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人外勇者の魔調合  作者: 木ノ下
31/31

28 対面

 王都の中心部にドーナツ状に広がる貴族街を進み、一路貴族街の中心に聳え立つ王宮を目指す。

 街路の左右に点在する屋敷はどれもこれもが広大な敷地面積を持っており、街路に面した庭には美しく管理された花々が咲き乱れる見事な庭園や、俺には理解不能だがおそらく値打ち物なのだろう奇妙な形をしたオブジェなどが無数に見受けられた。

 貴族街の道はそれまでに通って来た平民が暮らしている一般区画の道路に比べ綺麗に整備されており、通りを歩く者や行き交う馬車などは大分激減している。

 どうも貴族街に入るにはなんらかの資格や証明書が必要なようで、貴族位を持たない平民は基本的に立ち入り禁止らしく、そのためすっかり人のいない通りのど真ん中を俺達は我が物顔でずんずん歩いている。

 あ、ちなみに俺達が貴族街に入る時は一般区画と区切られた入口の所で恵理が対応してくれた。そこでも勇者に与えられているらしい証明書を騎士に見せたのだがそれで一発だった。その時に対応した騎士が恵理の正体を知った瞬間おいおい泣き出して恵理の無事を大層喜んでいたのが印象的だった。

 他の勇者はともかくどうやら恵理は騎士達の間で生還を喜ばれるくらい親しまれている様だ。

 ちなみに恵理と一緒に来た俺や、俺が引き摺っている勇者を目にした時はギョッとしてかなり聞きたそうにしていたのだが、そこは恵理が上手く対応して適当にはぐらかしてくれた。

 貴族街に入ってからも数十メートル進む度に見回りの騎士に一々呼び止められて身分証の提示を求められたのだが、その度に恵理の証明書を見せて躱しながら進んで来た。

 まあ、俺達の格好はどう控えめに言っても貴族には見えないから騎士の対応もしょうがないと言えばしょうがないのだが、度々呼び止められているせいで貴族街の入口から王宮までの数百メートルの距離が中々縮まらなくていい加減うんざりする場面もあった。

 まあその様なことがありつつも前に進んでいればいつかは目的地に辿り着くもので――


「ようやく着いた……」


 貴族街の終わり……そしてそれはあらたに王宮への入口でもある。

 今俺達は数百メートルの道程の末に辿り着いた王宮への入口であり巨大な門扉の前にいる。

 門の左右にはおそらく見張りと来客時の対応を兼任しているのだろう六人の騎士が貴族街から突然やって来た俺達の姿を見て若干警戒態勢に入っている。


「行きましょう」

「ああ」


 いったん止めていた歩みを再開し、俺達は特に気負いもなくゆっくりと門に近付いて行く。


「そこで止まれ。何者だ貴様ら? ここがどこかわかって――」


 近付く俺達に誰何を問う騎士達だったが、だんだんと距離が縮まり顔の判別が付く様になると俺達――いや、正確には恵理の方を見て両目をだんだんと見開いて行き、最終的には口もポカンと開けて唖然とした表情になって固まってしまった。

 中には酸欠になったように口をパクパクさせて喘ぐ様な声を出している奴までいる。

 よし、任せた恵理!


「お久しぶりですみなさん。私のこと覚えていますか?」

「な、あ、エ、エリ、さん……?」

「そんな、まさか本当に……?」

「間違いない……よかった、無事であられたか!」


 恵理のが本物だと判明した途端、騎士達はワッと声を上げて喜び始めた。

 うーん、恵理の奴本当に慕われてるな。

 その後なんやかんやと再会を喜んでいた恵理たちだが、そこでようやく騎士の一人が後ろで所在なさげに佇む俺を思い出してくれた。

 やっと出番来た……。


「あの、すみません恵理さん……あちらの御仁は? それと、私の見間違いでなければ彼が引き摺っているのは今朝がた王宮を抜け出して捜索隊が出されていた勇者だと思うのですが……」


 え……こいつら城抜け出して城下に行ってたのか?

 てっきり休憩とか自由時間なのかと思ってたのに……ほんとどうしようもねえな。

 と、そんなことより今は騎士の相手をしないと。

 恵理と話していた他の騎士達も全員俺に注意を向け始めた。

 と言ってもここでも俺から何か話すことなんてないんだけどな。俺が話すと事態がややこしくなるかもしれないし穏便に、かつ迅速に済ませるには出しゃばらずに恵理に任せるに限る。

 俺の役目はこの後すぐ来るわけだし。


「彼のことなら心配いりません。今は王国の窮地に駆けつけてくれた強力な助っ人と思っていてください。そこにいる勇者を見ても分かる通り、街で暴れていた勇者を捕縛したのは彼です」

「なんとっ! まさか勇者四人をたった一人でですか?」

「はい。ですので実力に関しては全く問題ありませんし、身の上も私が保証します。それで、無事帰還したことと彼のことをグラハムさんに報告したいのですが……今はどちらに?」

「団長は……今はおそらく訓練場の方にいるかと。ですが、先程もお話しした通りそこの勇者が脱走したせいで多少騒ぎになりましたので、もしかするとその対応に追われて席を外しておられるかもしれません」

「わかりました。ではとりあえず訓練場の方に行ってみます。もしそこで見付からなければまたその時考えます」

「案内の方は……?」

「いえ、大丈夫です。場所はわかりますし、みなさんの業務に支障をきたす訳にはいきません」

「わかりました。では、今門を空けますのでしばしお待ちを」


 話し合いも特に滞りなく済み、俺達は開け放たれた門から王宮の中へと入って行く。

 再び門が締め切られる前に恵理は騎士達の方を振り返って一言だけ告げた。


「安心してください……勇者の横暴も今日で終わりです」






 王宮の敷地内に存在する訓練場は高校のグラウンド五個分程の大きさの場所だった。

 訓練場内は三区画に分かれており、一対一の摸擬戦用の区画、多対多の集団戦を想定した訓練用区画、最後に魔法職による遠距離射撃訓練区画と、それぞれの区画に騎士達は別れて訓練を行っていた。

 その内の一つである摸擬戦用の区画、そこで黒髪黒目の少年と騎士がそれぞれ十数名ずつ集まっていた。

 黒髪黒目の方が恵理と一緒にこの世界に召喚されたと言う勇者だろう。全員いかにも不良少年と言ったいで立ちで、服をだらしなく着崩しながら無駄に高圧的で偉そうな表情をしている。

 視線を動かして騎士の方に向けると、そこにはいつぞやの森で戦闘を行ったグラハムの姿が見えた。

 ……ん?

 なんかグラハムから発せられる気が大きくなってないか?

 以前森で見た時よりも格段に強くなっている気がする。

 いや、まあそれは取り敢えず置いておこう。

 それよりも先にやることがある。

 勇者と騎士達は何か言い争っていた様だが、俺達が近付いて行くと言い争っていた数人が気付き、それが周囲に伝播して全員が顔をこちらに向けた。

 全員がこっちを向いた途端、やはりと言うか何と言うか門番と全く同じ反応が返って来た。

 全員揃って口と目を見開いて幻でも見ているかのように呆然とした表情を浮かべていた。

 が、その中で一人だけ――グラハムは最初のみ周囲と同じ様に一瞬呆然としていたが、すぐに恵理の隣を歩いている俺に気付いてサッと顔を青褪めさせながら険しい表情を浮かべていた。

 流石騎士団長とでも言うべきか、顔はフードで隠していたがどうやら気付かれたっぽい。


「エ、エリさん? エリさんですか⁈」

「エリさんだ……」

「間違いない……」

「よかった、無事だったのか……!」


 騎士達は恵理の姿を確認するとみな安堵の息を吐いて歓声を上げている。

 それとは対照的に勇者達は恵理の姿に驚いてはいるものの特に喜ぶとかそう言ったことはなく、無言でじろじろと恵理の全身を舐め回す様にして見ていた。


「お久しぶりですみなさん。長い間ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「とんでもありません! 頭を上げてくださいエリさん!」

「そうですとも! あなたが無事だったのならそれでいいのです!」

「よくぞ無事に帰られました! どこか怪我はありませんか?」


 恵理と騎士達が互いに再会を喜んでいる間、グラハムはずっと俺を注視して視線を外さない様にしていた。

 そんなに睨まなくても妙な動きを起こすつもりはないんだが……。

 と、そこで今まで黙っていた勇者達が恵理達の感動の再会に割り込んで来た。


「おう白井、お前一人か? カズ達はどうしたんだよ?」

「そうだよ、お前確かあいつらと一緒に行動してただろ」

「なんでお前だけ戻って来てんだ? つーかそいつ誰よ?」


 空気を読まない勇者達に水を差されたことで恵理達はいったん話を中断して勇者達に向き直る。


「……戻って来たのは私だけです。彼らは亡くなりました」


 恵理は端的に事実だけを述べ、それを聞いた勇者達は一瞬呆けた顔になり、どのような感情による物かはわからないが、顔を真っ赤に染めて恵理に詰め寄ろうとした。


「はあっ⁈ 死んだってどういうことだよ⁈ 何でお前だけ生きてあいつらは死んでんだよ⁈」

「……」

「おいコラぁ! 黙ってねえで何とか言ったら――」

「そこまでだ」


 恵理に掴みかかろうとした勇者の腕を掴んでその動きを制止する。


「ああ⁈ 誰だてめえは! 出しゃばってんじゃねえぞ、俺はこのブスに用があんだよ!」


 ああ? 恵理がブスだと……?

 よし、こいつは一番酷い目に遭わせてやる。


「黙れ。お前の仲間の勇者を殺したのは俺だよ」

「はあぁ⁈」

「聞こえなかったのか? あの三人は俺が殺したって言ったんだよ」

「てめえ……!」


 俺の言葉を聞いた勇者達が一斉に気色ばみ、さらに様子を見ていた騎士達の顔色も一気に変わっていった。


「団長っ、まさかあの男……!」

「待て、まだ動くな」


 当然ではあるがあの時森から持ち帰られた俺の情報は騎士の間で共有済みらしい。

 すぐにでも剣を抜いて斬りかかって来そうな雰囲気だったが、グラハムが先走りそうになった騎士を抑えていた。

 てっきり正体がバレた瞬間に拘束するために動き出すかと思ったけど、どうやらまだ話し合う余地はある様だ。


「おいてめえ! なに無視してやがる!」

「ちょっと黙れ」

「ぐああああ⁈」


 喚き続ける勇者のせいで話が進みそうにないので掴んだ腕を捻り上げて一先ず強引に黙らせた。

 いとも簡単に勇者の動きを制した俺に周囲の騎士から緊張が伝わって来た。


「さて、久しぶりと言うべきか?」

「……何が目的かは知らんが、まさかこの様な場に来てただで帰れるとは思っていまい? あの時とは違いここは我らのホームだ。場合によってはこの場で即刻始末することも可能だぞ?」


 グラハムの言葉を聞いた騎士達が俺を囲む様に移動を始める。さらに別の区画で訓練を行っていた何事かと様子を窺っていた騎士達もなんらかの合図を出されたのかこっちに駆けて来た。

 今この場に集まった騎士はだいたい五百ってとこか……。

 普通だったらこれだけの騎士に包囲されていれば成す統べなくお縄になるしかないだろうが、俺の中には一辺の焦燥も沸き上がらない。

 グラハムも口ではあああ言っていたが、実際そう簡単なことだとは思っていないのだろう。

 チラリと様子を窺ってみれば強張った顔に大量の冷や汗を浮かべている。


「待ってくださいグラハムさんっ、彼は敵ではありません! まずは話を聞いてください!」

「申し訳ないが、例えエリ殿の保証があったとしても正体不明の実力者に対して警戒を怠る訳にはいかないのですよ。現に彼には一度こちら側に負傷者を出されているのですから」

「でも、それは……」

「待て、恵理。この先は俺が話す」

「エリ殿を連れて来てくれたことに関してだけは感謝しなくもないが、それとこれとは話が別だ。妙な目的を持って来たのならば即刻捕縛する」

「その時は好きにすればいいさ。でも、あんたたちにとっても悪い話じゃないはずだぞ?」

「それを判断するのは貴様ではない」

「そうか……なら単刀直入に言わせてもらう」


 俺は周囲を囲む騎士達をぐるりと見渡した後、ちらりと恵理に視線を向ける。

 大きな頷きが返って来たのを確認して再びグラハムに向き直り、告げる。


「迫る帝国との戦争に向けて、俺を雇う気はないか?」


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