

 俺は再び勇者の武器を受け止め、今度は武器の方は放っておいて柄を握る勇者の右腕に空いた手で手刀を振り下ろす。


 ザンッ――!


「ぎゃあああああっ⁈」

「喚くな鬱陶しい」


 切り落とされた右腕を抑えて蹲る勇者の顔面を蹴り飛ばして意識を奪い、最初の勇者の様に顔の形を変えてからこいつも壁際に放っておく。

 まだ死なれては困るので蜘蛛糸で止血も忘れない。


「さて、後はお前らだけだな?」

「あ、ああ……」

「な、な、な……⁈」


 残った二人はすっかり顔を青褪めさせてぶるぶる震えている。

 さっきまで他者を嘲ることしか知らなかったその瞳は今は恐怖一色で塗り潰されていた。


「ひゃ、ひゃあああああ⁈」

「お、おい、置いてくなっ⁈」


 恐慌を来した一人が背を向けて出口に走り出すと、残った一人も慌ててその背を追随し始めた。

 が、俺が逃がす訳がない。

 俺は〈蜘蛛糸〉を射出して逃げ出して勇者二人の背中に張り付ける。


「なっ……⁈」

「おいっ、どうなってんだ⁈ なんで体が動かねえ⁈」


 俺の糸をびっしりと張り付けられればこいつら程度の実力では逃げられない。

 俺は指先から伸びる糸をしっかりと握り込んで掛かった獲物を釣り上げる様に思い切り手前に引っ張り上げる。


「「なあっ⁈」」


 ぶわっと全身を浮き上げて空中を迫ってくる勇者の体を見定め、俺は指先から糸を切り離して両手を手刀の形に構える。

 俺の両脇を通過する一瞬に両手を振り、二人の勇者の両足を切り落とす。


「「あぎゃあああああ⁈」」


 床に衝突した瞬間、両足から襲い来る痛みに絶叫を上げる勇者の顔面を踏み付け昏倒させ、糸で止血すると同時に全身を拘束する。

 ふうー、これで全員だな。

 騒ぎを起こしていた勇者は全部片付いたし、後はこいつらを連れて城まで行くだけだな。


『おおおおおっ――!』

「うおっ⁈」


 突然周囲から歓声が上がった。

 ちょ、何事だ⁈


「おいおい、すげえじゃねえか兄ちゃん!」

「勇者を四人も倒しちまうなんてあんた何者だ?」

「いやあスッキリしたぜ! ありがとなあんた!」

「ざまあみやがれってんだ! 散々好き勝手してたツケだ!」


 どうやら俺が勇者を倒したことを称賛してくれてるっぽい。

 店内に残っていた客や従業員だけでなく、外に集まっていた野次馬も含めてそれはもう凄い大歓声だ。

 喜んでもらえて何よりだが手足を切り落とされても一切心配の声が上がらない勇者共はどんだけ嫌われてるんだって話だ。

 何だか最初よりも騒ぎが大きくなって来たので早いとこずらかろうと壁際に吹き飛ばした勇者の回収に向かうと、連れ去らわれそうになっていた女性とその恋人の男性が近寄って来た。


「あ、あの、助けて頂いてありがとうございます!」

「私からもお礼を言わせてください。彼女を救っていただいてありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ。それより店の備品や商品をいくつか壊してしまって申し訳ない」

「そんなっ、とんでもありません!」

「彼女の言う通りです。あなたが助けてくれなければ彼女は間違いなく奴らに連れ去らわれていたのですから、あれくらいは安い物です!」

「そうか……そう言ってくれると助かる。でもまあ、これから城に向かうから壊れた物の修繕費なんかは国に請求しとくよ」

「え、城に、ですか? あの、失礼ですがあなたは一体――」


 と、その時、野次馬が集まっていた店の入口の方が騒がしくなった。


「騎士団の者ですっ、道を空けてください!」


 ん?

 ああ、騒ぎを聞きつけて騎士が駆け付けたのか。

 ……まあ遅すぎるけどな。

 とっくに全部終わっちまったよ。


「なっ、こ、これは……⁈」


 店に入って来た騎士は全部で五人。

 体の一部を欠損して拘束されながら店内に転がされている勇者の惨状を見て全員唖然としている。

 多分勇者が暴れてるとかそう言う報告でも受けて来たんだろうが、現場に駆けつけてみたらくだんの勇者は全員制圧されてるのを見て混乱しているのだろう。

 騎士達はしばし勇者の有様を見て立ち尽くした後、ハッとした様にぐるりと店内を見渡して俺の所で視線を止める。


「……これはあなたが?」

「ああ、近くを通りかかったらこいつらがそちらの女性に暴行を働こうとしているのを見て止めに入った。そしたら武器を抜いて斬りかかって来たから無力化した。何か問題あるか?」

「い、いえ……あの、お一人でですか?」

「そうだ」


 騎士達は困惑した表情のまま互いに顔を見合わせ小声でぼそぼそと何か相談した後、再度俺に向き直る。


「……申し訳ありませんが、我々に御同行願えますか? 出来れば詳しく事情をお聞きしたいのですが……」


 まあそうなるわな。

 敵対する様な態度は取っていないが、この世界では異常ともとれる力を持った勇者を、それも四人同時に相手にして無傷で無力化したんだ。

 それがローブで全身を隠した上にフードを被って顔を隠した見た目怪しさ満タンの男となればこの国の治安を維持している騎士が正体を気にするのも当然だろぅ。

 でもどうせこれから城に行くのに一々話をするのも面倒臭いな。言っちゃあなんだがこいつらは見た目下っ端っぽいし。


「その必要はありません」


 どうするか迷っていたその時、店外に続く扉から騎士に続いて別の人物が店内に入って来た。

 顔を見なくてもそれが誰かなど声を聞いただけで分かっている。

 店に入って来た恵理は俺動揺フードを被って周囲から顔を隠している。

 突然割り込んで来た恵理に警戒する騎士にゆっくりと近付き、懐から何かを取り出すと騎士達にだけ見える様に掲げてみせた。

 多分門の所で衛兵に見せた物だろう。

 それを見た騎士達はギョッとした表情になり、慌ててカードとフードに隠された恵理の顔を見比べる。


「なっ⁈ え、エリさ――」

「静かに、騒がないでください」

「……っ⁈ は、はいっ、申し訳ありません!」

「彼の身の上は私が保証します。私達はこれから捕縛した勇者達を連れてこのまま城へ向かいますのであなたたちは通常業務に戻ってください」

「で、ですが」

「ことは急を要します。申し訳ありませんがここは私に任せてください。責任は私が取りますので」

「……わかりました」


 恵理はその後騎士といくつか話をし、終わったのか俺の方に近付いて来た。


「雄二君、そろそろこの場を離れましょう」

「ああ、それはいいんだが騎士の方はいいのか?」

「はい。彼らには話を付けましたし、これから城に向かうので問題ないと思います。それよりも結局食事所ではなくなってしまいましたけどいいですか?」

「まあ仕方ないだろ。この状況じゃ呑気に飯も食ってられないしな」


 俺は転がった勇者達を回収して一つにまとめ、束ねた糸を持って引き摺って店の出口に向かう。

 その時、再度助けた女性が礼を言って来たので軽く手を振ることで答えておいた。

 店を出た後も集まっていた野次馬から称賛を浴びたが一々答えていたらキリがないので適当に返事をしてその場を後にした。


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