26 遭遇
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俺は大通りの左右に広がる様々な露店や商店に次々目移りしながら恵理と手を繋いで都市の中心に佇む城を目指していた。
お、あの屋台は串焼きか。
あっちはサンドイッチか。
あそこのスープっぽいのもいいな。
く~~~~、さっきからいい匂いが周囲に充満してて俺の鼻が大忙しだ。
恵理と手を繋いでいなかったら無意識のうちに匂いに誘われてフラフラ彷徨っていたかもしれん。
「雄二君、お腹が空いているんですか?」
「いや、そういう訳でもないんだが……さっきからいい匂いが引っ切り無しに俺の嗅覚を襲撃して来るからつい」
とは言っても今はちょうど昼時だしなー。
城に殴り込みかける前にどこかで軽く腹を満たしていくか?
……いや、満たしていくかって言っても金を払うのは恵理なんだけどな。
ほんとどうにかしないとな。
いつまでも女の子に財布になってもらうのは申し訳ない。て言うか自分が情けない。
「そうですねえ……ちょうどお昼ですしどこかで食べていきましょうか」
わーい!
お上の一言で俺達は軽く腹ごなしすることになった。
店は至る所に点在しているのでどこか適当に席に空きがある店を探してそこで食事を摂ることになった。
「どこにしましょうか……雄二君は何か食べたい物とか希望はありますか?」
「ん? 俺か? そうだな、特に希望はないけどしいて言うなら……」
と、俺が食べたい物を口にしようとしたその瞬間――
ガシャアアァン!
数十メートル先の方から何かガラスが割れる様な甲高い音が響いて来た。
思わず音のした方に顔を向けるが人混みで全く見えない。
おいおい、なんだよいきなり。
どうせ進行方向だったので俺達は騒ぎのあった方に歩いて行く。
どうやら騒ぎの中心は一軒の軽食屋の中で起きた様だ。
野次馬の後ろから仲を除いて見ると、数人の客と思しき連中が後ろに若い女性店員を庇った男性店員に突っかかっているのが見えた。
おおかたあの客が何か不満を訴えて暴れた際に店の窓ガラスを割ったのだろう。
周囲にはそれなりに他の客の姿が見えるが皆大声で喚いている客に迷惑そうな視線を寄越している。
「何があったんですか雄二君?」
「ん? ああ、原因は知らんがなんか客の数人が店員に絡んでるみたいだ」
「うぅ、見えません……」
あー、確かに恵理の慎重だと野次馬が邪魔で見えないか。どれ――
「ひゃあっ⁈」
「これで見えるだろ?」
「は、はい」
俺は隣でぴょんぴよん跳びはねて懸命に中の様子を探ろうとしている恵理の両脇を抱え上げてやった。
「うう、ちょっと恥ずかしいです。……え?」
「どうした?」
店の喧騒に目を向けた恵理の表情がポカンとした物から見る見る険しい物へと変わっていった。
ちょ、何? なにかあったのか?
恵理の顔が般若みたいになってるんだが……。
「勇者です……」
「は?」
「だから、あそこで騒ぎを起こしているのは私と一緒に召喚された勇者です」
「え、マジ?」
「マジです」
俺は抱え上げた恵理を脇に動かしてもう一度店の中を覗き込む。
ああ、さっきは気付かなかったけどそう言えば絡んでる奴らは全員黒髪だな。
チラッと見えた横顔も確かに日本人のそれに近い気がする。
周囲の野次馬の話しに耳を傾けてみれば奴らが勇者だと言う裏付けも取れた。
耳を澄ませてみれば「また勇者か……」「いくら戦争の為だからっていつまで好き勝手にさせてるつもりなんだ」「この間も別の店が被害に遭ったばかりだぞ」「騎士団は何をやってんだ!」と、不満を訴える声が引っ切り無しに聞こえて来る。
うわあ……随分評判悪いなあいつら。
勇者の肩書持ってるくせに国を救う英雄どころかすっかり悪役じゃねえか……。
「なあ、あの勇者ってのはいつもこんな騒ぎ起こしてるのか?」
俺は近くに立っている野次馬の一人に聞いてみた。
「ん? なんだお前、王都に来たのは最近か?」
「……ああ、戦争が始まるから避難して来たんだが」
「そうか、なら驚くのも無理はねえな。お前さんも勇者に期待してここまで逃げて来たんだろうが、残念だが期待はしない方がいいぞ? 地方で聞く噂と実態は随分かけ離れてるからな。見ての通り、あいつらは一ヶ月程前にこの国に召喚されたそうなんだが、街に下りて来ては勇者の立場と力を利用して俺達一般市民に対して好き放題に振る舞ってんだよ。あんなんでも戦争の切り札だから国王様や騎士団も強くは出れねえみたいだしよ。でも、そのせいであいつらの被害に遭った店はこれでもう十数件目だぞっ。これじゃあ帝国の侵略者共と変わらねえよ!」
はあ……成程。
恵理に聞いていくらか予備知識はあったが、実際に被害に遭った者の生の言葉を聞くとそこにはやはり確かな重みがある。
周囲に集まった者達の表情を窺ってみれば誰も彼もその顔には嫌悪感を剥き出しにして騒いでいる勇者を睨み付けている。
「どうしますか雄二君?」
俺はもう一度店の中に視線を転じる。
中ではいまだに言い争いが続いているが、庇っている男性店員も庇われている女性店員もすっかり青褪めて劣勢なのは明らか。
二人を囲む様にして立っている四人の勇者はどいつもこいつも女性を品定めする様にニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて全身を舐める様に見ている。
カウンターの奥にはまだ他にも店員は入る様だが、すっかりビビッてしまっているのか様子を窺うばかりで出て来る様子はない。
上手い具合に騎士の連中が駆け付けてくれないかと周囲を窺うがその様子も無し。
そうこうしているうちに勇者の一人が女性の腕を掴んで無理やり自分達の方に引っ張り出してしまった。
女性は嫌がって暴れているが流石に女の力では、まして勇者の腕を振り解くなんてことは出来ない。
慌てた男性店員が助けようとするも、別の勇者に突き飛ばされて近くのテーブルをひっくり返しながら自らも床に打ち付けられてしまった。
周囲で食事をしていた他の客からは悲鳴が上がっている。
仕方ない……。
ぶっちゃけ城に着いてから唯達のことに関してどういう交渉をするかとか具体的な案はなかったし、邪魔な王国の勇者の処分方法とかもなるべく穏便に済ますためにもっとじっくり考えたかったんだが……かと言ってこのままこの場を見過ごす訳にもいかないだろう。
て言うかもう面倒なこと考えるのか止めよう。
どうせこの国の勇者は遅かれ早かれ何かしらの方法で処分する予定だったんだし、それが数人だけ少し早まっただけの話だ。
この国で暮らしてる人たちの印象も最悪みたいだし、さっさと対処しない王国が悪いんだから文句を言われる筋合いもないよな。
唯達のことに関しても勇者のことに関してもガタガタ抜かす様なら力尽くで無理やり黙らせればいいか。
こっちの要求を通すだけの働きはしっかりするつもりだし……うん、なんら問題ないな。
じゃ、取り敢えずあそこの馬鹿共を片付けて来よう。
「恵理はフードを被ったまま一先ずここに残っていてくれ。この状況で勇者だってバレたら周囲の矛先が恵理にまで向きかねないからな」
「わかりました」
「じゃ、ちょっと行って来るわ」




