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15.求婚


 聞き間違いでなければ、――聞き間違いであってほしいのですが、黒い獣が、お嬢様に求婚をしたように聞こえました。きっと聞き間違いだと思います。


 そして、一考(いっこう)の余地(よち)もなくピシャリと断ったお嬢様も――ああ、やっぱり、聞き間違いじゃないのかも……


 フラれてしまったカリダの王はというと、まさか断られるとは思ってもみなかったという表情で、ぽかんと呆(ほう)けてお嬢様を見つめました。


「……なぜだ?なにか不服があるのか?」


 なぜ不服がないと思うのでしょうか。


「なんでって、……」


 わけが分からない、と言わんばかりに眉を寄せたお嬢様は、今のご自分の姿がどういうものであるかを思い出したのか、途端に口をつぐみました。


「そうか、この体は女だったな……」


 求婚された理由にようやく合点(がてん)がいったようです。


 さて、外野のわたくしたちはしばし絶句しておりましたが、とうとう沈黙を破ったのはかかしさんでした。この状況に耐えきれずに吹き出して、わたくしを抱えたまま肩を震わせました。


「エッ……ちょっ……どういうこと……?なんで結婚……フフッ……」


 めっちゃウケてます。


「あー、えっとね、俺たちカリダはねえ、ちょっと変わった種族なんだよ」


 そんなかかしさんを見て、赤脚(あかあし)が律儀(りちぎ)に答えます。


「異なる種族と交わることで、その種族の特徴を次の世代へ受け継いでいく。それをずーっと繰り返して、より強い魔物へと進化してきたんだ」


「だからこそ、強い力や強い魔力を持った者を見つけたならば、種族を問わず婚姻を申し込む。そういった点で、あの娘は実に魅力的だ。あの魔力を一目見た時から、妃(きさき)になるべき存在だと確信した」


 青脚(あおあし)のほうも、なにやら自慢げに解説しました。


「まさか、そのためにお嬢様の元へ王様をお連れになったというのですか……?」


 わたくしが慌てて問うと、彼らはまったく悪びれる様子もなく長い尻尾を揺らしていました。うう、お嬢様に結婚話だなんてまだまだ先のことだと思っておりましたのに……!


 ドロシーお嬢様の知らぬ間に婚約などしてしまっては事(こと)でございますので、わたくしはたいへんハラハラしながらお嬢様の返答に耳を立てました。


「いや、そうだとしても。俺にはやるべきことがある。却下だ」


 毅然(きぜん)としたお返事!よかった!


「ほう、なにか使命があるのだな」


 黒い獣は声色にやや落胆を滲(にじ)ませながらも、仕方なしと思い至ってくれたご様子です。


「ならばその使命を果たすまで、力を貸してやろう。それを成し遂げた暁(あかつき)には、我が助力に報いるべく、我が妻となるがよい」


 ぜんぜん思い至ってくれてなかったです。


「いや、いらん。それに結婚もしない」


「なぜだ」


「めんどくせえな」


 言っちゃった。


「おまえみたいにデカいヤツがついてきても邪魔なだけだ」


「ふむ、小さき人間からすれば大きく見えるかもしれんが――」


「あーいい。結構だ。行くぞ、トト」


 強引に話を切り上げて、お嬢様はこちらに向かってきました。ご機嫌ななめに見える表情も素敵です。何はともあれ、ご無事でよかった。


「モテちゃって困るねえ」


「うるさいな」


 からかうように無駄にニヤニヤしているかかしさんを軽く小突き、おとなしく待っていた木こりさんには軽く触れて起動の合図。両脇に控えるカリダたちには目もくれず、ほとんど強引に黒い獣の横を通りすぎてレンガの道を進みます。


「ほう、奇妙な道だ。これを行(ゆ)くのだな」


 が、だめでした。当然と言わんばかりについてきています……


「嬢ちゃん、アレ、説得すんの無理だと思うよ」


 かかしさんは半分笑いつつ、半分は同情したように、真後ろの獣を示しました。


「俺はトトと木こり以外に同行を許した覚えはない」


「俺も含まれてないんだ」


 かかしさんも勝手についてきていらっしゃるだけなのでしたね。


「第一、こんな格(クラス)の魔物を連れて他国に踏み入ろうものなら、襲撃と勘違いされかねん。余計な火種になるだけだ」


 たしかに。黄色いレンガの道は、無作為(むさくい)か意図的かはあずかり知らぬところでございますが、勝手に転移をしてしまうのです。東の国から、魔物の森へ。このあと、北や南や西の国へ気づかぬ間に転移をしてしまう可能性もじゅうぶんにあり得ることでしょう。


 魔物の王、すなわち、魔王のような存在を引き連れてきたと知られたら。どう弁明すれば平和的な解決ができるのか、まったくもって想像がつきません。


「案ずるな。おまえの使命が果たされるまで、人間どもは襲わぬ。これで問題なかろう」


 なくはないと思いますが。


「そういうわけだ。おまえたち、我はしばらくここを離れる。あとのことは任せたぞ」


「おっけー、任されました」


「ご無事の帰還を」


 側近たちもノリが軽い……!


 誰一人として止めてくれる人がいなさそうなので、お嬢様もうんざりした様子でため息をついただけで、もう何も言いませんでした。


 最後の仲間――獅子(しし)の頭を持つ、カリダの王。物語のとおりになるなら、仲間となるのは臆病なライオンのはずなのに、どういうわけか。


 ……思い返してみれば、かかしさんもブリキの木こりさんも、その名が示すものとはちょっとだけ違いますし、そもそもお嬢様は『東の魔女』でしたし。物語のように進んでいるのか、進んでいないのか、分かりませんね。


 単純な戦力でいえば申(もう)し分(ぶん)ないメンバーなのですが、無事にエメラルドの都へとたどり着けるのでしょうか。


「では行(ゆ)こう、我が妻よ」


「話聞かねえなこいつ」


 うーん、心配でございます……!


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