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人外勇者の魔調合  作者: 木ノ下
28/31

25 王都エスタシア

 すみません、遅くなりました!

 恵理の指示に従い、レストアから伸びる街道に沿ってひたすら飛び続けること数時間。

 広大な草原が続いていたと思ったらいきなり麦畑になったりと、眼下で移り変わるのどかな景色を楽しみながら順調な空の旅を満喫していた頃、眼下に見える景色の中に集落や小規模な街が増えて来たことに気付いた。

 これは――


「もうすぐ王都ですね」


 やっぱりか。

 前に恵理に見せてもらった地図には王都の周辺に村や街がいくつか点在していたからな。この分ならそろそろ――


「雄二君、あれが王都です」


 恵理が指さす先。

 そこでは五十メートル以上はあるだろう巨大な外壁に周囲を囲まれ、さらにはレストアの五倍を超えるだろう面積を誇る王国の名を冠した大都市――王都エスタシアが見る者を圧倒する存在感を放っていた。


「でけえ……」

「王国では一番大きな都市らしいですからね」


 高度を上げて王都全体を見渡せる位置まで上昇する。

 王都の外壁には東西南北それぞれに一ヵ所ずつ門が存在し、そこから都市の中心へ向かって伸びる四本の道と、さらに北東、南東、北西、南西の方角から伸びる四本の道を合わせた計八本がメインストリートとなっている。そして、八本のメインストリートの交差地点である都市の中心には一際目立つ豪華な屋敷がドーナツ状に密集し、その真ん中にはこの王都で最も巨大な建造物である尖塔が並び立った西洋風の城が鎮座していた。

 権威の象徴でもある王族が住まう城は、白を基調にした温かみのある外観の御蔭なのかよく物語で出て来る様な権威を振りかざす特権階級の者が住んでいる印象を抱かせない。

 恵理に聞いた限りではこの国の王は初代の頃からずっと出来た人間が王座に就いて来たらしい。そういう人柄も城の外観に反映されてるのかもしれない。

 まあ、恵理の話はあくまで歴史書に書かれていたことらしいから実際はわからんが。

 しばらくの間上空から王都の全貌を俯瞰し、恵理の指示に従って王都に続く街道の近くに広がっている森の中に着地した。ここから街道に出た後、歩いて門まで行く予定だ。

 俺は恵理から貰った帽子を被って角を隠し、ローブを目深に被って顔を隠す。俺からするといかにもな怪しい格好だが、おそらく恵理が勇者だという証拠を見せればそこまで細かくは調べられないだろうとのこと。

 十五分程森の中を歩き、何事もなく街道に出る。

 時たま魔物と遭遇することがあったが、俺の姿を見た瞬間に泡を食って逃げ出していた。おそらく本能的に俺の強さを感じ取ったのだろうが、魔物だけでなく可愛らしい小動物にも本気で怯えられて逃げられた時はかなり凹んだ。

 街道には他に歩いている旅人の姿はなく、そのまま森から出て王都に向かって進んで行った。

 緩やかにカーブしている街道をしばらく歩いていると、森の木々に遮られて見えなかった王都が見えて来た。

 外壁に設置されている門の前には検問の順番待ちをしている旅人や馬車を引いた商隊の列が出来ている。

 パッと見た限りではそれなりに長い列なので、検問にどれ位時間が掛かるのかはわからないがしばらくは待たされるだろう。

 俺達は列の最後尾に並んでのんびり雑談をしながら列が進むのを待つ。

 最初はローブを被っていたら悪目立ちするんじゃないかと不安だったんだが、列に並びながら周囲の人間を観察してみると大半の者はローブを着ているし、冒険者の格好をした魔法使い風の者で俺と同じ様に目深にフードを被っているのを見て、この格好は案外普通なのかと若干安心した。

 そんなこんなで時折恵理との雑談を交えながら列が進むのを待っていると、二十分程でついに俺達の順番が回って来た。


「次の者」

「はい」


 頼むから余計な詮索はせずに平和的に終わってくれよ……。


「市民証は?」

「これを」


 内心ハラハラドキドキしている俺の目の前で、衛兵と向き合った恵理が表面上は冷静にやり取りしている。

 衛兵の市民証の有無の問い掛けに対し、恵理は懐から小さなカードの様な物を取り出して衛兵に差し出す。

 それを見た衛兵は――


「どれどれ……っ⁈ な、ゆ、勇者⁈」


 それまでの落ち着いた面持ちが一気に剥がれ落ち、見るからに狼狽した表情を覗かせた。

 それから手元のカードとそれを渡した恵理の顔に交互に視線を往復し――


「少々お待ちください……」


 若干声が上擦りながらもそう言い残し、付近に待機していた他の衛兵に何か目線で合図を送った後に近くに建っている詰め所の中に入って行った。

 残された俺達は顔を見合わせた後、そのまま大人しく待っていることにした。

 それから五分程でさっきの衛兵が戻って来た。


「……確かに確認しました。これはお返しします」

「はい、ありがとうございます」

「……一つお聞きしたいのですが、何故勇者様が王都の外に? 確か現在勇者様方は王城の方で悠々自適な生活を送っていると聞き及んでおりますが?」


 偶々なのかワザとなのか、衛兵の言い様には恵理に対する……いや、勇者に対する隠し切れていない嫌悪感が滲んでいる。

 こっそりと視線を巡らせてみると、周囲に立っていた他の衛兵たちも恵理を見る目がだいぶ厳しい。

 話を聞く限りではあまり実感が沸かなかったが、今こうして王都に暮らしている者達の勇者に対する態度と雰囲気を感じてみると、本当に勇者達は嫌われていることがわかる。

 それにしても……この人のさっきの台詞を解釈すると勇者達は現在遊び呆けているってことだよな?

 もうすぐ戦争が始まるってのに何やってるんだ……。

 まあ、衛兵諸君の気持ちもわからんではないが……出来ることなら恵理に対しては普通に接して欲しい。

 他の勇者の所業が酷すぎるせいで恵理まで一括りに考えられているのは真面目に頑張って来た彼女からすればいい迷惑だろう。

 まあ、勇者一人一人の人間性を把握して接しろと言うのが難しいのはわかるが……。

 恵理の様子を窺ってみた所、特に表情に変化はない様だが……それだけでは内心でどう感じているか判断出来なかった。


「……私は地方に出向き、魔物を相手にした戦闘経験を積んでいました。訓練ではなく実戦の中でこそ得られる物があると判断したので」

「戦闘経験を……? 勇者のあなたがわざわざ地方に出向いてまでですか?」

「はい。もうすぐ戦争が始まりますから」


 恵理の話を聞いた衛兵たちは眉を顰めて怪訝そうな、納得し切れていない表情を浮かべている。

 まあ、勇者が城や城下で好き放題に遊び呆けてると知っている彼らからすれば、勇者がこれから始まる戦争に備えてわざわざ娯楽の少ない地方に訓練に出向いていたと聞いても信用し切れないんだろう。

 全く……勇者共はどれだけの醜聞を流しているんだか。

 どうにか恵理に関しては弁明したいが、ここで俺が口を出して面倒な流れになるのも困るしな……。


「……そうですか」

「はい。では、もうここを通ってもよろしいですか? そろそろ王城の方に行きたいのですが」

「勇者様である確認はしたので問題はないのですが……お連れの方はどなたで?」


 とか思ってたら矛先が向いて来たよ……。

 恵理ー、ヘルプ!


「……この方は今回の戦争の協力者です。旅の途中で知り合ったのですが、腕は確かですし騎士に仕官したいと聞いたのでここまで同行して頂きました」

「ほう……騎士にですか。失礼ですが顔を――」

「もう通ってもよろしいですか? 戦争の期日も差し迫っていますし、今は時間が惜しいのですが」


 やはり、このまますんなり通ることは出来ないかと思っていたら、恵理が衛兵の台詞を食い気味に被せて来た。

 そのいくらか強引な態度に周囲の衛兵の雰囲気が硬くなる。

 これはちょっとマズいか……?

 恵理の行動が俺の正体がばれない様にするためだってのはわかっているんだが……彼らの勇者に対する心情や態度を鑑みると、見ようによっては勇者の権限で強引に押し通ろうとした風にも見える今の恵理の行動は火に油を注ぐ行いだったかもしれない。

 俺としては一切合切吹き飛ばしての強行突破は避けたいんだが……彼らが次に取る行動によってはそれもやむなしか。

 周囲の空気の変化に何があっても動ける様にローブの中で身構えていると、恵理と対面していた衛兵が固まっていた表情を動かし口を開いた。


「……そうですな、わかりました。勇者様のお連れならば大丈夫でしょう。お二人ともお通りください」

「ありがとうございます」


 ほんの僅か……親しい者でしかわからない程度の安堵を顔に滲ませて頷く恵理に続き、俺も軽く頭を下げて衛兵の横を抜けて門を潜る。

 衛兵の横を通り抜けるときに視線を感じたが、何も言われなかったので俺も何も言わなかった。

 うん、彼らは実に懸命な判断をくだした。

 一歩間違えれば戦争前に俺達によって甚大な被害を被っていたかもしれないからな。

 余計な破壊をすることにならなくて俺も一安心だ。

 心労が一つ消えた事にホッとして外壁の中に作られた通路を歩いていると、隣を歩いている恵理からも同じくホッとした様な溜息が聞こえた。

 そっちに顔を向けると、俺が見ていることに気付いた恵理が顔を上げて視線を合わせて来た。


「上手く入ることが出来ましたね」

「一時は強行突破になるかと思ってひやひやしたけどな。恵理の御蔭でどうにかなったよ、ありがとな」

「いえいえ、勇者の名前を使えば大丈夫だろうとは予想出来ていたので」


 そう言って笑う恵理の表情には若干だが陰りが見えた。


「恵理……」


 ――大丈夫か?

 本来ならそう続くはずだった言葉は、最後まで口をついて出ることがなかった。

 だが、最後まで言い切ることがなくとも恵理には俺の言わんとしたことが伝わっていた様で、一瞬軽く目を見開いた後にどこか困った様な表情で微笑んだ。


「私は大丈夫です。彼らが勇者に対して抱いている感情は当然だと思いますし、実際それだけのことをして来たんですから」

「恵理……」


 でも、それはお前のせいじゃないだろう?

 恵理は自分の役目を果たすために頑張って来た。

 俺と出会うまでの恵理のことは知らないが、森の中やバロール山脈の生活でなら彼女がどれだけ頑張って来たかを俺は知っている。その頑張りを、努力を……他の勇者共の所業に埋もれさせて否定されていいはずがない。


「雄二君」

「っ」


 今になって衛兵の態度に苛ついて来た俺の感情を見透かしたのか、知らず知らずのうちに食い込む程握り込んでいた俺の拳を恵理の柔らかい手が優しく包み込んでいた。


「私なら大丈夫です」

「でも……」

「ふふっ、別に強がってる訳じゃないですよ? 本当に気にしていませんから」

「誰もお前を見ようとしないんだぞ? あれだけ頑張っていた恵理を、ただ勇者というだけで同じ様に扱おうとするのは……」


 ――本当にそれでいいのか?

 自分のことではないが……いや、自分のことではなく人の、大事な仲間のことだからこそ納得がいかない。

 恵理が正当な評価をされないことに、彼女自身がよくとも俺の感情が納まらないのだ。

 そんな葛藤に苛まれている俺を見た恵理は――


「雄二君はどうなんですか?」

「え?」

「雄二君は私を見てくれないんですか?」


 時折見せる悪戯っぽい雰囲気の無い、どこまでも真剣な色を宿した瞳で俺に問いかけて来る。

 その恵理の表情に、俺は訳も無く気圧されそうになってしまった。


「私は大勢の人に自分のことを見て欲しいなんて思いません。私が見て欲しいのは本当に私のことを理解して欲しい人だけ……私にとって心から大事な人だけなんです」

「恵理……?」

「雄二君はどうなんですか?」

「俺は……」


 先と同じ質問。

 だが、今は恵理が俺に何を聞きたいのか……何を求めているのかはわかっている。


「知ってる……誰も知らなくとも俺だけは知ってるよ。恵理がこの世界に来て……俺と出会ってから頑張ったこと、努力したこと、辛い環境の中で進み続けた事……それを全部見て来たし、決して忘れない。他の誰がどんな評価をしようと俺の中にある恵理の姿は変わらないよ」


 俺の返答を聞いた恵理は、いつもの愛らしい顔ににっこりと笑みを受かべ――


「なら、私は満足です」


 その言葉通り、実に満足気な表情と共にただ一言でもって返した。

 恵理の表情と声音に虚栄や虚飾は感じない。本当にそう思っているのだろう。

 そのどこか吹っ切れている様な……迷いの見えない恵理の様子に、先程恵理に向けられていた視線に対して抱いた憤懣や憤りがゆっくりと氷塊していくのを感じた。

 完全に消え去った訳ではないが、そんな憤りよりも恵理との会話の中で垣間見えた俺に対する信頼の大きさに顔が熱くなり、そっちに意識の大部分を持って行かれてしまった。

 フードを被っていて本当によかった……。

 純粋な信頼を向けられることがこんなにもこそばゆい物だとは……。

 今俺の顔は熟れたリンゴでも及びもつかない程に赤くなっているはずだ。

 はあ……まあ、本人がそれで納得しているなら俺からはもう何も言うことはないだろう。

 これ以上蒸し返しても恵理を信用していない様で不快な感情を与えてしまうかもしれないしな。

 かと言って、恵理が勇者だと知られた時に周囲から向けられる視線の厳しさや負の感情が変わる訳でもないからな。それだけなら俺も我慢するが、もし直接害を及ぼそうとする奴がいたならその時は俺が問答無用で叩き潰すとしよう。

 ひとまず今はそれでいいだろう。


「ふう……」


 もうすぐ通路が終わって王都の中に入る。そろそろ気持ちを切り替えるとするか。

 それからは互いに無言で、だが決して気まずさは感じずに通路を進み、やがて再び太陽の光が降り注ぐ外壁の外に出た。

 通路を抜けた先で俺達を待っていたのは大通りを行き来する商人や冒険者、王都に暮らす一般市民などの多様な格好をした人々と、彼らの間を飛び交う雑多な喧騒。

 戦争が近いためか若干空気の重さは感じるが、それでも人々の活気は失われていない。

 中々逞しいもんだ……。

 戦争に加えて馬鹿なことをしでかしている勇者のこともあるからてっきり街中がどんよりと沈んだ空気に包まれてるかと思ったが、案外そうでもないんだな。

 まあ、俺としてもそんな鬱屈とした街にはいたくないから少しでも活気のある方がいいけど。

 それにしても人が多いな。

 今俺達がいる道幅五十メートル以上はあるメインストリートが通りを行き交う人々で殆ど埋め尽くされている。これじゃあすし詰め状態になった満員電車だ。

 魔物となった際に随分身長が伸びた俺は周りの人々の頭上から周囲の様子がある程度わかるが、背が低い者や女性では前が何も見えないだろう。

 進んでる最中に恵理とはぐれない様に注意しなければ。

 少し離れた場所からはあまりの人の多さに馬車が立ち往生して何やら怒鳴っている声が聞こえて来る。まあ普通に考えてここを馬車で通るのは無理だろうな。

 それにしても王都はいつもこんなに人が多いのだろうか? それともここの通りだけなのか?

 これじゃあ百メートル進むだけでもいったい何十分かかることか……。


「うわあ……凄い人ですね」


 あまりの人の数に辟易していると、隣で街中の様子を眺めていた恵理から驚いた声が上がる。


「恵理が王都にいた時もこんなに人がいたのか?」

「いえ、私がいたころはここまでではなかったですよ。普通に歩くことが出来るスペースはありましたし」


 てことは最近からなのか?

 でもなんでここまで……。


「多分、もうすぐ帝国との戦争が始まりますから、戦場になるオーラル平原の付近に存在する集落や街に住む人達が王都まで避難して来たんじゃないでしょうか。ここの設備なら国境を越えて帝国軍が攻めて来てもしばらくは籠城することも可能でしょう。でも……」


 成程……確かに王国が負ければ次に侵略者の標的になるのは戦端が開かれた戦場の付近で生活している者達だろうな。

 まあ、この王都まで帝国軍の侵攻を許すってことはそれは王国の敗北を意味するから、籠城した所で突破されるのは時間の問題だろうが……。

 さっき恵理が言葉を濁したのはそれを彼女も分かっているからだろう。今も街を行き交う人々や後ろから新たに王都に入って来る人達を見て何とも言えない表情になっている。

 とは言え――


「俺達が勝てば問題ない。だろ?」


 恵理の頭にポンと手を乗せながらそう問いかけると、恵理は最初キョトンとした表情を見せ、その後すぐにその通りだと言う様にコクコク頷いた。

 そう、勝てばいいだけの話だ。

 別に俺にとっては王国の為でもなんでもないが、唯達の為にもこの国には生き残ってもらわなければならない。

 その為に血反吐を吐きながらもここまで来たんだからな。

 さて、いつまでも人混みを眺めていてもしょうがないし、気が滅入るがそろそろ俺達もあの中に入り込まないとな。


「恵理、行くぞ」


 俺は一言恵理に声をかけた後に自然と彼女の右手を取って歩き出した。


「え、あっ、ゆ、雄二君!」


 驚きとちょっぴり恥ずかし気な様子が合わさった恵理の声を聞いて、そこでようやく自分が何をしていたか気付いた。

 し、しまった……!

 俺の頭の中では単純にこの人混みで恵理とはぐれたら大変だと思っただけなのだが、恵理からしたら恋人でもない男にいきなり手を握られればそりゃ驚くだろう。

 いかん……なんだかサバイバル生活や一緒に死線を乗り越えて来たことで俺の中の恵理に対する距離感がおかしくなっている。

 いつの間にやら接し方が幼馴染である女子に対するのと同じくらいになっていた。


「あっ、いや、すまんっ! 別に変な意味じゃなくて!」


 慌てて言い訳していないで普通に説明しろよと自分でも思うが、咄嗟の場合に陥った時は頭に思ってることと実際に口から出る言葉には大きな差異があるらしい。

 これが魔物との戦闘だったらこんなことはないんだが……。


「あっ、えっと、別に私は嫌ではないので……このままで構いませんよ?」


 俺があたふたしている内に恵理の方が早く持ち直した様でフォローしてくれた。

 若干頬を染めながら窺う様に上目遣いになっている姿は中々心にくるものがある。

 なんか……最近本当に恵理は可愛くなって来た。いや、元々可愛らしい顔立ちではあるんだが、今ではほんのちょっとした仕草にドキリとさせられることが増えたのだ。

 それも意図した訳ではなく自然な行動の結果だから尚更だ。

 この子はいつの間に無自覚系小悪魔になったんだろうか?

 いやいや! 今はそんなアホなこと考えてる場合じゃなかった。

 とりあえず、この繋いだ手はどうしようか……。

 恵理は嫌じゃないと言っていたが、気を遣ってくれてるんだとしたらこのままはマズいだろう。

 数秒の逡巡が脳裏を駆け巡った時――


 キュッ。


「恵理?」


 俺と繋がっている恵理の右手に入る力がほんの少しだけ強まるのを感じた。

 その感覚に、もしかしたら俺の願望がそう思わせているのかもしれないが、それはまるでこの手を離したくないと言ってくれている様に感じられた。

 だから――


「……行くか」

「は、はい」


 繋いだ手は離さずにこのまま進むことにした。

 もし間違っていたなら後で平謝りして恵理の気が済むまで怒られて全力で償えばいい。

 それよりも、もし恵理もこの手を離したくないと思ってくれているとしたら、俺の勝手な勘違いでそれを裏切ってしまうことの方が嫌だった。

 でも、そう心配せずともきっと大丈夫だろう。

 何となくではあるが……俺達の間にはこの程度の触れ合いが許される絆はあると確信していた。

 恵理の様子を見た所、恥ずかしいのか頬は若干赤いが不快気な所は見当たらないし……せっかくだ、城門を通るまではこのまま行ってやるとしようか。

 俺は恵理が顔を真っ赤に染めて慌てふためく様子を想像し、そっと微笑んだ。


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